第23話
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
でもでも、隣町の中学校に行ったら、もう絶対に水野に会えなくなってしまう。
お母さんも帰ってくる場所がなくなってしまう。どうしよう。頭の中がふにゃふにゃとして、どうすればいいのかわからなくなってしまった。
「でも、あごお、てんごうしたぐない」
固まったチューブを無理やり押し出したみたいにしてしゃべったから、あこがあごおになって、すごく変な声になってしまった。
ちい兄ちゃんの、くすりと笑ったような声が聞こえて、背中の真ん中が熱くなった。まわりはしんとして困った子やみたいな、呆れたような空気が流れている。
ここでおばあちゃん家に行くのを反対しているのは私だけ。
せやけどな、みんなは知らんからわからんのやろうけど、お母さんはまた帰ってくるんやで。だって約束したんやもん。
太陽に向かって真っ直ぐにひばりが昇ったり墜ちたりしていた、あの日。あのときの、ピチピチうるさいひばりの声が頭の中で響く。
うるさい、うるさい、うるさい。
大人たちは、私の「うん」を待っている。真っ白な顔をして、じっと私をみつめたまま。
膝の上の、ぐうにした両手の甲を目に力を込めて見つめた。泣くのは絶対に嫌だった。きっとちい兄ちゃんがそれを見て笑うし、大人たちに葵心はすぐ泣くからなと言われるのも嫌だった。
話し合いとか言いながら、もうほとんど決まってるんやんか。私の意見なんかこの人たちは欲しいわけじゃない。それやったらこの会に参加しても意味ないんちゃうん? 悔しい。
「あのさあ、籍だけ今の家に置いといたらええんちゃう? とりあえず、葵心が中学卒業するまでの三年間、ていうか、眞心が小学校卒業する六年間だけでもや。そしたら、今の学校に通い続けられるやろ。空の家賃払うんもったいないけどや」
シゲちゃんが冷静な感じで提案した。みんなその案を聞いたら急に、解決策が見えてきたようだった。隣町にあるおばあちゃん家からだと今の学校に通うのは大変だから「俺が毎朝、車で集団登校の待ち合わせ場所まで送って行ったるわ。帰りはちょっと遠いけど歩いて帰れるやろ」とシゲちゃんが言ってくれた。
そしてこうしてああしてこうすればいいやんかという風に、複雑に絡まってしまったあやとりの紐が急にほどけ始めたみたいに、話はとんとん拍子に進んでいった。
おかげで私も眞心も転校せずに済んだのだった。
シゲちゃんは本当に頼もしい。たくさんいるお父さんのきょうだいの中で末っ子とは思えないくらいに落ち着いていて、みんな一目を置いていているけど、その理由はこの一件でよくわかった。




