第18話
真っ白。
目の周りにはぐるぐる巻きに青色のアイシャドーが塗られていて、睫毛がバサバサ貼りついている。
お目々はぱっちりだけど、まるで宝塚の人みたいに誰が誰かわからないくらいの厚化粧。
そんなん聞いてへん。どうしよう。こんなん私にはできない。
慌てて周りを見渡す。誰か、誰か助けてくれそうな大人。少し離れたところに、ふっくらとして優しそうな感じのおばさんを見つけた。勇気を振り絞って行こうとしたら、後ろから「あら眞心ちゃん」と言って馴れ馴れしく近づいてくるおばさんがいた。
おしゃれな服を着たお金持ちそうなおばさん。そういえば、眞心の舞台のことしか考えてなくて、自分の服のことなんて考えてなかった。
大きな鏡にうつっている自分の姿を横目でこっそり見る。お気に入りだけど着古したTシャツにGパン。やってしまった。お父さんは? そう言えばチンピラみたいな、柄のいっぱい入った派手なシャツを着ていた。あかん。
「はるみちゃん」
眞心がほっとしたような嬉しそうな顔をして、はるみちゃんの名前を呼んだ。
「お姉さんが用意してくれてたの? よかったねえ眞心ちゃん。お化粧はおばちゃんがしてあげるね。こっちおいで」
私はなんだか情けなくていたたまれない気持になった。おばさんに化粧品はある? と聞かれて、ない、とこたえた。
箇条書きの用紙には化粧品のことなんて書いてなかった。どうしようと不安に思っていると、おばさんは私の心を見透かしたみたいにして、大丈夫、はるみのでいいよねと言って、真四角の箱を手品みたいにひろげ、中から次々と化粧品を出していった。
眞心はシンデレラみたいにあっという間に変身した。みんなと同じ化粧だけど、やっぱり眞心だけは誰よりもべっぴんさん。
出番のぎりぎり前になって眞心が「あこちゃん、リボンむすんで」と集合場所から一人で戻ってきた。それで髪にリボンが結ばれていないことに気がついた。
忘れてた。慌ててバッグの中から、眞心の一番お気に入りのレースのリボンをとりだしておだんごに結んだ髪の上から結んであげた。
私がリボンを結ぶと、たて結びになってしまう。
お母さんは眞心のさらさらした髪を三つ編みや編み込みをしたりしたあと、仕上げにいつもきれいにリボンを結んであげていた。最近は誰も眞心の髪を結んであげる人はいない。
たて結びの不格好なリボンを揺らしながら、眞心は舞台裏へと走っていった。




