表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トガミキタへ行きたい  作者: 宝や。なんしい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/33

第24話

 和歌山市駅はとても大きな駅だった。


 そこに行き交う大勢の人には、なぜかみんな顔がない。忙しく動き回る人々の動作には、ちょっとどこかに顔を置き忘れて来ちゃったみたい、というような気軽な感じがした。


 全身も銀色で透けていて、目を凝らしてもはっきりと見えない。ぺらぺらに薄く、歩くたびに海の中の海藻みたいにくにゃくにゃと揺れていた。


 絶対離れないように、眞心(まこ)の手をしっかりと握る。


 和歌山は怖いところだと思った。


 改札口に行くと半袖の白いシャツを着た駅員がいた。とても清潔そうで、海藻みたいな気持ち悪い人間の姿ではなかった。


 もう私の力では、どうしようもできない。私は、とうとう自覚した。


 ただ眞心にはこの不安を覚られてはいけない。威厳を保たなければ。眞心にとって私は、そのへんの大人たちよりずっと信頼度は高い。あこちゃんはなんでも知っているしなんでもできると思っている。眞心の夢を決して壊すわけにはいかないのだ。


「ん? トガミキタ? トガミキタって、ええ? ここに行こうと思たん? なんで? 河内長野から乗ったんやろ? 全然ちゃうで。ここ、和歌山やで」


 知ってるよ。だからどうしたらええか聞いてるんやん。大人のくせにそこは察してほしい。むやみに声が大きくて恥ずかしいヤツ。ほら、みんな見てる。中学生くらいの女の子らが集団でこっち見て笑ってる。清潔そうでもおっさんはデリカシーがないんやから、まったくもう。


 清潔そうな駅員は、別の駅員に声をかけた。お父さんに会えないという事態をまるで想定していなかったので、財布の中には十五円しか入っていない。ここからトガミキタまではどのくらいお金がかかるのだろう。喉がからからになった。


「この電車に乗っていけばいいよ。それでミクニガオカで乗り換えんねやで。連絡しといたから、そこの駅員に言うたらちゃんと教えてくれるし。ほら、ここに書いてあげたから、この通り行ったら、ちゃんとトガミキタに行けるから」


「あのう、お金、ないんですけど。あと十五円しか」


「ええよ、ええよ。お金はええから。間違えただけなんやし。さあ、この切符、しっかり持って」


 そう言って、清潔駅員はトガミキタ行きの切符を返してくれた。慎重にその切符をポシェットにしまう。振り向くと、清潔駅員ともう一人の駅員が手を振っていた。


 眞心は嬉しそうに何度も振り返っては手を振る。腕が根元からもげてしまうんじゃないかと思うくらい、力いっぱいに振る。私もせっかくなので小さく手を振ってみた。


 清潔駅員が「間違えただけなんやし」と言ってくれたことが、なんだかすごくほっとした。


 そうや、ちょっと間違えただけやねん。連立方程式のXとYを間違えたみたいに。アルトリコーダーの指の押さえる場所を間違えて、ピーって変な音が出てしまったみたいに。たいしたことちゃうねん。


 そんなことを考えていたら涙が出そうになって、慌ててこらえた。まだ終わっていない。こんなところで泣いているわけにはいかない。


 清潔駅員が渡してくれたメモを見ると、ミクニガオカと書かれていた。あった。ミクニガオカ。やっぱり実在する駅名だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ