第五十三話
山荘に戻ってユリスと二人して、紅茶を飲みながら寛いでいると、ノック音とともに執事長が入ってきた。
「早速、白蛇様のお遣いがやってきたのかもしれないね?」
などと戯れを言っていると、なんでも屋敷からの火急の知らせだと執事長は言う。それだと会わない訳にはいかない。使いの者を部屋に呼び入れた。
使者は片膝と片腕を付いて、火急の知らせとやらを告げた。
「以前、お嬢様に助けられたという少女二人が、屋敷を訪れております。キナとランと名乗る二人なのですが、陛下の親書を持参しておりまして、姫様とお嬢様宛でございますので、我々共では対処しかねております次第でして……」
ボクはユリスと目を合わせた。確かにその二人は助けた。助けたが、少女ではなく、精霊と聖獣だったはずだ。大学院への報告書には全く触れてはいないが、こんな冒険もあったんだよ、とユリスには語って聞かせてあった。
「ご苦労でした。折返しの使者はこちらから出しますので、下がって休むように」
ユリスはそう命じるとボクに向かって言った。
「陛下の親書となると確かに火急ね。ここにはすぐに来られるのだから、明日の朝、立って一旦帝都へ戻るとしましょう」
でも、あなたが言っていた助けた二人って少女ではなかったような気がするのだけれど……、と首を傾げるユリスに、ボクはそうだよと応えた。
とにかく、こちらからの使者を出す必要がある。
護衛を兼ねて伴っている一人を呼び出し、ユリスはテキパキと命令を下す。
「明日の朝ここを立って、屋敷に戻る、と伝えるように。お客様には屋敷にお泊りいただき、丁重にもてなすように。対応はジュンシに任せなさい」
そう告げ、慌てなくてもよいから、でも急ぐように、と付け加え使者を送り出した。
「精霊や聖獣が少女に……まさか人化できるとは」
もう少し詳しく話を聞きたいから、先程の使者に会ってもよいか? とユリスに問い掛けると、どうかしら? と言う。執事長に聞いてみたが、彼は単なる伝言役で、伝えてきた言葉が彼の知っている全てでしょう、とユリスと同意見のようだ。
「こういう時は、そう焦っても仕様がないものよ。明日の昼までには全てが分かって、片付いているはずだから、今日はゆっくりと休みましょう。でも、慌ただしいと言えば慌ただしいわよね」
ゆっくりと初登山の感激に浸る間もないなんてね、とやはりユリスは腹の据え方がボクとは相当に違うらしい。
使者の言う通り、応接室に入ると二人の少女がボクたちを待っていた。
確かに少女だった。ボクたちが応接室に入るなり立ち上がりお辞儀をした。
ひとりは背が高く、出る所は出て引っ込む所は引っ込んだスタイルの良い体型だった。亜麻色の髪をショートカットにして清潔感があり、とても落ち着いて見える。鳶色の瞳は二重瞳孔になっているようで、それがちょっと茫洋とした印象を与えはするが、メリハリのあるハッキリとした顔立ちの美人だ。
もうひとりは亜麻色の髪の少女の胸あたりまでしか背はなく、幼児体型気味で、ボクよりも胸はなさそうだ。碧の黒髪を背中の中ほどまで伸ばしており、キラキラと輝いて見える、黒い瞳はやや黒目ががちで、好奇心旺盛なのかくるくると良く動きそうだ。鼻筋も通り、こちらは可愛らしいという印象だ。
二人は立ったまま、何も言わずに封書を差し出した。皇帝陛下の親書だ。
二人に座るように促すと、ボクたちも座って親書の封を切る。
「この親書を持つ二人を、ユリス・デ・ライデルとミスミ・ミタマに委ねる。委細は二人の言う通りに運ぶように」
それだけ書かれていたが、陛下のサインもあり、本物に間違いはなさそうだ。
「分かった、とは言えない内容ね。委細は二人に、と書いてあるけれど……」
ユリスが言うなり、また二人は立ち上がり、
「私たちは、お二人にお師匠になってもらいたくて、やって来ました。あ、紹介が遅れました。私はラン・フランシーヌ。精霊です」
小さい方が自己紹介をすると、もうひとりもゆっくりと自己紹介をした。
「私は、キナ・ルーリーです。聖獣です」
ユリスとは初対面になるから、自己紹介はいいとして、師匠になってくれというのは訳がわからない。
「師匠と急に言われても、意味がよく分からないし、陛下の親書を持って来たっていうのも説明してもらわないと……」
確かにユリスの言う通りだ。
「そうですね。順を追って話をしないといけないですね。先走ってしまいました」
なんでも、あの後、二人は大目玉を食らったそうだ。
こっそりと二人して出掛け、洞窟遊びをしていたのはいいとしても、うっかりとレギオンワームのテリトリーに入り込んでしまって、命を落としかけ、それをたまたまいたボクに助けておいてもらって、ただ礼を言っただけで済ませてしまった。何という愚か者たちだろう、と散々だったそうだ。
ボクは名前を告げていたので、色々調べたそうだ。ライデル杯の後、ユリスの屋敷で暮らしているボクは、足繁くギルドに通い、様々な依頼をこなし、二人が命を落としかけた時も、ギルドの調査でたまたま、あの洞窟を訪れていたなどなど。
「それをそれぞれの親に告げたところ、そのようなお前たちでは、これから先が心もとない。お礼方々社会勉強をしてこい! となりまして、こちらの皇帝陛下への親書を下賜された、という訳です」
そういう訳です、とランは言うが、言われても意味が分からずボクたち混乱してきた。キナは無口な性格なのか、ランがほとんど喋り、キナはいちいち頷くだけだ。
「親書? 下賜? そのあたりはどうなっているんだい?」
ボクが尋ねると、またしてもランが言った。
「あ、伝え忘れていました。私たち二人は同日に生まれた大の仲良しなんですけれど、精霊の国と聖獣の国は表裏一体というか、力をひとつに森と大地を守っているのです。私は精霊王の末娘で、キナは聖獣女王の長女なんです」
え? 精霊王と聖獣女王? とすると二人はお姫様? と聞くと。
「一応そうなっていますが、そう大したものではありません。そちらのユリス様に比べれば」
さらにランは続けるのだった。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】




