第6話
突然強い風が吹いた。
まるで誰かが仕組んだみたいに、わざとらしい風。
手から切符が離れた。そのままゆっくりと空に吸い込まれていく。頭の中はすごく早く回転して何もかもわかっているのに、身体はスローモーションにしか動かない。手足が重い。切符は、風にのってどんどん遠くに去っていってしまう。
あっという間に、切符は輪郭から青い空に溶けて、限りなく小さくなって、なくなってしまった。
「なにやってんのよ、もう。情けない、あんたは、いつもいつも。どうしてお母さんを困らせることばかりするのよ」
お母さんはもう一度、切符を買いなおしたあと、もう私にはくれなかった。大人の証明はあんたにはまだ早い、と言われたみたいだった。
あれは突然吹いた風のせい。私はちゃんとわかっていたし、普段なら絶対になくしたりしない。ちょっとした油断だった。そんなこと大人にだってよくあることなのに、自分のことは棚にあげるのが得意。
そのあとお母さんは一言も口をきいてくれなかった。
私はお母さんにとって、ちっともいい子じゃなかった。
眞心のことは、お父さんもお母さんも、そして今一緒に住んでいるおばあちゃんもシゲちゃんも、みんな大好きだけど、私のことはちょっと厄介だと感じている。
私にはそれがよくわかる。
大人たちは近所の人も含めて、私のことを脳みそがふにゃふにゃのバカな子どもだと思っているが、本当は全部お見通しなのに。脳みそが乾涸びて縮こまってバカなのは自分たちのほうなのに。
そう考えるたびに、私は絶対に今の自分を忘れないでおこうと心に誓う。
漫画を読むと頭が悪くなるからやめなさいなんて、つまらないことを言う大人なんかにぜったいならない。私は大人になっても今と同じように漫画を読み続けるだろうし、今と同じくらい面白いって思い続けようと決めている。
「最近お母さん見いひんけど、どないかしはったん?」なんて、ちゃんとうちの事情を知っているくせに、知らないような顔をしてわざとらしく、興味本位で聞いてくるようなくだらない大人になんかにはぜったいにならない。
私はまたポシェットを開けて、切符が二枚ちゃんと入っているのを確認した。




