表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠落した満月と冷酷な太陽  作者: 武臣 賢
19/54

第十九話

「あら、失礼ね。人が必死になっている姿がそんなに滑稽に見えるものなのかしら、普段から努力とは縁遠い人から見ると?」


 天才の一人であるユリスからそんな憎まれ口を言われるのも変な話だが、おかしかったのだからしようがない。


「いや、なんとこの世は不条理にあふれているものかと思ってね」


 だってそうだろう。

 ユリスはボクより頭半分も背が高いし、胸だってボクよりは随分と大きい。それでいて手足が細くて長い。抜群のスタイルの良さだ。髪の毛は多少まとまりが悪いが、蜂蜜を溶いたような鮮やかな金髪で、神々が寄ってたかって手を施したような美しい顔立ち、しかも皇族で皇位継承権まで持っている。

 誰だって嘆きすら通り越してしまうほどに不平等な存在なのだ、ユリスは。


「そんなに長い間一緒にいたわけではないけれども、私たちは友達なのよ。試合のパートナーになって、ここでこうやって訓練をして、もう随分と長い時を過ごしているのよ。今頃になって気がついたの、スミタマは? もっと私を羨んでくれていいわよ」


 平等、なんと耳に心地良く響く欺瞞に満ちた言葉だろうか。

 誰もが平然と唱えるけれども、この世に一度として存在した試しのない状態だろう。誰もが叶わないと知っているから唱える魔法の言葉だ。

 だが、人間が社会というシステムの中で生きていく上で公平は生きている。というよりも不公平を排除しようとする仕組みを社会は機能として持っている。

 しかし、それは平等とは違う。


 例えば百人のマイナス一を、たったの一人が持っていってしまってプラス百にしてしまう。これも不公平の排除という仕組みのひとつだ。生涯にマイナス一だけを体験して終わる人もいれば、一億のプラスと一億一のマイナスを体験して一生を終える人もいる。どちらも同じマイナス一。不公平は排除されているが、果たして平等といえるかというと言えない、そうだろう。


「あらいやだ。あなたがやっかみなんて、らしくもないわね。私から見ても、あなたは十分に不条理で、この私が不満を漏らしたくなるくらいに羨ましいわよ。ほら、そうやって眉間に皺を寄せてやぶにらみしないでもらえるかしら、スミタマ? 美しいお顔が台無しよ」


 知らない間に眉間に皺が寄ってたようだ。

 やめようと思ってやめられないボクの悪い癖のひとつだ。ボクはわざと、より一層、眉間に皺を寄せ、あごを引いてユリスをにらみ続けた。その一瞬間後、訓練場は二人の大きな笑い声で満たされたのだった。


 いよいよクラス選抜戦がやってきた。

 試合の前日のこの日までに、選抜戦への出場に名乗りを挙げたのは、ボクとユリスのペアの他にはもう一組だけだった。リノリとエーピーと言う名の幼馴染み男子生徒二人組みだ。


 実のところ、噂話しだけが先行していて、ボクたちは出場しないのではないかと言われていた。それだけ幼馴染みの二人は強力なペアであると言えるし、もしユリスが負けてしまえば、それだけで皇家の面汚しになるため、出場を回避するとの憶測も出ていたのだ。それが実際には有力候補との一騎打ちになった。


 リノリとエーピーには姓がない。庶民出身の特待生で、立場的にはボクとよく似ている。よく似ているが、実績と知名度では二人の方が遥かに上だ。確かに成績ではボクがトップではあるが、彼らは中学院時代からペアを組んでいて、毎年本戦に進出している。去年の高等学院一年生の大会では学年優勝を飾り、将来は近衛師団か魔導士大隊どちらかにスカウトされるのではないかと嘱目されている優等生だ。

 個人としての力量ももちろん、幼馴染みだからこその息の合った戦いぶりはクラス代表の最右翼ではなく、学年優勝の最短距離にある。確か二人とも剣術、魔導術どちらも学年トップ五には入っていたはずだ。


 中等学院と高等学院は一年から三年まであり、各学年は十クラス。大学院は一年から五年まであり、各学年には便宜的に五つのクラスがあり、専攻科目は二十コースほどある。つまり、中等学院と高等学院は、各クラスから代表一チームが出場し、各学年十チームで合計三十チームずつ。大学院は各学年五チームの合計二十五チーム。まず、学年十チームから学年代表に勝ち残り、各学院代表となって総合優勝を目指す。

 試合はすべてバトルロワイヤル形式で、最後まで残ったチームが勝ちだ。各学院代表とは言っても中等学院と大学院の代表とでは実力にそれこそ子供と大人ほどの差があるのだが、学院の入学条件には年齢制限がない。そのためにこのような形式になっている。

 ちなみに、ボクは小さい頃に親に死に別れ、親類や施設を転々としたという経歴になっているために正確な年齢は良くわからず、おおよそ十五歳と伝えてある。パートナーのユリスは今年で十六歳になる。みんなに年齢を聞いて回った訳ではないので正確にはわからないが、学年全体の中では二人とも最年少の部類に入るはずだ。


「それでは明日のクラス代表選抜戦は、二組で行います」


 ホームルーム担当教官はそう告げ、出場は締め切られた。

 ボクたちは一旦帰宅して準備の上、夕方には学院に戻ってこなければならない。宿舎は学院が準備し、その間に道具類は大会本部が預かり、不備や不正がないかのチェックをして試合直前に返却される。


「いよいよだね、ユリス。今晩は軽く打ち合わせをしてから、早目に寝るとしようよ。ま、ここで負けるようなら最初から出ない方がまし、ぐらいな気持ちじゃないとダメだけれどね」


 ボクはユリスを真正面から見つめた。

 ユリスの瞳はいつもより深い青色だった。人が訪れるはずのない、遠く静かで透明な湖は、まるでこんな色をたたえているのだろうな、とボクは思った。

【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ