第26話
お父さんとお母さんはいつもお金が原因で喧嘩をする。
うちが貧乏だから。貧乏というのはみっともないしよくない。
みんなでご飯を食べに言っても、最初は仲良く笑いながら食べているのに、お酒を飲んでだんだん酔っぱらってくるとお金の話をしはじめる。
そうするとお父さんはすごく声が大きくなって、鬼みたいな顔になって、お母さんも負けじと大きな声を出して大喧嘩がはじまる。
周りの人たちに迷惑をかけているように思うけど、実際は興味津々で見ている人のほうが圧倒的に多い。
なんとか面白い話をして、気を逸らそうとしても、いつもタイミングを間違えてしまって余計に雰囲気を悪くしてしまう。そして巻き添えをくって、お父さんからもお母さんからも、なぜか叱られる羽目に。そのうち二人はどんどんヒートアップして、どうすることもできなくなってしまう。
私は早々に諦めて、漫画のストーリーでも考えながら関わらないようにするのが一番だということを学んだ。
もし漫画で賞をもらうことができたら、賞金は二人に渡すものだとばかり思っていたが、それはまったく浅はかな考えだ。
なぜなら、お母さんが実家からなかなか戻って来なかったとき、突然家に真新しいロココ調の食器棚がやってきたことがあった。
ピカピカした金色の、あちこちウェーブのかかったデザインの、変な匂いのする大きな食器棚はうちの家にはまったく似合わない。この食器棚と同時にお母さんが戻ってきた。
お父さんはひどく有頂天で「葵心、眞心、見てみい、ええやろお。これ、このみずや! かっこええやろお、高いんやでえ」と、唾をまき散らしながらはしゃいでいた。いつの間にか仲良しに戻っていたお母さんと、今にも踊り出しそうな勢いだった。
うちが貧乏であることは、今よりももっと脳みそがふにゃふにゃしていた眞心でさえ、ちゃんとわかっていた。
私がどきどきしながら「いくらやったん?」と聞くと、お父さんはふがふがと鼻を鳴らして何度も息を吸ったり吐いたりしてから、両手の指を使って八を示した。
そして酔っぱらってむくんだ赤い顔で「八万円とちゃうでえ、ええ? わかるか? ええ? 八千円? ちゃうちゃう。八百円? ちゃうちゃう、なんぼかわかるか?」と、ひとりでしゃべって大興奮している。
できることなら聞きたくなかった。私はわざと
「八億円!」と言ってみた。するとお父さんは、うひゃあ~、葵心はえげつないこというなあ~と大げさに倒れてみせた。
「えへへへえ、八十万円やあ。汚したらあかんでえ」
いったいそんなお金がなぜうちにあるのか。八十万円もする食器棚がそんなに必要だったのか。色んなことが頭の中をよぎった。
お父さんとお母さんを大興奮させたお金の出どころは、どうやらおばあちゃんのようだった。おそらくその大金のおかげで、お母さんはまた眞心を連れて帰ってきたのだ。
お母さんはよく家計簿とにらめっこしながら、お米がとかお酒がとか暗い顔をしてぼやくことがあったが、その支払いをおばあちゃんにもらったお金でしたのだろう。
余ったお金の使い道が、この金ぴかの食器棚だというわけだ。
いったいおばあちゃんをどうだまくらかして、そんな大金をせしめたのか。こんな悪代官みたいな、せこくてバカな大人になんて絶対にならないと、強く心に誓った。




