第二十四話
「ユリス、良く考えたら、ボクが着けなくても、もう自分でできるじゃないか。騙したな」
ボクは頬を膨らませる。
「あら騙したなんて失礼ね。私が着けるより、スミタマがやってくれたほうが、しっかりと上手に着けてくれると思ったからじゃないの。少しでもゆるんじゃうと、足、動かしてしまうんですもの」
ペロリと舌を出す。
その姿に半ば呆れ気味のボクだったが、こんなふうに頼られるのも、まあ悪い気がしないとも感じつつ、ボクはむくれたままのフリをしていたのだった。
試合は例のごとく王宮外南苑が会場だ。
今回は十チームが出場するとあり、四つの区画を使って試合が行われる。それぞれが各クラス選考戦を勝ち抜いてきた選手たちだ。去年の覇者であり、今年も優勝候補の有力候補であったリノリとエーピーのペアを倒して勝ち上がってきたボクたちには、一体どんな戦い方をするのか? と、注目が集まっていた。もちろんユリスが皇家であるという点も手伝っている。
今回は試合会場が広いため、かなりの魔導術師を動員し、偵察用の投映魔導術を使って観客席に居ながら、試合の様子を観戦できるようにもなっている。会場の中央に集められたボクたちからは分からないものの、観客席はほぼすべて学生や学院職員で席が埋め尽くされているはずだ。その一角には近衛師団と魔導術大隊のスカウトの目、そしてユリスの親族たちの姿もあるだろう。
「今試合は、迷宮が舞台となります」
主審がそう告げると、練達した魔導術師によって、景色が一変した。
気がつくとボクたちは、開けた場所にいた。見ると広場のあちこちから通路が伸び、おそらくその先は迷路状になっているのだろう。しかし、見通しも悪く、柱や天井に掛けられたランタンの弱々しい光がかすかに届いてくるだけだ。
ボクたちは広場をぐるりと周りながら、互いに握手を交わし合い、所定の位置に着く。すると、主審が前回同様に試合開始の宣言を告げる。
開幕早々、広場で戦闘をするか、背後の通路に入り込んで一旦姿をくらまし、探索しつつ他選手との遭遇戦に持ち込むか、いずれにせよ、最後まで残っていたチームの勝利である。
たとえうまく八チームを倒せたとしても、最後の一チームに敗れてしまえば、それまでの八戦は勝利とは無関係だ。戦い慣れしたチームや、探索系の魔導術を持っているメンバーがいれば、迷宮に入り込み、他チームを誘いつつ有利な位置から襲いかかる、という手が最も手堅いともいえる。厳しいとなれば、行き止まりはあるものの、逃げる側が有利だが、挟み撃ちにあうリスクもある。それを考えれば、周囲の道筋を頭に入れつつ、比較的安全な行き止まりを陣地にして、待ちの姿勢で勝利を掴む手も有効だ。
「では、試合開始!」
各チームの思惑が交錯する中、試合が始まる。
だが、ボクたちにとって、他のチームの思惑なんてどうでもいい問題だった。
ボクたちが試合の命運を左右すればそれでいいのだから。
「じゃ、ユリス頼んだよ。仕上げはボクに任せて」
そう言って、ボクは勢いよくユリスの車椅子を広場中央に向かって押し出したのだ。
虚を突かれた形の各チームは一瞬だが、動きが止まった。その一瞬が命運を分けた。
ユリスは両手を前に突き出すと、ファイアカーテンを発動させた。まずはすべての入り口を塞ぐように、天井から床までの炎の壁を出現させ、あとは中心軸をずらしつつ、少しづつだけ小さなものを四つ、合わせて五つの炎の円環を出現させたのだ。
その五つの円環に飲まれたのが五人、つまり五つのチームが瞬間で消えた。残った四チームのうち、メンバーの一人が円環と円環の間に挟まれたのが四チーム。つまり、ユリスの前には五人の相手が残っている訳だが、ボクはまず、二人ともが残っているチームに狙いを定めて全速力で接近し、躊躇せず頸動脈に刃を入れる。致命傷だ。これで残りは三人になった。
状況がようやく飲み込めたのか、混乱しているのかすらボクたちには関係がない。残った三人は左右の敵ではなく、一人はユリスに向かい、二人はメンバーの救出に向かった。判断としてはどちらがいいとも言えない状況だ。
ボクはユリスに背を向けた二人に獰猛に襲いかかる。一人の襟首を掴んで中央に引き戻すと、そのまま押し倒し急所に一突き入れる。間髪入れずに、残ったもう一人を背後から攻め、これも一撃で致命傷を負わせ退場に追い込んだ。ユリスに向かった一人はというと、ユリスが片手を広げて展開した術式によって針のネズミと化してした。ユリスは――ピアッシング・ファイアニードル――と名付けていたが、要は細い炎の針が無数に襲いかかるという割と単純だが、それだけに凶悪な魔導術だ。針に刺される物理的なダメージに、炎による継続ダメージも加わる。
どこかの急所に刺さった針が致命傷になったのか、針による物理攻撃が全体のダメージにつながったのか、針による物理ダメージには耐えられたが、その後の炎によって焼き尽くされたのか、相手に継戦は不可能なのは明らかだった。
ユリスが炎の円環を解くと、その場には残された四人がただうなだれているだけだった。長いように感じただろうが、実際に炎の中に閉じ込められたのは二分程度。つまり、試合時間もそのぐらいだったというわけだ。ユリスがくれたヒントで、手間暇を掛けずに勝利への最短距離を駆け抜けたのだ。
「ねぇ、ユリスは炎系の魔導術が得意なのかい? 炎のカーテンに炎の針。この間の試合でも炎系を使っていたし」
ボクは問い掛ける。
「得意というよりかは、好きなのよ。ただそれだけ。相手が使ってくればそれを無力化する魔導術だって使えるけれど。ただ、清浄するって感じが好きなのよ、火焔は」
ユリスはまだくすぶっている地面を見ながらそう呟いたのだった。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】




