表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トガミキタへ行きたい  作者: 宝や。なんしい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/34

第5話

 電車がゆっくりと動きはじめる。


 もう行くしかないと思うと、なんだかほっとした気分になった。

 開いた窓の向こう側からは、黄色と緑色の絵の具を一対一で混ぜて、そこにマリンブルーを少し加えたような複雑な色の草が大げさに揺れていて、私たちの勇気ある旅立ちをまるで祝福してくれているみたい。


 つるつるした葉の一枚一枚の表面に太陽の光があたり、縦横無尽に光線を放つ。眩しくて目を開けていられない。電車のがたがたという音と振動が、私の心臓のどきどきを消してくれている。


 あれ、なんだろう、この感じ。

 懐かしいような、あまり思い出したくないような。


 電車が青い空に浮かんで走っている。飛行機をマネして白いうんこをぶらぶらぶら下げて。頭の中がもやもやする。


 そういえば眞心(まこ)がまだ産まれる前には、よくこうやってお母さんと二人で電車に乗ったっけ。どこになんの用事のためだったのかはわからないけど、お母さんはいつも疲れていて、だいたい不機嫌だった。


「しっかりと持ってなさいよ。なくしちゃダメよ」


 あれはどこの駅だったのか。高架の上にあるホームからは、たくさんの家やビルの屋根がずらずらひしめき合っているのが見下ろせた。おもちゃみたいにちゃちで、手のひらで払うとざらざらと簡単に崩れてしまいそうだと思った。


 はじめて自分専用にとお母さんから渡された切符。嬉しくて嬉しくて、ずっと手に持って眺めていた。


 青い空は傷ひとつなくまっさら。どこかで鳥がピーと鳴いた。変な鳴き声だけど、たぶん鳥。


 切符を両手で高く持ち上げて透かしてみる。何も透けては見えなかったけど、青い空がそこだけぽっかり切り取られた。

 切符には私が住んでいる町の名前が書かれてある。まだ漢字はちゃんと読めない頃だったけど、自分の町の名前であることはわかった。


 急に大人になったような気がした。


 そうだ、あのときお母さんのぷっくり膨れたお腹の中には、まだ産まれていない眞心がいた。もしあの時、眞心も一緒にいたら、きっと私の真似をしたがって面倒だったに違いない。


 眞心はできもしないくせに、なんでも私の真似をしたがるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ