第二十二話
試合前に先立ってルールが伝えられた。まず、制服の上から、特殊な防壁魔導結界が掛けられ、それが破られ致命傷と判断されれば退場となる。死亡扱いとなるのだ。試合はペアのうちどちらかひとりでも動けなくなればその時点で終了、負けとなる。過去に例はない、と前置きされたが相手を殺してしまっても負けとなる。もっとも死んでしまった生徒が次の戦いに進めはしないのだが、そのあたりはどうなっているのか詳細は不明だ。おそらく不戦敗扱いになるか、急遽新たなパートナーを探して次の試合にコマを進めるのかどちらかだろう。
「それでは、只今から試合を開始します。分かっているとは思いますが、これは決闘でも戦争でもありませんが、正々堂々である必要もありません。互いに持てる力を存分に発揮して、勝利を目指してください」
主審を務める魔導術師がそう告げる。
ボクたちは互いに握手をしあうと、それぞれ開始の定位置へと移動した。あとは開始のベルがなるのを待つのみ、観客席のクラスメイトたちも、どのような戦いになるのか興味が尽きない様子だ。
「試合開始!」
実績も実力もあるリノリとエーピーに対して、最初は様子を見ながら防御に徹し、カウンターでチャンスを狙う作戦でいくはず。誰もがそう考えていたようだが、予想に反して、ボクたちは最初から攻撃に打って出た。ただし、動いたのはボクだけで、ユリスは最初の位置で待機だ。
想定外の展開とスピードに身動きひとつ取れない二人の間に入り込んで一瞬停止したボクは、二本の三日月ナイフをそれぞれの頸動脈ギリギリに当て、素早く通り過ぎる。そして向こう側に突き抜けては折り返し同じ動作を繰り返した。
二人が撹乱ではなく、遊ばれているのだと気が付いたのは動作を始めて三十秒ほど経ってからだった。素早くボクを迎え撃つ態勢を整えるあたりは流石といえた。ボクは縦列隊形を取った二人に対し、まともに真正面から突っかかっていく。前衛のエーピーが迎撃する直前に、彼の目の前でパッと片手を広げるとボクはそのまま身体を捻って、またしても二人の間に割って入り、今度はエーピーを後ろから突き飛ばす。エーピーはそのままつんのめる形で前に吹き飛ばされながらソードを投げ捨て受け身を取る。ボクはエーピーを突き飛ばすのと同時に、リノリに向き直ると、彼の片足を踏み付け、額をちょんと弾くと、それだけで倒れかかる彼の襟を掴んで耳元で囁いた。
「サメは二度と機会が訪れないと考えるから獲物をすぐに食ってしまう。シャチはいつでも獲物を捕らえられると知っているから弄ぶ。気の毒だが今のボクたちはシャチなんだけどね」
そのまま背負投げの要領で、リノリをエーピーの方へと投げ飛ばす。それはちょうどボクとユリスの中間あたりだった。
「ユリス、今だよ」
ボクは合図を送る。
ユリスは両手を前に突き出して術式を展開、彼らを中心に半径、高さとも五mほどの炎の壁――ファイアカーテン――を吹き上げさせた。この光景には観客席からもどよめきが上がった。ユリスは明らかに無詠唱で術式を展開したからだ。これは明らかにみんなが知る魔導術の常識を超えている。
この展開に最も驚き、慌てたのは炎の中心にいるリノリとエーピーの二人だった。
実力者だけにその力量の差をまざまざと感じているのだ。二人にとってボクたちは容易な敵ではない。一か八かの勝負にでなければ。決意をかためた二人の動きは素早かった。武器を手に取ると、大きくジャンプをし二人共がユリスへと向かって行ったのだ。
「ユリス、まだだめだ」
意図を察し、ユリスは右手を左から右へと素早く動かす。
すると、猛烈な突風がファイアカーテンともども二人を弾き飛ばした。そして再び両手を前に突き出してファイアカーテンを展開する。今回は大きさはそのままに半球のドーム状、しかも徐々に大きさは小さくなっていく。
ボクはニヤリと笑うと、相手の反応を窺った。脱出する方法ならいくらもある。どのような脱出をして反撃をしてくるのか、あとは待っていればいい。
すると業火の中から、小さいが確かな魔導術式詠唱の声が聞こえてきた。ボクは素早くユリスの前に移動して、相手の攻撃に備える。
二人は覚悟を決めたようだ。
察するに、相手の魔導術は水系か氷系、それを炎にぶつけ、その隙間から脱出するか、自らの身体にまとい、火傷覚悟で突破してくるかのどちらかだ。こういった点でも、術式詠唱は不利だ。相手にどんな魔導術を使用するのかほぼ筒抜けになってしまう。相手は真正面と、そして上部からの二手に分かれての時間差でこちらを攻撃してきた。
「ユリス!」
その声に反応してユリスは素早く術式を発動して後退する。
ボクはまず真正面からの敵を一歩前進して身体の真横に立ち、体当たりをして吹き飛ばず、それから余裕を持って上からの攻撃に備える。
一見上からの攻撃はかなり有利に思えるが実は錯覚だ。相手に気付かれていない状態でやや後方から不意打ちを掛ける場合のみ有効で、相手が上から攻撃してくるのが分かっている場合、簡単に対処できてしまうし、上から攻撃を仕掛けている最中はほぼ無防備だ。よほどの体幹反応を身に着けていなければ、どのような攻撃も当たってしまういわば的だ。しかも近づいてくるのだから、一瞬ごとに的は大きくなってしまい、こちらの攻撃は外しようがなくなってしまう。
それが分からないほど相手が無能とは思えないが、強くなってしまうのは、陳腐につながっていく。得難い教訓のひとつだろう。今まで通用していたから使っているのだろうけれど、ボクら相手には通じない。彼らにとって今まで勝ちすぎたがゆえの罠のようなものだ。
ボクは半歩前進して、切っ先を躱すと相手の手首を握り、強くひねって横ざまに倒した。
「しまった。もう少し優しくすべきだった。ユリスごめん。もう終わってしまったよ」
ボクはユリスに謝った。
剣を持ったまま受け身を取り起き上がるのは意外と難しく、先程も剣を投げ捨てて受け身を取り起き上がった。しかし、今回はその余裕がなかったようでエーピーの胸には深々と剣が突き立っているように見えた。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】




