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欠落した満月と冷酷な太陽  作者: 武臣 賢
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第二十九話

 貴賓席には皇帝、皇后両陛下を始め、皇弟オルガスやその正妃テンデル、高位にある皇家に連なる人々や貴族を始め、近衛師団長、魔導士大隊長など帝国を支える歴々が顔をそろえ、観客席にも学生はもとより、各地から集まった多くの人々で満席になっていた。

 それだけの注目度があるライデル杯だが、今年は特に目を引く存在がいた。もちろん、ボクの隣に立つユリスだ。

 皇族とし異例の出場を果たしただけでなく、魔導術の詠唱破棄、そしてなにより先の試合では途中、車椅子を破壊されながらも自分の足で立って歩き、相手を仕留める殊勲を上げ、各方面から注目を集めているのだ。

 彼女自身やボクが可憐な少女である点や、ボクが庶民出身である点なども、関心を集める一役を担っていて、今日はどのような戦いを見せるか観客席のボルテージも近年にはない盛り上がりぶりのようだ。

 貴賓席のオルガスは、気が気でなかった最愛の娘の試合ぶりを大いに誇らしく思う反面、やはり心配が先に立つようだ。

 顔を赤くしたり青くしたり、心拍数も上がったり下がったり、そわそわといつもの彼に似合わず居ても立っても、といった風情だ。普段、体面を気にするタイプではないものの、ユリスの腰にぶら下げられた短剣が、家宝とも言える皇帝から下賜された代物なのも気がかりのひとつになっており、最初に兄である皇帝に謝ってしまおうかなどとも考えていた。

 その一方、隣に座った正妃テンデルは泰然としたもので、そわそわする夫の手をそっと握り、大丈夫よ、と頷いて見せた。どうやらユリスの肝の据わりの良さは、より母親から受け継いだものらしい。

 試合に先立って、各学院を勝ち上がってきた三組の選手たちに皇帝陛下から直接の賛辞が送られた。普段、朝議での執政者たちか、祭祀に立ち会う祭司長、それと後宮など、直接、皇帝陛下と言葉を交わす機会はそう多くはない。ここでの賛辞は異例中の異例なのだ。

 もう、何代か前の皇帝の時代の話だが、かつて皇帝陛下暗殺を図ったとある組織が、学院に暗殺者を送り込み、大会に出場させ、この賛辞を贈られる場での機会を狙ったそうだ。

 しかし、暗殺者は大会を勝ち上がれず、そのまま普通の生徒として卒業したらしい。これは半ば伝説になるが、それほど皇帝陛下と直接に言葉を交わす機会は、外部の者にとっては皆無に近いのだ。

 次いで平民出身者は叙勲され、貴族には報奨が贈られた。

 問題はユリスの扱いだった。確かに好成績は修めたが、元々皇家の人間であるだけに叙勲はもとより報奨もどうするか、ちょっと揉めたらしい。オルガスの、過度な扱いは避けてもらいたいとの意見が採用され、結果、ユリスには儀仗用の剣が贈られた。

 六人の中で庶民はボクだけだった。叙勲を受けたために最下級であるが貴族である士爵位を賜った。後でもよい、とのお達しだったが、姓名を乗ってもよくなり、ボクはその場でミスミ・ミタマの名乗りの許可も一緒に得たのだった。


「ミスミ・ミタマなら、今まで通り私は、あなたをスミタマって呼ぶけれども、いいわよね? でもなんでミスミ・ミタマって名乗りにしたの?」


 ユリスは小声でボクに問いかけてきた。


「事情はいろいろあって、今は詳しくは言えないんだけど、もともとミスミっていう姓だったんだ、ボクは」


 ボクは応えた。


「元々の姓がミスミだった? あなたって元は貴族だったの? それならどうしてもっと早くに教えてくれれば……。没落貴族でも貴族籍は残るし……、庶民扱いなんてされなくてよかったのに……。でもミスミなんて貴族あったかしら? 聞き覚えのない姓ね」


 ちょっと納得していない、そういった表情のユリスだった。


「だからそこにちょっとした事情があるのさ、必ず教えるから……」


 試合前の式典の途中だけに、それ以上のおしゃべりもはばかられる。


「そう、わかった。絶対に教えてね。約束だからね」


 ユリスに儀仗用の剣が贈呈され、式典は終了した。

 大きな拍手が会場を満たし、選手たちは応えるかのように、貴賓席に向かって一礼し、観客席に手を振っていた。


「スミタマ。私、このもらった剣で試合に出るわ。ちょっと考えがあるし、なんだか今日は得物は長い方がいいような気がするのよね」


 黄金で鍍金された鞘を抜き払うと、表面に文様をあしらった見事な剣が姿を現した。でも、儀仗用だ。刃は立っておらず、紙を切るのがせいぜいだ。もちろん鋼の板なのだから、それなりの鈍器にはなるが、ユリスには考えがあるというし、ボクにもだいたいの見当が付いた。

 式典があったわけだから、本来は学院戦までが大会であったのだろう。この後、行われる学院代表選手による優勝戦はいわばエキシビジョンに近い扱いになるのか、大昔には行われていなかったようだ。中等学院代表も一応出場するが、それは形式的なもので、すぐに棄権する。これも大学院生との力の差から当然とみなされ、中等学院生は第三位が確定している。あとは残った高等学院代表と大学院代表との優勝決定戦となるが、高等学院生は胸を借りるという形になる。


 事実、過去二百年ほどは、高等学院代表が勝利した例はないそうだ。今日は約二百年ぶりに歴史が変わる日になるはずだ。

 試合はこの場での闘技場形式になる。ボクたちは一旦控えの間に退き、それぞれに準備をしてから再び会場に出ていく。控えの間で打ち合わせた内容はただひとつだけ。どちらかが合図をしたら、武器を取り替えるか相手を入れ替える。合図した時の目を見れば、武器か相手かは分かるはずだから、ただそれだけだった。

【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

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