表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠落した満月と冷酷な太陽  作者: 武臣 賢
25/54

第二十五話

 試合終了を告げる主審の声が会場に響き渡った。ボクたちは学年本戦を制した。

 次は学院戦だが、同時刻に行われている他の学年を制した三チームでの巴戦になる。最短の時間で勝ち残ったボクたちは、他の試合を見ても良かったのだが、あえて白紙の状態にしておいたほうが良いと判断した。


「だから見に行かない。手の内をすべてさらけ出して勝ち上がってくるなんて考えられないし、もし全部出し切って、なんとか勝ったのなら、なおさら敵じゃないからね。だから何も知らないぐらいがちょうどいいんだよ」


 見に行くのが面倒くさい。その言い訳をボクはそんな言い方で繕った。ユリスもちゃんと感づいてくれたようだった。


「じゃあ、屋敷に来ない? お茶でも飲んでゆっくりとして、それから帰ればいいんじゃないかしら? 遅くなるようなら送っていってもいいわよ」


 嬉しいお誘いだ。ボクは即決でその案と一緒に、ユリスの迎えにやってきた馬車に飛び乗った。

 ただし、それは結果的には気楽な選択ではなかった。

 ユリスがボクを伴って屋敷に立ち寄るという先駆けの早馬が到着するのと同時に、ユリスの両親であるオルガスとテンデル夫妻も屋敷に立ち寄るとの知らせが入ったからだった。当然、先程の試合を観戦もしていたのだが、ボクは迂闊にもそれを失念してしまっていたのだ。

 知っていたら敢えてボクは避けただろうが、ユリスとゆっくりとした紅茶の時間に思考のすべてを奪われていたらしい、ユリスの両親が立ち寄る可能性を全く考慮に入れていなかったのは失態だった。

 屋敷に到着すると、馬車だまりにはひときわ瀟洒な馬車が止まっていた。ちょっと悪い予感はしたのだが、でもやっぱり帰る、とも言えず、そのまま玄関ホールを突き抜けて、応接室へと案内された。

 そこにはすでに、二人が紅茶を飲みながら待っていた。自分の屋敷なのだから、当然遠慮も無用なのだろう、たまにしか訪れないだけに、使用人の緊張が逆に痛いほど伝わってくる。


「いやいや、二人がここまでやれるとは。スミタマ君の言葉通りでもあったし、我が娘にも正直驚いているくらいだ」


 立ち上がったオルキスはスミタマに握手を求め、それから、ユリスの頬に軽くキスをすると、テンデルを紹介してくれた。


「実を言うと、私は最初からある程度予想してましたのよ、スミタマさん。でもそれは、あなたたち二人の活躍ではなく、我が夫が、ユリスの出場を結局は許すであろうってね」


 皇弟正妃とは思えない屈託のなさでボクに握手を求めてきた。

 ボクは所在なさげに生返事を返すのがやっとだった。それぐらい二人はボクたちの活躍が嬉しいのだろう。


「皇家からは出場しない、みたいな不文律もあったし、お父様がお許しになるのは、かなりの難事だと思っていたのだけれど、本当にスミタマのおかげ。最高のパートナーを私は見つけたわ」


 ユリスはチラリとボクを見て合図を送る。

 次の試合にはおそらく明るみに出るだけに、ここで打ち明けてもいいかもしれない。二人は驚くだろうが、時間の問題でもあるのだし。


「ねぇ、お父様、お母様、実は二人には内緒にしてたんだけれど……。見てて」


 ユリスはそう切り出すと、車椅子からおもむろに立ち上がり、二人に歩み寄って抱きついた。

 ユリスが立ち上がろうとした瞬間、転倒する、そう手を差し伸べたオルカスとテンデルだったが、最初は何が起きたのか思考が追いつかない二人は顔を見合わせ、そしてユリスに視線を送る。

 生まれてから今まで、自分の足で歩けないと言われ続けた我が娘が、今、現実に歩き自分たちに抱きついている。


「これはいったい、どういう……」


 驚きで、そこまで言うのがやっとの二人だ。


「見ての通りですオルガス殿下、テンデル妃殿下。ユリスの足は治り、触覚もあり、歩き、走り、ごく普通になって、もう車椅子は不要になったのですよ。ただし、試合の関係上、まだ秘密にしておきたいんです。ですから、誰にも教えないようにお願いします」


 驚きがやがて喜びに変わり、三人は目に涙を浮かべながら抱き合っていた。美しい家族の情景がそこにはあった。


「スミタマが、私の足に魔法を掛けてくれたのよ。だからこうやって歩けるようになったの」


 ユリスは今までのあらましを二人にゆっくりと語って聞かせていた。執事長と同様、篤く礼を述べる二人に対してボクは言った。


「不自由な足を抱え、不便な生活を送っていた現状を、何とかしようとして克服したのはユリスなのです。ユリスの気持ちが足を動かしたのですから、感謝には及びません。ユリスを褒めて上げてもらえればボクも嬉しい限りです」


 とりあえずなんだが、とまだ驚きと喜びに浸りきっているオルカスから、晩餐に誘われたのだが、今日のところは遠慮しておいた。


「こういった嬉しさは、まず最初は家族だけで分かち合うものだとボクは思います。ユリスだって、久しぶりの家族団欒、ゆっくりと甘えたっていいんじゃないでしょうか?」


 ボクは丁寧に断りを入れた。


「見送りは不要です。ユリス、じゃあまた明日ね。紅茶ごちそうさまでした」


 それだけを三人に告げると、ボクはその場を後にしたのだった。見送りには執事長だけが出てくれた。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ