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欠落した満月と冷酷な太陽  作者: 武臣 賢
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第五十二話

 ボクとユリスは一歩ずつ登っていく。

 しっとりと濡れてしまうわけではないが、念には念をいれて、防水と防寒の魔導術をユリスに掛けてもらっている。登山口は最初の祠のすぐ近くだった。ボクはユリスにフックの付いたロープを手渡し、ぐるりと腰にまわしてフックを掛けるように言った。これで万が一はぐれても、滑落しても心配がない。

 出発前に少し心配しすぎだろうかと思いもしたけれども、実際に心配のしすぎだった。道は坂道とはいっても傾斜は緩やかで、脇には杭が打ち込まれロープが張ってある。ボクはちょっと恥ずかしくなって、ユリスに言った。


「ごめんユリス、心配しすぎて張り切り過ぎたみたいだ。フックはもう外してもいいよ。でも、困ったらちゃんというんだよ」


 最後の一言は負け惜しみみたいなものだ。ユリスはくすくすと笑いながらフックを外した。


「にしても、真っ白なのは惜しいわね。ちゃんと景色が眺められれば、もっともっと楽しめた登山だったのにね」


 ユリスは悔しそうだ。

 道は右に左にと曲がってはいても、石畳が敷かれ、とてもよく整備されていた。霧で近づくまでは気が付かなかったが、案内の看板まで用意されていて、それだけでも山頂も見どころの一つなのだと分かる。

 山頂にはおそらく昼前には着いていた。あたり一面乳白色の霧に包まれてはいるが、風があるのだろう、霧が流れ始めていた。

 祠はこちら、という看板に苦笑しながら、ボクたちは祠に拝礼した。目抜き通りにあったものと同じ白い大理石でできているが、大きさは二周りほど小ぶりで、祠を覆う社殿もなかった。

 しかし、手入れは行き届いており、毎日かあるいは一日おきにでも誰かが来ているのか、花が手向けてある。

 祠の周りはちょっとした展望台になっていて、柵とベンチが用意されていた。


「少し早いけれど、ランチにしちゃおう。その分だけ荷物も軽くなるから」


 リュックから小さなバスケットと水筒を取り出す。

 ベンチに座り、霧と雲を眺めながらのランチとなった。天候が良ければ、ここから西の方角には帝都が、それ以外の方角には連なる山々が眺められるはずであった。

 さて行こうかと、腰を上げ、荷物をしまっていると、何気なく祠に近付いたユリスがあるものに気が付いた。


「ねえ、ここに刻印が打ってあるわ」


 それは屋根のひさし側面に打ってあり、白蛇様に献上する旨と番号が刻印され、山頂のこのひさしには一番と打たれてあった。ボクはひさし側面をタオルで水分を取り除くと、拓本を取り、一応メモもしておいた。


「順番があるなんて、おっちょこちょいな神様の割には数字にはうるさかったのかな、戻ったらこの数字の由来を確認しないと行けないかもしれないね」


 山中の二つの祠へも、整備された山道を使えば、苦もなく行ける。ガイドマップによると、頂上へと向かう途中を右に折れれば山中北側の祠に行き着くと書いてある。看板を見失わないように注意しながら下っていく。

 山中北側の祠は鬱蒼とした林の中にあった。周りの木は常緑樹なのだろう、霧に包まれた緑の木々の中にポツンと立つ祠はなんだか恐ろしげな雰囲気をたたえていた。拝礼をして側面を見ると番号は四となっていた。

 一旦、本道に戻ったボクたちはすぐに左の道に逸れ、山中南側の祠へと向かった。南側の祠は、林が途切れた岩場にポツンと立っていた。少し斜面はきつかったが、大きな一枚岩の上だ。岩は平らに近く、祠も少し傾いている程度だったが、足元がやや滑りやすいようだった。ボクが手を伸ばすと、ユリスも自然と手を伸ばしてくる。ボクたち二人は、互いに手をしっかりと握りあったまま、祠に頭を下げた。傾斜側のひさしを注意深く見ると三と番号がふってあった。


「さあ、これで残るはあと一つだけだ。麓のひとつだけなんで、もう戻るのとほとんど一緒だよ、ユリス頑張ろう」


 途中、疲れたとも休憩したいともユリスは言わなかった。足の状態は万全とはいっても初めての登山だ。弱音を吐かないあたりは流石だな、と思っていると、後でキャっという声が聞こえた。振り向いてみると、石畳に足を滑らせ、尻もちをついたユリスの姿があった。


「大丈夫かい、ユリス?」


 手を伸ばすと、その手を思ったよりも強い力でユリスは引いた。その力にボクは思わず負けてしまい、逆にユリスの方へ倒れてしまった。


「私も滑って転んでしまったけれど、スミタマも転んだのと一緒、おあいこよ」


 ユリスの意味不明な言葉に、思わずボクは微笑んだ。


「山頂からここまで、休憩もなしに来ているけれども、ユリスは大丈夫かい? 足の状態はどうだい? なんならこのままここで少し休憩してもいいんだけれど」


 大丈夫よ、ユリスはすくっと立ち上がり、手を伸ばしてきた。ボクはその手につかまって立ち上がった。少しづつではあるが霧は晴れつつあるようだ。それまで乳白色一色だった霧に濃淡が出てきていた。

 最後の祠は、もう平地にあるのも同然の場所にあった。最初に見た目抜きの奥にある祠の南側に位置する。こちらは、商店などで働く人々の住居地の中にあった。円形になった小さな広場ででは小さな子供たちがはしゃぎまわり、ひとりの老婆が、祠に祈りを捧げていた。その老婆の後に立ち、順番を待つ。やがて老婆は立ち上がり、ボクたちは老婆に軽く会釈をする。


「あら、珍しい。えらく若いのに順番待ちしてまで拝礼するなんて。白蛇様は若い女の子が大好きさ。さあお参りを」


 老婆の言葉に促され、ボクたちは拝礼をした。

 実は山頂から順番に祠を巡ってきて、ここが最後だと言うと、さらに驚いたようで。


「それなら白蛇様は大喜びだろうね。愛の告白をされたみたいなものだからね。今夜あたり、夜這いに訪れるかもしれないね。窓の鍵は開けておくようにね」


 笑いながら去っていった。ひさしの番号を確認すると五と彫ってあった。


「これで昨日の祠は二になるね。確認するまでもないし、さあ戻るとしよう。まずは気楽な服装になって、あたたかい紅茶をゆっくりと飲みたいね」


 数字は何を意味するのか? ボクにはおおよその検討がつきかけていた。

【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

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