008 脱出(4)ヤングナーロ港
歩けど歩けど、道なき山道……にも確かに終わりがある。
2回ぐらい洞穴のようなところで仮眠を取って、ヤングナーロの港に着いたのは3日後の朝だった。
「やっと着いた。さすがに疲れたよ」
「いやいや、やはりノブ様は大したものでござる」
「そっかなぁ? 結局、俺の出番はなかったけどな」
「なんのなんの。湖族舟や休憩処の手配はノブ様でござろう。さすがのご人脈でござる」
「ていうか、人脈って俺の手柄かなぁ?」
「山の中でも、お姫様を気遣うノブ様、カッコよかったわよー」
「そりゃ、ウィローとかアオケラの助けがなきゃ、俺一人じゃ何にもできなかったって。山ではだいぶ足を引っ張っちゃったかなって、反省してるとこなんだけど……」
「うふふ。私が鍛え直してあげよっか?」
「あはは。そりゃダメだって。ウィローはこれからトーガルだろ? 俺も一応、仕事があるしさ」
「そうねー。残念だわー。うふふ」
「ウィロー、その辺でよかろう。ここからは、おまえは姫様の世話係だ。そのふざけた口調は慎め」
「はいはい。リューリア姫、ここからはよろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「では、ノブ様。船の方は──」
「うん、大丈夫。こっちも話は通ってるから」
俺たちは、一軒の漁師風の家に向かって歩いている。俺の兄貴──タケ兄の配下が住んでる。
「キャップ船長、久しぶりだね」
「おお、ノブ様。早かったではないか。して──」
「うん。こちらがリューリア姫。今回も、よろしく頼むね」
「リューリア姫、某はトーガル家ご長子タケ様の家臣、キャップ・クーミャと申します。この度は姫君を我が船にお迎えできる栄誉を賜り、誠に恐悦に存じます」
キャップ船長はリューリア姫の前に片膝をついて礼をとる。
いつも豪快な船乗りのキャップ船長にしては、なかなかに珍しい光景だ。
「こちらこそ、皆さまのご協力に感謝いたします。何卒よろしくお願いします」
俺はちょっと驚いてたんだけど、リューリア姫は平然とそれに答える。さすがだな。
「キャップ船長、俺からもよろしく頼む。夏が終わって嵐のシーズンに入ってるけど、大丈夫かな?」
「その点は心配いらぬ。あと10日は嵐は来ぬ。姫様を送り届けるには十分だわい」
「そっか、船長がそう言ってくれるんなら安心だよ」
「任せておけ。まあ、ワシの戻りを心配してくれるんであれば、別だがな。帰りはちょうど次の嵐がきそうだ。がはは」
「あはは。帰りも気をつけてね。でも、この往復でもひともうけなんだろ?」
「当たり前だわい。空荷で航海などするものか! 実は今回はな──」
「いやいや、言わないでって。俺は帝国の騎士爵だぞ。俺の知らないとこでやっててよ」
「がはは。ノブ様も出世されて、いろいろ大人になられましたな。まあ、うまくやりますわい」
「うん。それから、タケ兄のこともよろしくな。今は立場的に、なかなか難しくてさ」
「そうだな。向こうに着いたら、その辺りのこともお屋形様に相談するとしよう。ともかく、今回は姫君の安全が最優先だがな」
「うん。よろしく頼む」
そして、トーガル家の密交易船は、ヤングナーロの漁港を出航し、穏やかな海へと進んでいった。
リューリア姫が船から俺を見ていたから、俺は笑顔で手を振って見送った。
「本当に良かった」
海に出てしまえば検問もないし、寄港地も話を通してるとこばかりだから、ひとまず安心だ。
しかし、俺はこの後、聖都まで帰んなきゃいけなくって……
俺一人だし普通に街道を歩くだけだったんだけど……
「あー、疲れたー」
−−−
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