第16話
「あこちゃん、おなかすいたあ」
はしゃぎすぎてくたびれたのか、すっかりおとなしくなってしまった眞心が、疲れた顔をして私を覗き込んだ。
こんなに小さいのにお母さんを失った眞心は、私よりずっと不憫だ。ブラジャーのことを「乳パッド」と呼ぶようなおばあちゃんに、やっぱり眞心を任せられないな、と改めて思う。
念のために持ってきた板チョコをポシェットから取り出した。ツチノコ探しの冒険をするためには必須アイテム。遭難したときは、チョコで一週間は生き延びることができる。こういう知識がこんなところで役立つとは思わなかった。
そのまま眞心に渡すと、不器用にチョコレートを半分に割った。随分大きさの違ってしまった左右のチョコを、しばらく難しい顔をして眺めたあと両手を後ろに回す。
「あこちゃん、みぎ、ひだり、どっち?」
眞心は小さいくせに食い意地が張っていて、半分コにする際には必ずこうやって私に聞きにくる。私はいちいち考えるのが面倒なので、必ず「右」とこたえることにしている。脳みそがふにゃふにゃだけどこういうところは機転が利くらしく、眞心はそれを見越して右手に小さい方を持つようにしているのだ。
私はお姉ちゃんなので、それをちゃんとわかったうえで、右を選んであげるようにしている。
「右」
私が手を出すと、眞心は嬉しそうな顔をして、チョコレートを手のひらにのせてくれた。よく見ると、私の手にのっているほうが大きい。
「あれ? まこちゃん、あこちゃんのほうが大きいよ。いいの?」
そう言うと、不思議そうな顔をして、
「だって、あこちゃん、みぎっていうたやん」
眞心にも何か伝わったのかも知れないな、と思った。今日の冒険が失敗だったんじゃないかっていうこと。眞心もきっといろんなことを我慢して言えずにいるのかも知れない。
「あこちゃんお腹いっぱいやから、そっちの小さいほうがええなあ、交換してくれたら嬉しいんやけどなあ」
そう言うと、三角おにぎりみたいな顔をぱっと赤くして、そうなん? しゃあないなあ、ほんだらかえたげる! と元気いっぱいにこたえた。
眞心はバレエを習っていた。幼稚園でお友だちになったはるみちゃんが習っているというので、誘われて一緒のバレエ教室に通うことになった。
うちは貧乏なので、バレエなんて私には夢のまた夢の習い事だと思っていた。そろばん塾とお習字は行かせてもらったけど、わたしはどっちも好きじゃなかったし誰とも仲良くなることはなかったので、すぐにどちらも辞めてしまった。
眞心はお嬢様のはるみちゃんより、見た目はかわいい。親バカではなくて、客観的に見てもすごくかわいいと思う。だからバレエのふわふわキラキラの衣装もとてもよく似合う。




