第二十八話
ボクは左右に分かれた相手の後ろから進んで来た方に狙いを定めた。ボクの真正面からはずれたが、炎と氷に挟まれた相手に逃げ道はもうない。
ボクはかなりのスピードでファイアボルトと相手のわすかな隙間に入り込み、相手の横腹に膝を叩き込んだ。前に崩れ落ちる前に、相手の襟首を掴んで上へ放り投げ、そのまま、ボクは後を追うように飛び上がった。
空中で満足な態勢も取れないままの相手を攻撃するのは容易い。
ボクは頸動脈に狙いを定めて三日月ナイフを素早く振り抜く。本当の実戦ではないが、ユリスとの練習とも違う。手に質量を持った手応えが届いてくる。首を深くえぐる感触。確実に仕留めた。これでケリはついた。致命傷だ。一チームは片付いた。
そう思った一瞬の間だった。後方で轟音が響いたのだ。
確かに共闘ではなかったと思われるが、もう一組はこちらの動きを窺っていたようだ。タイミングをわずかにずらす形で、こちらへ攻撃を仕掛けてきたのだから。気配を感じた時にはもう攻撃が始まっていた。なかなかに上手いし、流石に良い判断だと思う。
皮肉にもユリスが放ったファイアボルトは、相手にユリスの位置を知らせる役目をも果たしてしまったわけだ。轟音を伴った相手のファイアボルトが、ユリスの車椅子のごく近くに着弾した。ボクが最初の敵を倒した瞬間だった。
そのあとの矢継ぎ早に、二撃目がユリスを車椅子ごと吹っ飛ばすのを見たのが、相手のもう一人は最初のファイアボルトが放たれた瞬間にユリスに向かって突き進んでいた。
車椅子ごと吹き飛ばされれば、ユリスは当然ダメージを受けている。それに車椅子がなければ、そのあとユリスは動けない。
反撃されるとしても、ただ寝転んで魔導術を放ってくる砲台と一緒だ。相手にとっては必勝の形だった。攻めるタイミングと判断、躊躇ないその動き、流れるように仕留めにかかるハンターそのものだ。
でも、ボクはちゃんと見ていた。初発がユリスの車椅子のそばに着弾し、轟音とともに土煙を上げるその中に、こちら側に向かって地を蹴りジャンプするユリスの姿を。二発目は確かに車椅子を粉々にした。
しかし、相手は分からなかっただろうが、そこにユリスはもういない。
「いると思ってとどめを刺しに来たのね? さすがね。だけど、私の足はもう車椅子だけじゃなくなってたの。残念でした」
ユリスは車椅子から素早く移動していた。
丘を転がりながら、足に巻きつけられたベルトを外すと、反対方向に素早く移動したユリスは、相手の背後からそう囁いた。同時に、星の光を反射して七色に輝く宝剣の鞘が払われた。
相手の背中の左胸に深々と宝剣が突き立った。相手に致命傷を負わせ、くすぶるファイヤボルトがゆっくりと剣を引き抜く影を映す。立ちすくむユリスにボクは素早く寄り添って肩を抱いた。
「車椅子、かわいそうだったね、微塵になって。君は新しい足を得た変わりに、古い足を失っちゃったんだよ。古い足の分、しっかりと自分自身の足で歩かなければね」
次の日の学院はユリスの話題で覆い尽くされた。
他のクラスや学年からも、ボクたちの講義室までやってきて、自分の足で歩くユリスを眺めては、お祝いの言葉と感嘆のため息を漏らしては通り過ぎていく。
隣にいるボクは、まるでユリスの引き立て役のピエロのようだ。
「こればっかりは時間が解決してくれるのを待つしかないわね。私にとっては普通になっただけなのに、私が突然に歩けるようになったように感じて、周りはそうは思わないみたいだから」
確かにそうだ。
今まで車椅子姿しか見せていなかったお姫様が、試合中に自分の足で歩き、見事に試合に勝利した。そしてその姿を今こうやって見せているのだから、驚かれない方がどうかしている。
今まで車椅子だったせいで足は細く、その影響もあってか飛び抜けて均整の取れたスタイルの良さを持つユリスは、今まで車椅子だったせいもあって、周りが思っているよりは背が高く、その容姿や立ち居振る舞いを見てうっとりとするのは仕方がないわけだ。
「あなただって、なかなかのものなのだし、そんなにむくれて背を丸めたりしてはだめなのよ。私は私。あなたにちょっとだけ魔法を掛けてもらった私は、そのままの私なのよ」
そう笑うと、より一層華やかさを増すユリスに、もう脱帽するしかないボク。
「そうだね。試合もまだ残ってるから、不貞腐れてる暇なんてないよね。でも、不思議だよボクだってユリスをほとんど毎日のように見ているのに、今日は際立って輝いて見えるんだもの。とても魅力的だし、素敵だよ」
お世辞でもなく、素直にそう言うボクに向かってユリスは皮肉を言う。
「あら、ありがとう。でもそれは、私だけのせいじゃないのよ。だってそう思わない? 私と比べても見劣りしない、かなりレベルの高い引き立て役が隣にいるのだから。ね、スミタマ」
ユリスは言うと、あらごめんなさい。嘘よ嘘。真に受けないでちょうだいね、とペロリと舌を出したのだった。
「そんな意地悪な嘘を言うお姫様と、妙な約束なんてするんじゃなかったよ。もし、覚えてもらってなければとても嫌だし、嫌味を言われてちょっとだけ後悔してるし、少しぐらいは拗ねても問題ないよね?」
ボクはユリスにリボンで飾り付けをした紙袋を手渡した。
中身は、約束していた靴下十足。色もデザインもそれぞれに違ったものをあれこれ悩んで選んできたものだったのに、嫌味を言われたボクはふくれっ面だ。早速にユリスはリボンをほどき、中身を見ては大喜びで、今この場所で靴下を履き替える勢いだ。
「ありがとうスミタマ。どんなお祝いの言葉やプレゼントよりも嬉しい。大切にするわね。でもどうしよう? 履いてしまうと傷んでしまうし、履かないのも気持ちを無駄にするみたいだし……」
考え込むユリスの表情は、とてつもなく可愛らしく、愛おしいとも思えるものだった。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】




