第五十四話
やや興奮気味にランは話しを続ける。
「元々人間の国々とも友誼があり、森と大地を守ってきたのですが、比較的平穏が続いたせいもあって、使者のやり取りも途切れがちになっていたんです。そこで、せっかくの機会だから、とこちらのライデル朝帝国に留学と相成った訳です」
陛下の親書に、委細は二人の言う通りに運ぶように、と記載されているわけだから当然……。
「というわけで、今日から、いや昨日も、丁重におもてなし頂きましたから、昨日からご厄介になって、中等部学院でいろいろと学ばせて頂き、より友好を深めさせていただきます。よろしくお願いします師匠!」
また立ち上がって深々とお辞儀をした。
「そこまで、お膳立てされていると、こちらではどうしようもないわね。部屋は空いているから、どうにでもなるわ、準備をして頂戴」
ユリスは執事長に伝えると、ボクの部屋の隣でよろしいでしょうか? ユリスは尋ねられた。まあ、賑やかなのは悪くはないわね。そうして頂戴、とユリスは指示を出す。
「分かったわ。あなたたちの面倒は私とスミタマとで見るから、安心して頂戴。学院への留学手続きなんかも全てこちらで手配するので、心配しなくてもいいわよ」
ユリスが言うと、二人は安心したのか、それではと荷物を取り出した。
「本当は一番最初にしなければならなかったのですが、気が逸ってしまって、順番が逆になりました。これはほんの手土産です、ぜひお受け取りください」
テーブルに取り出したのは、キナが織物五反と巻糸五本、ランは繊細な細工が施された両手で抱えられるほどの壺だった。
二人が取り出したもの、特に反物と糸を見て、後で見ていたジュンシが、あっと声を出した。あら、ジュンシはこれが分かるの、とユリスが尋ねると、
「糸と織物はもしかして聖獣女王の糸とその糸で編んだ織物では……」
ジュンシがいうと、こともなげにそうです、とキナ。さらに続けてランが言う。
「この壺に入っているのは精霊が育てた花の蜜です」
聖獣女王の織物は、向こうが透けて見えるほど薄く、柔らかな手触りにも関わらず、名工の鎧よりはよほど強度が高いもので、おそらく人間界にもたらされたのは百五十年ぶりぐらいではないかとジュンシは言う。。
花の蜜も同様にかなりの希少品で、普通の霊薬やポーションに一滴入れるだけで効果が五倍から十倍へと跳ね上がる代物で、取引は一滴単位だと言われているという。
「陛下へは?」
ユリスが尋ねると、同様なものを献上させていただきました、と言う。
「あら、じゃあ、この織物と糸で、四人そろいのパジャマを作りましょう。素敵じゃない? ジュンシ、そのように手配を。花の蜜と余った織物と糸は、父上に進呈しましょう」
ウインクしながら、ジュンシに言った。あなたも約得ね、好きなものを作っていいわよ、と言うと、そんな滅相もない、目にできただけでも光栄です、というのをユリスは押し留める。
「だって、この二人の秘密もあるし、お父様には余りものを進呈するんですもの、内緒にしておいてもらわないと、これは口止め分よ」
ユリスが言うので、では私はスカーフを作らせていただきます、と腹を括ったようだ。パジャマはジュンシの実家である繊維商の名にかけて最高の職人に委ねますのでご安心ください、と請け負ってくれた。
「しかし、すごく妙な展開だったわね」
ユリスは言うが、本当に妙な展開だ。なぜかと言うと、今ボクとユリス、それにキナとランの四人で温泉に浸かって、ゆったりと夕景を眺めているからだ。湯は乳白色でやや硫黄の臭いがするが、肌に染み込んでいくようでとても心地が良い。
キナとランを引き受けたのはいいが、依頼の途中に戻ってきたのだと二人に告げた。すると、宝探しは得意中の得意だから、一緒に行くと言うので連れてきたのだが、印を付けたガイドマップを見て、この番号は何だと聞いてきた。
「白蛇様という神様がいて、祠が五つあるんだよ。回って見ると番号が振ってあったので、それを書き込んでいるんだ」
ボクの説明に、もしかしたら何かあるかもしれませんね、と、キナは祠の番号の中心に丸印を付けたのだ。その丸印の中心に四人で赴くと、聖獣であるキナは蜘蛛たちに、精霊であるランは木々にそれぞれ問い掛けると、どちらからも、このあたりは、他と比べてとても暖かくて過ごしやすいのだと言う返事だったという。
「なるほど、分かった。じゃあやってみようか。キナ頼んだよ」
ランが言うと、キナは人化を解いて、巨大蜘蛛へと戻った。その姿にユリスはびっくりしたようだが、お構いなしに穴を掘りはじめたのだ。
かなり時間が経った。心配しながら、穴の縁から下を覗き込む。底が分からないほどに深くまで掘り進められているようだ。ランによると、このあたりには洞窟などはまったくなく、地下に遺跡らしき形跡もないという。となると、あるのはひとつだけです、と言っていると、穴の底から地響きが聞こえてきた。さらに穴の奥を凝視していると、人化したキナが素裸で飛び出してきた。
「ちょっと危ないかもしれないので、急いで山頂側へ」
キナが飛び出してきて二拍ほどおいて、巨大な湯柱が立ち上がった。キナは温泉を掘り当てたのだ。
しかし、そのままでは熱湯でとても人は入れない。
四人して山麓側にある泉まで、キナが巨体で掘り進め、ユリスとランは魔導術で石造りの水路を造っていった。ボクは見ながら後から付いて行っただけだった。泉まで下って行くと、人が入れるように少し泉は広げられていた。
そこで早速、服を脱いで木に吊り下げて、温泉に浸っていると言うわけだ。もちろん効能なんて分からない。
「もしかして、白蛇様のお話って、この温泉を暗示しているのかもしれないね」
言いながら、ハッとして服を見ると、別に盗まれもせずにちゃんと吊るされたままだった。
それにしてもいいお湯といい眺めだ。一昨日の霧が嘘のように晴れ渡っている。西側に開けた平野と、その先には大きな帝都が眺められる。
「そうか、依頼の正解ってこの景色なんじゃないかな? ユリス。だって、遺跡など、宝物などって曖昧だったし、陛下は、帝都のこの姿を見てほしかったんじゃないだろうか?」
ボクは立ち上がると、手の届きそうなところにある帝都を指差した。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】




