第12話
今年の春に、私は中学生になった。
ゴールデンウイークがあけて、新しい学校や教室や制服やクラスメイトたちにもようやく慣れてきたころ。朝礼が終わって体育館から教室に戻ろうとしているところで、担任の前田に呼び止められた。
一緒に歩いていた同じクラスの子らが、振り返って私と前田を見る。変に悪目立ちするのは好きじゃない。
「おい福山、おまえ、お母さんどうした?」
「は? お母さん?」
「帰ってきてへんのか?」
「………」
お母さんが何も言わずに帰って来なくなって、一週間が経っていた。
我が家では結構な重大事件だったが、それがなぜ担任になったばかりの、あまり馴染みのないこのじじいが知っているのか。
ここは、なんとこたえるのが正しい? だけどこのとき私は迂闊にも、少々パニックに陥ってしまっていた。
「別に、帰ってきてますけど」
そうこたえると、前田は不思議そうな顔をして、そうかと言った。
周りのクラスメイトに聞かれていないかひやひやする。何を知っているのかわからないけれど、じじいはデリカシーがなくて困る。
その日の午後、あと一時限授業を残したところで、前田に帰り支度をしなさいと言われた。ただならぬ雰囲気に、なんとなくそういうことだろうと察しはついた。
チャイムが鳴って授業が始まって誰もいなくなった静かな廊下を下足室に向かっていると、お母さんがにやにやして立っていた。気持ち悪い。
「ごめんねえ」
涙を浮かべている。私は目を逸らした。みっともないと思ったし、この姿を誰にも見られたくなかった。
私たちは何とはなしに校門を出て歩きはじめた。ずっと無言だった。どこに行くのか、この人はこれから何を言うつもりなのか、不安だった。
ただ、私は何を言われたとしても、絶対に言おうと決めていたことがあった。




