第四十九話
年が改まり、冬休みも、もうじき終わろうかとする頃、その奇妙な依頼はボクたちの元へ舞い込んだ。冒険者ギルドからの呼び出しがあったのだ。
「相変わらず、年が明けても、この臭いだけはどうにもならないようね」
ユリスなど、最近ではほとんど依頼を受けなくなっている。
理由のひとつがこの臭いにもある。例のアバズレ受付嬢に、新年の挨拶をしながら来意を告げると、直接ギルド総長から話したい、と言われ、ボクたちは総長室へと案内された。
総長は新年早々、慌ただしく働いている訳ではもちろんなく、休みボケなのか、二日酔いのような顔をしてボクたちを迎えてくれた。
「こんなケースは初めてですよ。直接名指しした依頼ではないのですが、Sランク限定の依頼となれば、あなた方二人しかいない訳で、直接の指名と同じです。しかも依頼元は皇帝秘書室となっていますから、ほとんど陛下の依頼なのですよ」
そう言って依頼状を手渡してくれた。
当然、依頼は受けなければならない。依頼内容に関わらず引き受けるとだけ総長に伝え、内容は改めずに依頼状を受け取ると、ボクたちは早々に屋敷に戻った。
屋敷に戻ると、すっかりボクたちのサロンとなってしまった例の控えの間に二人して腰を落ち着け、ジュンシに紅茶をお願いして、それからゆっくりと依頼状の封を切った。依頼状の封には確かに皇家の紋章が押されていた。
依頼が舞い込んだ経緯も不可解に満ちていたが、さらに首を傾げるような依頼内容だった。
「エレプタール東部山地に赴き、遺跡などを調査し、宝物などの有無を報告せよ」
ただ、それだけが記載されていた。
エレプタール東部山地といえば、城壁に登れば見える山々の連なりだ。歩いても半日とかからず、絶好の行楽地として多くの人が訪れ、貴族の別荘なども点在している。確か皇家が所有する山荘もあったはずである。
内容を再確認するわけにもいかず、早速、明日から調査開始の予定を立てた。依頼状によると、期限は一週間とある。冬休みの終わる前々日までが期限というわけだ。報酬に関しては、何も記載がないところにも引っ掛かりを感じる。
「でも、本当に変な依頼ね。あそこは古くから開けた行楽地で、遺跡なんて何もなかったはずよ。今更、新しい遺跡発見の可能性があるなんて初耳だし、宝物が埋まっているなんてのもちょっとね……」
ボクは目覚めてからまだ三年に満たないので、行楽地などには詳しくはないが、ユリスの話はもっともだと思う。が、依頼には応えなければならない。とりあえず行くだけ行ってみようと、話はまとまった。
日帰りで行って帰って、また向かってという手も考えた。
しかし、皇家の山荘があるのであれば、とりあえず押さえるだけ押さえてみては、とユリスも言う。そこで、山荘の使用許可の申請を執事長にお願いし、ジュンシには一週間分の泊まりの準備を頼んだ。詳細な計画は山荘に着いてからでも充分だろう。
ボクはまあ大丈夫だとして、標高がそう高いわけでもないし、積雪もない。寒さ対策さえしっかりしていれば、調査は問題なく進められる。しかし、調査といっても雲を掴むような話だ。数日は情報収集に割く必要があるだろう。差し当たっては行楽地でもあるわけだから、現地にいる人々に話を聞いてみようか、とユリスと話し合って、明日の出発を決めた。
言ってみれば、すぐそこに見えている山々である。現地調査はまず、噂話しを拾うところからなので、早朝に出発する必要はない。昼過ぎに着く見込みで問題ないだろう。それだけジュンシも準備に時間が割ける。執事長はボクたちが起きる頃には、すでに山荘の使用許可をもらいに出掛けていた。帰りを待ってから出掛ければいいだろう。山荘にはボクとユリスに、執事長と身の回りの世話をしてくれる侍女二人、連絡要員兼護衛が二人、充分な人数だ。実際に動くのはボクとユリスの二人だけで、その他は山荘で待機しつつ、何かあれば連絡に走ってもらう。
山荘は思ったほど広くはなく、造りもどちらかと言えば質素だった。いくつかある皇家の山荘から執事長が見繕ってくれたのだが、情報収集を考えて、山麓に近い場所にある所を選んでくれたようだった。山荘には管理人がおり、手入れも良く行き届いていた。
挨拶に訪れた管理人を捕まえると、まずは手始めとばかりに、遺跡や宝物などの話を聞いてみたが、特にこれといった手掛かりはなく、噂話しも何もないと言う。付近の地図はないかと尋ねたところ、観光用の簡易マップならあると言うので、早速に手元に二部届けてもらうようにお願いすると、すぐ取って戻って来ると言って、いそいそと山荘を出ていった。
「噂話しにも出てないとなると、よっぽどよくよく聞き込みをして、臨まないと空振りに終わってしまうかもしれないね。地図をもらったら、早速、聞き込みといこうか」
もし空振りに終わったとしても、聞き込みの内容を報告すればいい。尽くせる手は尽くすべきだ、そうボクはユリスに提案する。
「遺跡とか宝物とかの調査って聞くと、なんだか華々しいような雰囲気がするけれども、かなり地味なものなのね」
ユリスがボクに応える。
学問にしろ、仕事にしろ、世の中のほとんどは地味なものなんだよ、とユリスを諭すボク。
「確かにそうね。陛下の仕事だって、よく考えると派手に見えても何だか辛気臭いものも多い気がするわ」
ユリスは妙なたとえ話を出しては、勝手に納得していた。
管理人が地図を届けてくれるのを待つまでもなく、ボクたちは一般観光客向けの店などがある目抜き通りへと出掛けてみた。年が明けたばかりともあり、人影は疎らで、どの店の店番も暇そうにあくびを噛み殺すかのような表情をしていた。手近なカフェに入ってみたが、客席は空白が目立ち、店員は手持ち無沙汰のようだった。紅茶を注文し、話を聞いてみたが、特にこれと言った反応はなかったものの、年老いたこの店の店主がいるらしく、何か話がないか聞いてみようと、奥へと入っていった。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】




