第28話
「もしもし」
おばあちゃんの声だった。やった、繋がった。でも、なんだか機嫌が悪い。
「あ、おばあちゃん。私、あこ」
「葵心か、何やってんやな。眞心も一緒か? こんな時間まで、どこにいてんねん」
「電車乗り間違えてお父さんとこ行かれへんかってん。まこちゃんもおるよ。今、ミクニガオカっていう駅にいてるねんけど、迎えに来てほしいねん」
私は慌てていた。とにかく電話が切れてしまうまでに、説明しなければいけない。
「ええ? なんて? ミクニガオカ? どこや、それ。そんなんおばあちゃん、わからへん。知らんで。ええから帰っといで」
おばあちゃんはしょっちゅう怒っているが、今日は特別機嫌が悪い。まくしたてられたあと、電話は切れた。
さて、どうするか。
清潔駅員がミクニガオカ駅に着いたら駅員に聞きなさいと言っていたことを思い出した。また知らない大人に声をかけないといけない。
眞心が心配そうに、どうしたん? おばあちゃん、おった? と聞いてきた。眞心に電話を代わるべきだったかもしれない。私はまた失敗してしまったのだ。
ミクニガオカ駅の駅員におそるおそる声をかけてみると、ああ、聞いてる聞いてる、と微笑んで泉北高速線の駅のホームまで案内してくれた。そして「喉乾いたやろ」と言って、手に持っていた缶のオレンジジュースを眞心の分と二つくれた。
駅員は眞心の頭を撫でながら「お姉ちゃんと、遠いとこ行ったんやな。冒険やな。良かったなぁ、電車いっぱい乗れて」と言うと、眞心は、うん! といいお返事をした。
良く冷えたオレンジジュースは、ごくごく飲んであっという間になくなってしまった。身体中の血管を通って、人差し指の爪まで潤っていく感じがした。
トガミキタの駅は、きれいな駅だった。
河内長野駅みたいに古くて薄暗い駅とは全然違う。
トガミキタ駅のホームに「栂・美木多」と書かれたプレートが、高い天井からぶら下がっていた。やっとトガミキタという漢字を知ることができた。変な字だし、真ん中の「・」もよくわからない。お父さんは毎日こんな変な名前のところで働いているんだと思った。




