第十六話
ボクはボクが至った結論へと話を続ける。
「しかし……」
無詠唱魔導術には、ただし、が付いてしまうけれど、これって万人にとっての正解じゃなく、やっぱり呪文詠唱は正確に行いさえすれば誰にでも割と簡単に魔導術が使える。そういう意味では魔導術を発現させる道の一本ではある。呪文を詠唱せずに魔導術を使うためには、天賦の才と努力、そして何よりイマジネーションとインスピレーションが必要になる。つまり、ユリスみたいな人じゃないと使いこなせないって話なんだ。どうだろう、興味が湧いてきたんじゃないかな?
ボクはここまで一気に喋り、一息入れるためにテーブのティーカップを口元まで運んだ。
ユリスはというと、両肘をテーブルにつき、手で頬を支えながら、じっと話を聞いてくれていた。途中からは得心する部分もあるのか、だんだんと目が輝きだしてくるのが分かった。
「ひとつ分かったわ、スミタマ。あなたクールというか、冷酷って感じを人に与えるけど、喋ってみると、わりと熱い人なのね。見た目で損してるわね、それだけキレイで損っていうのも変だけど、私はスミタマのそういうところも好きってのが分かったわ」
自分だって相当な美少女でしかもお姫様なのは棚に上げ、男子生徒にしてみれば、羨ましい限りの言葉を、ユリスはボクになにげなく投げかける。
「なんだ、途中から目が輝き出したのはそういうわけだったのか。残念、ユリスならって思い切って話したのに」
憎まれ口はお互い様だな、などと考えつつボクは言う。
「あら、内容は理解できたわよ。それで、やって見せてくれるんでしょ、呪文詠唱をしない魔導術?」
なるほど論より証拠というわけか。
ボクは両手を広げると、肩を竦め、やれやれといった調子でテーブルを離れた。
所構わずなら、力加減はそう問題ではないが、これだけのスペースとなると使える術式は限られてくる。種も仕掛けもある手品と勘違いされるのも心外ではある。ボクはさっと右腕を水平に薙ぎ払った。すると、床から氷の剣が数十本突き出した。さらに、右手を前に突き出すと、同じ場所から炎の柱が立ち上がり、先程の氷の剣をすべて溶かしてみせた。
ちょっとだけ得意げに振り返るボクだったが、ユリスはさっきまでと同じ格好で、少し口角を上げただけだった。
「それで、上手くやるコツとかあるのかしら? それだけは教えてほしいな、スミタマ」
絵でも言葉でも、過去の記憶でも構わない、何でもいいから頭の中で思い描く。
例えば、水が凝固し佇立する場面だったり、炎が弾けて舞い踊ってる様子だったり。それを繰り返していると、一瞬だけ頭の中で光が飛び散ってまた集まって、みたいな感覚がやってくる。
その時に手を伸ばしてその光を捕まえる。捕まえた光を手から解き放つ時、術が発現する。ボクはそうやったけど、例えば呪文を心の中で唱え、その長い呪文を短い言葉にどんどん置き換えていく、なんて方法も有効かもしれない、と付け加えてボクは説明したのだった。
「それで私も昨日の夜、いろいろと試してみたんだけれども」
やはりボクの見込み通り、ユリスはやってみて自分なりの答えにたどり着いたようだ。
「私の場合はスミタマとはちょっと違う感じだけれども、人それぞれ違ってても問題はないし、魔導術もちゃんと発現したからいいかなって思ってる」
ユリスによると、彼女の場合、心の中で丸い鏡を見つめている自分を想像したのだそうだ。
その鏡に映っている自分自身に、魔導術を使いなさい、そう念じ鏡に向かって術式をイメージしてぶつけると、術が発現したのだと言う。それが最も威力も高く、コントロールもしやすかった、とのことだった。
「丸い大きな鏡に自分を映して魔導術を完成させるなんて、いかにもユリスらしいね」
ボクが笑って言う。
「あら、あなたの説明した小難しい理屈は、やっぱりあなたらしいと思うけど」
屈託なく笑うユリスだったが、これで訓練を繰り返せばユリスの魔導術は確実にレベルがアップする、格が二段も三段も上がるといった表現が相応しいほどに、別次元の威力を備えるようになる。
少しづつだけれども着実に準備は進んでいる。
「あ、そうだった忘れるところだったわ」
切り出すユリス。何でも今日は重要な用事があるらしく、早目に帰らなければならないと言う。
「方向があなたの下宿と同じなので途中まで送っていくわ、スミタマ」
特に断る理由もないし、一人で訓練したところでたかが知れている。
ボクはユリスに同意したが、この時ユリスは心の中でウインクをしながら舌をぺろりと出していたなんて思いもしないボクだった。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】




