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欠落した満月と冷酷な太陽  作者: 武臣 賢
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第二十三話

「そこまで! エーピー、致命傷につき退場。勝者ユリス、スミタマ組!」


 エーピーは転がりざま、自分の剣をさばききれずに胸で受けてしまった。それが致命傷と判断されたのだ。

 意外な結末にあっけに取られているか、観客席は寂として声もなかった。圧倒的に有利だと見られていたリノリとエーピーの二人だったのだが、まるで歯が立たないまま、いいようにあしらわれ、自爆に近い形で敗者となってしまったのだから無理もない。ボクの体捌きや剣技はもちろんだが、ユリスの魔導術式の無詠唱がかなりのインパクトをもって受け止められたようだ。考えてみれば、剣術のトップと魔導術のトップが組んだチームだ。そこそこ強くて当たり前ではあるのだが、チームは総合力だ。一人ひとりの強さは、決定的ではない。それがこの短期間でチームワークにも磨きを掛けていようとは、誰も予想できない結末になって当然といえば当然だった。


「さ、ユリス、じゃあ行くとしようか。本当はあと二時間ほど遊んでいたかったのだけれども、どうしようもなかった。まあ、でもユリスにも見せ場はあったし、これからは見せ場続きだから、今日は我慢してね」


 試合前と同様に、ほとんど息を乱しもしていない二人。

 ボクはユリスの車椅子を押して主審の元へと向かう。主審は、クラス代表の印章を用意して待っていた。ボクとユリス、それぞれの胸に印章を付けてくれた瞬間に、観客席からはやっと我に返ったクラスメイトたちが大きな拍手を送ってくれた。


「学年本戦は二週間後です。それまで訓練を重ねつつ、英気を養ってください」


 担当教官の言葉に送られ、ボクらは会場を後にしたのだった。


 教官も言った通り、次の試合までは二週間ある。

 その間、ボクたちはいつも通りの場所でいつも通り訓練を繰り返した。ユリスの足をマッサージし、筋力を補うためのストレッチ、そして手すりを持って立ち上がり、少しずつ歩く練習だ。ユリスはこの間の覚束ない足取りから見違えるように歩けるようになっている。手すりを持つのは万が一の転倒に備えてのもので、ほとんど手すりから手を離して歩いている。この調子なら素早く動いたり、長時間走れるようになるのも時間の問題だ。

 ボクはと言えば、どのようにして試合を進めるのか、考えては反芻し、反芻しては考える時間に大部分を割いた。ユリスの足はまだ動かすには時期が早いが、次は学年十チームが入り乱れての試合になる。正直、展開が読みにくいし、相手の出方も未知数だ。

 さて、一体どうしたものかと考えているとユリスが最高のヒントをくれた。


「試合の展開なんて分からないんだから、こちらで展開を作ってしまえばいいのよ。賢そうな顔して、まぁ実際に賢いんだけれど、こういうときのスミタマは考え過ぎるのよ。もっとこう、シンプルでいいんじゃないかしら」


 このユリスの言葉でピンっときた。

 そうだ。もっとシンプルでいいし、相手の出方や作戦なんて無視してしまえればいいんだ。


「ありがとうユリス。そうだね、ちょっと考え過ぎていたみたいだったよ。ところで、この間使ったあのファイヤカーテンだけど、同時に何個ぐらいをどれぐらいの大きさで出せる?」


 ボクのひらめきにはユリスの協力が当然必要になる。ここはユリスに頑張ってもらわなければならない。


「そうね、地形とか特に条件がなければ、この部屋の幅ぐらいのを三つぐらいが最大かしら」


 それでもかなりの広範囲魔導術になるけれども、さらにボクはユリスに注文を付けた。


「試合までにそれを五つぐらい出せるようになってもらえるかな? それによってちょっとだけ作戦に影響が出るんだ」


 どんな作戦にするかは、前日までのユリス次第、とボクは付け加えた。


「随分と無理な注文ね。でも大丈夫だと思う。威力や持続時間も大切だけれども、数も増やしていければと思ってイメージしていたから、多分できるんじゃないかしら」


 ユリスの頼もしい言葉で、次の試合の勝利も間違いないとボクは確信した。


 春が来て夏が過ぎ、秋が顔を覗かせると冬が訪れる。

 四季がある国に生まれた人たちは季節の移り変わりに敏感だけれども、季節と季節の変わり目にはさほど注意を払わない。二週間前まではまだ朝夕にはちょっと冷え込んでいたが、今では芽吹いた新緑も色濃くなり、朝夕は爽やかな森の香りと幾分かの湿気を含んだ風が吹き渡る。季節の変わり目独特の二つの顔を持つ瞬間がこの時期にはある。特に好きな季節もないボクでも、この移り変わりの時期はなぜか心が浮き立ってしまう。特にボク、そしてユリスにとっても得難い時を今年はプレゼントしてくれそうだ。

 クラスの代表選考戦から二週間が過ぎ、いよいよ学年本戦の試合日がやってきた。昨日の夜も、学院が用意してくれた宿舎に泊まり込んだが、前と同じように、ユリスはボクのベッドに潜り込んできた。足も充分に動くようになったため、ユリスはボクの肌の感触と自分の肌の感覚を確かめるようにふくらはぎや太腿をボクの身体にすり合わせるようにして眠った。

 そして当日の朝、宿舎を出る前になって、ユリスがボクにお願いをしてきた。


「ねえ、スミタマ。このベルトを、太腿と膝上、そして足首につけてもらいたいの。建前的には車椅子から転倒しても大丈夫なように、ね。お願い」


 なるほど、それもそうだ。

 ユリスの足はもう充分に動き、車椅子は必要でなくなりつつある。建前的にはユリスの言う通りだが、実は足が無意識に動いてしまうのを防ぐための手立てなのだ。学年本戦に学院戦、そして優勝戦とあと三つ試合が残っている。最低でもあと一試合は足が動くのを隠し通さなければならない。ボクはなるほど、と感心しながら、ユリスの言うようにベルトを着け終わると、気が付いてしまった。

【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

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