第8話
お母さんがいなくなってしまった今、眞心を立派に育てるのは私の役目だ。
酔っ払いで噓つきのお父さんなんかには任せられないし、歳をとり過ぎて時代錯誤も甚だしいおばあちゃんにも、小さな女の子をまっすぐに育てるのは無理。
お父さんの弟のシゲちゃんは寡黙で優しいお兄さんだが、時々私のことをいやらしい目で見てくることがある。ほかの誰もそのことに気づいてないけど、おばあちゃん家に住みはじめてから身の危険を感じることがしばしばある。
廊下ですれ違うときにわざとぶつかってきたり、私の胸をじろじろ見て「おっぱい大きいな」と言われたりしたこともある。
「ピンクレディーの歌の意味、ほんまにわかって歌ってんの?」
わかってるよ。そんなん、シゲちゃんに言われなくてもわかってる。だって私はシゲちゃんなんかよりピンクレディーのことはよく知ってるし、大好きやねんから。
「恥ずかしくないの?」
なんで? 恥ずかしいわけない。
きっとシゲちゃんは、ピンクレディーの歌をエッチな意味に捉えて言ってるんだと思う。でもそれは絶対に違う。だってどんなに繰り返して歌ってみても、エッチな歌詞なんて思ったことない。
それにピンクレディーは真子みたいな小さな子にも大人気で、そんな子たちにそんな変な歌なんて歌わせるはずないんやから。大人は私らなんかよりずっと賢いねんから、そんなこととっくにわかってるはずや。
シゲちゃんはこんなふうに変に深読みしたり、たまにすごくひねくれたことを言う。でも私としては、そういうシゲちゃんはどの大人よりも正直だし、大人の中では信頼できるほうだと思っている。
お父さんとは歳が二つしか違わないけど、見た目はぜんぜん若い。子どもの心をあまり失わないまま大人になった珍しいタイプの大人。だから私みたいな子どもたちからも、おじさんじゃなくていつまでもシゲちゃんと呼ばれているのだろう。
シゲちゃんは昔、おばあちゃんの世話をしないといけないという理由で、決まりかけた結婚を破談にしたことがあったそうだ。
きっとヨッキュウフマンなのだと思う。
オツムはちょっと弱いところはあるけど、眞心はわりにかわいいほうなのでもう少し大きくなったら心配。シゲちゃんのためにも、できるだけ早く眞心と二人であの家を出ていく必要があった。だから私は今、その準備を着々としている。




