第二十七話
起伏の激しい一本道は夜露に濡れ、涼風が月のない高原の草を鳴らしながら渡っていく。風の音に混じって、どこからか狼の遠吠えまでも耳に届いてくる。その遠吠えが響く度に、かすかな風の音はかき消されてしまう。
高等学院の代表戦は、夜の草原が舞台となった。
参加三チームは挨拶を交わすと、ランダムな場所に転送された。
これで試合は完全な遭遇戦となるわけで、前回使った開始早々の奇襲作戦は通用しなくなる。今のところ、周囲に人の気配はない。ボクもユリスも探索系の魔導術はまだ会得していない。ただ、二人とも勘は鋭い方で、特にユリスは独特な勘の巡らせ方をする。
ややぬかるんだこの一本道をユリスの車椅子を押しながら進んでいくのは少し馬鹿げている気もする。ボクたちは小高い丘の手前で道を逸れ、腰ほどにまで伸びた草叢に入って、一旦あたりを窺う。今のところ特に見張られていたり、待ち伏せの気配はない。ユリスの乗った車椅子を押していくのはさほど苦ではないが、道がぬかるんでいるだけに、移動する速度は多少遅くなる。
「ユリスちょっと聞きたいんだけれど、歩けるようになって少し体重が増えたんじゃないの? 車椅子を押していると、なんだかすごく重くなったように感じるんだけれど」
おどけるボクに、ユリスは頬を膨らませて、完全否定する。
試合中だという緊張感は、今のところ二人にはない。
場合によっては二チームが共闘で挑んでくる可能性もある。そうなったら四人を相手にしなければならない。多少やっかいではあるけれども、もしそうなら、攻撃を仕掛けてくるタイミングは相手まかせ、向こうからこちらを見つけてくれるはずだ。手間が省けて、こちらにとってはとても都合がいい。
ただし、共闘とは簡単に言えても実際はかなり難しい。首尾よく狙った相手を倒せても、次は共闘した者同士の戦いとなる。相手を信頼できるかどうかも問題だが、単なる順番の違いであれば、共闘相手を騙し打ちする手だってあるのだ。
ユリスが車椅子である以上、隠密裡な行動は取りにくいし、一旦、この場にとどまってどう動くべきか検討した方が良いだろう。
「どうするユリス? 車椅子をどこかに隠して、移動する手もあるし、あえて姿を晒しながら動いて誘い出す手もある。それか、二手に分かれてもいい。その場合はユリスには待機してもらって、ボクがここまで相手さんを連れてくるわけだけど……」
ユリスの耳元で囁くと、ユリスはこそばゆさに首をすくめた。
「そうね。これだけ夜露があると、炎も燃え広がりにくいわね。相手は私の魔導術を警戒してるだろうし、誘い込むのは難しいんじゃないかしら? でも、だからと言って、車椅子を置いて行くのもなんだかね、この子を囮にしているみたいで、とても嫌だわ」
相手が今までのボクたちの試合を意識してくれているのなら、確かにユリスの言う通りだ。しかも、長年の相棒である車椅子と離れるのも躊躇われると言うのであれば、いつも通りのボクたちでいくしか手はない。
「それじゃあ、大胆に行くとしようか。相手からもよく見えるように、あの丘の上まで行ってみよう。待つにしても隠れているより、あそこで待っていた方がボクららしいよね?」
ボクたちは再び高原の道に戻り、丘の頂上を目指す。
月はなくとも、大気の澄んだ今の世界では思った以上に星明かりは弱くはない。だいたいのところ、十等星から十五等星ぐらいまでは肉眼でも確認できるほどだ。試合の舞台として作られた空間ではあっても、きっちりと再現されていて感心するぐらいだ。ちなみに、星の位置はボクの知っている星図とは少し違っていて、多少のずれがある。ただし、古代から星々は人の運命を指し示すものとの認識は生きている。
丘の上り切っていくらもしないうちに空気が変わった。
涼風にまぎれて、右手方向から生暖かい吐息のような気配が伝わってきたのだ。擬似的に作られた獣やモンスターのものでもない。人間のものだ。ユリスも当然気が付いている。
「どうやら期待通り、やって来てくれたみたいだ。示し合わせての共闘ではないみたいだね。二人だ。ボクが出るからユリスは援護を頼むよ」
ボクはユリスの耳元で簡単に作戦を伝える。
ボクは、放たれた猟犬のように猛然と丘を下っていく。その両脇をユリスの放ったオレンジ色の炎の球――ファイアボルト――が、ボクの疾走を凌ぐスピードで通り過ぎていく。
相手二人はボクとファイアボルトの射線方向から、縦列を組んで丘に迫って来ていた。
当たってくれれば楽できるのだろうけれど、学年を勝ち上がってきた相手だ。そんなに生温いわけはない。
ユリスにしてもこの魔導術でケリがつくなんて微塵も考えてはいない。あくまでもボクが戦いやすいように援護に徹してくれている。
続いてあと四本、扇状に次は氷の槍――アイシクルランス――が放たれる。アイシクルランスは、ファイアボルトの光を受けて宝石のように輝く。
相手はファイアボルトの射線と真正面のボクの進行方向から外れたが、最初に放たれたファイアボルトと、後に放たれたアイシクルランスの射線とに挟まれる形となった。
作戦通りだ。簡単に言葉を交わしただけで、これだけの動きができている。ボクとユリスのペアはそこまで成長しているのだ。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】




