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欠落した満月と冷酷な太陽  作者: 武臣 賢
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第五十一話

 帰り道、ユリスと並んで人気の少ない行楽地を歩く。


「随分と長話しちゃったわね。私も楽しかったけれど、民話とか神話とか、たしかスミタマは、そういったお話しって大好きだったわよね?」


 ユリスも何だが楽しかったようで、何よりだ。

 そうだね、と応えつつ、でも神様って人間が作り出したものなんじゃないかな? とボクは応えた。最初は太陽とか月とか、山とかが神様だったけれど、そこにいろいろべたべたとくっつけて、人格を持った人間ぽい形にしちゃったんだよ、人間が。大地母神的なものは確実にそうだし、さっきの話に出てた白蛇だって、人の形に変身できる。

 よっぽど容貌魁偉な化物じみた神様か、とても人間的でユーモラスな神様か、なんだか両極端って感じで、まあ、神様だから普通ってないんだけれど、普通の神様ってのはなかなかにいないもんなんだよ、とボクの見解を、ユリスに説明した。


「確かに普通の神様っていないわよね。モンスターの中には人の言葉を喋れる種類だっているけれど、そういったモンスターにも神様っているのかしらね? 実際にいないとは分かっていても、いるなら会ってみたいわね、神様に」


 呑気なユリスは、もし会えたらどんなお願いをしようかしらなどと言う。

 せっかくだから言っていた祠も見ていきましょうよ、とボクを誘った。

 ユリスに言われるまでもなく、ボクも関心がある。例の億万長者になった男が作った祠ではないだろうけれど、ちゃんと祀られているというのは、住民からの信仰も篤いのだろう。

 祠は思った以上に豪華だった。白蛇が神様だからなのか祠は白い大理石でできており、風雨に晒されないように木造の社殿のような建物の中にあった。祠の扉には、ちょうど三重にとぐろを巻いた蛇を上から見たような紋章が彫ってある。祭礼などのときは開かれるのだろう。


「なんだか思っていたのより、ずっと豪華だね。いつぐらいの時代かは分からないけれど、例の億万長者が寄進したってのもあながち間違ってはいないかも」


 ボクたちは順番に、祠にお参りをして、山荘に戻った。

 おばあさんの話しは面白かったけれども、今日の成果はまったくなしと言っていい。噂話しを集めるのもひとつの手、と思っていたが、早速に方向転換が必要なのかもしれない。今日みたいに話し好きの人に捕まってしまえば、調査どころではなくなる可能性も高い。特に今は暇な時期だ。逆に帝都の噂話しをしてくれ、なんて展開だってありえるのだ。


「明日はどうしようか? ユリス。なんだか話しを聞いて回るのって今日みたいな感じになりそうな気がするんだけれども、どう思う?」


 ボクがそう言うからにはもう答えは出てるんでしょ? とユリスが言う。


「そうだね、ガイドマップを見てみたんだけど、特に遺跡に関わりがありそうな所もなさそうなんだ。とりあえず、白蛇様の祠があと四つあるみたいだから、明日はその四ヵ所を回って見ようかと思うんだけど、ユリスはどうする?」


 ユリスの応えは明快だ。


「もちろん一緒に行く」


 そこで二人して並んで座り、観光ガイドマップをチェックする。今日行った目抜き通りの祠に丸印を付けて、あと四つは山麓に一つと、山中に二つ、そして頂上に一つだ。山全体にこれだけの祠があるのは、白蛇様に仮託しつつも、本来は山が御神体であった証なのだろう。山自体を知るためにも、祠を回って見るのは悪い手ではないような気が、ボクはしてきていた。

 祠は、全て山の斜面の西側にある。それほど標高も高くなく、遊歩道も整理されていて、険しくはない。特にこれといった登山装備が必要でもなく、ただ右に左にとうねる坂道を歩いて行くだけだ。残り四つは一日あれば充分に回れる。


「それじゃあ、まずは山頂を目指して、一番上から、どんどん下に降りていこうか。それが一番楽だと思うよ」


 ボクは頂上から下るルートを指し示す。

 低い山だが、ユリスにとっては生まれて初めての登山だ。もちろん山荘は何度も利用しているが、車椅子で登ろうなどと思いはしなかったし、誰かに背負ってもらって、景色を眺めたいとも考えなかった。


 目が覚めた。あぁ、天候には恵まれなかったか、と直感した。別に雨粒が窓を叩いているわけではないが、湿気が強く、気温も低い。

 起き上がり、窓辺まで歩み寄る。この時間にしては嫌に明るいようで、カーテンを透かして光が届いてくる。勢いよくカーテンを引き、窓を空ける。冷たい湿気とともに、目に飛び込んできたのは、濃霧に包まれる山荘のテラスだった。

 気がつくと、隣にはユリスが立っていた。


「どうする、ユリス? 霧に阻まれて初登山は延期になった、でもいいし、霧に包まれて、幻想の世界のような初めての体験だったでもいい。どっちの思い出をユリスは選ぶ?」


 ユリスは顎に手を当てていた。

 最近分かったのだが、この仕草は、考えているフリをする時のユリスの癖だ。つまり考えていない。


「そうね、どちらの思い出も取らないわ、私。霧に阻まれそうになったけれど、押しのけて初登山を果たした、っていう思い出にするわ」


 話は決まった。強行だ。

 ユリスは霧を押しのけてと言っていたが、ボクはこの霧に包まれての登山に、なんてロマンティックなんだ、と少し感傷に浸ってしまったほどだったのだけど……。 

 執事長に予定通りだと告げると、外套を二着と頑丈なブーツを二足用意してくれた。昼食や非常食はリュックに詰めて、ボクが携行する。


「じゃあ、ユリスいくよ。疲れたり、見失いそうになったら、大声で伝えるんだよ。低いとは言っても山は山。何が起こるか分からないから」


 霧に包まれた山頂を見上げる。

 深い霧と言っても、まったく見通しが効かないわけではないが、山頂に近づけば、雲も出ているだろうから、視界はさらに悪くなる可能性もある。西の空も霞んでいるので、昼前までに霧が晴れる可能性も低いだろう。

【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

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