007 脱出(3)必ず生きろ
その夜からの山道は、なかなかにハードだった。人に出くわさないのはいいんだけど、とにかく歩けど歩けど終わらない道なき山の中。
アオケラは、さすがにこの辺りの山のことは知り尽くしていて、暗闇の中でも先導は完璧だった。危ない場面は一度もなかった。
イタズはリューリア姫を背負って黙々と安定して歩く。ウィローのサポートもありがたかった。
リューリア姫も窮屈な袋の中で、文句のひとつも言わず、時々身体をほぐしながら、寝たり起きたりしてた。
いや、俺なんか、みんなについてくだけで、かなりギリギリな感じだったんだけど……もうちょい鍛え直さないとな。
休憩時間には、身体をほぐしながら、リューリア姫が俺に話しかけてくる。
「ノブ様、昨夜は申し訳ありませんでした」
「いや、俺こそ、急に大きな声を出して──」
「いえ。ノブ様は悪くありません。ノブ様は命懸けで私を助けてくださっているのに、あんなことを……」
「違うよ」
「……え?」
「だから、違うよ。俺は命を懸けてなんかいない。俺は絶対に生きる。実際に生きてるだろ?」
「そうですね……」
「俺はさ……命っていうのは、そんな軽いもんじゃないと思うんだ。『この命に代えても』とかってよく言う人いるけど……なんか、そういうのイヤなんだよね」
「……そうなのですね」
「命を代償にしたら、その時はなんとかできるのかもしれない。けど、その後はどうなるんだ? そんなの責任放棄やん」
「責任放棄……そうかもしれません」
「だからさ、それほど強い想いがあるなら、その後も生きて責任を果たすべきだと思うんだ」
「つまり、使命も果たしつつ『必ず生きろ』ということですね? それはそれで、厳しいお言葉かもしれません」
「そうかもな。俺は部下に無理難題をいう主人になるのかもしれないね」
「お分かりになっていても、『生きろ』とおっしゃるのですね?」
「言うよ。だって、人が死ぬとこなんて、老衰とか病気とかでもイヤなのに、争って殺し合って人が死ぬような……あんなの……俺は二度と……」
「ノブ様?」
「いや、大丈夫。だって、だいたい、俺が死んじゃったら、その後、誰がリューリア姫を守るのさ? な? 俺は生きなきゃいけないだろ? あはは」
「……すいません」
「いや、そこは笑ってほしいとこだったんだけどな。守ってくれる人なんて、たくさんいるやん」
やばっ、リューリア姫がキョトンとしてる。
さすがにツッコミ期待するのは違ったか……
なんか、ウィローが冷たーい感じの目でこっち見てるし……あ、アオケラさんもですね。イタズさんは……相変わらずの無表情。
はい、皆さんが守ってくださっています。大変失礼な発言でした。すみません。
うん。ここはもう、笑って誤魔化すしか……
「あはは。だからさ。笑ってほしくてさ。リューリア姫の笑顔、俺、かなり好きなんだよねー」
「……はい」
リューリア姫は涙を拭いてから、少し照れたような可愛い笑顔を俺に向けた。
なんでか、疲れがスーッと消えていく……不思議な笑顔だ。
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