006 脱出(2)お舟の上
その後しばらく山道を下っていくと、空も白んできたころに、俺たちは湖畔に出た。
船着場から、あらかじめ手配していた湖族の舟に乗り、朝靄たちこめる湖に漕ぎ出す。
「ノブ様、疲れたでしょ? 寝るなら今のうちよ」
「そうだね。じゃあ、俺も少し寝るよ。なんかあったら起こしてくれ」
俺は、リューリア姫が寝ている傍らの小さな隙間に身体を伸ばして横になる。なんか、こう……かわいい顔が隣で寝息をたててるっていうのも……
これ、俺、寝られるんかな?
スースー
◇ ◇ ◇
ここは? お舟の上?
私が目を覚ますと、目の前に男の人の顔がありました。
スースー
「ノブ様……」
「しー、静かにね。ひと晩、歩き通しだったから、疲れてるのよ」
「……はい」
私は、静かにノブ様のお顔を見ていました。
少し線の細い綺麗なお顔……でも、黒い髪は……ちょっと跳ねてるところを見つけちゃいました。
直してあげたいけど……
「ダメよね……」
ウィローさんに言われるまでもなく、起こしちゃいけないと思いました。
だって、こんなに優しいお顔で……疲れ切って……私のために……
スースー
あの時のノブ様は……
『ダメだ!』って……とっても怖いお顔でした。
でも、今は……
スースー
私は、あの時、なんで、あんなことを……
私はノブ様と、お星さまを見ていました。
たくさんのお星さまも、細いお月さまも、とても綺麗でした。
ノブ様のお隣で、綺麗なお月さまを見てたら……
もう……なんか……このまま……
……自分でも……よく分かりません。
でも、ノブ様は一所懸命に、私を生かそうとしてくれています……なぜ……
スースー
疲れ切って……
「……ごめ……んな……さい」
◇ ◇ ◇
トンと船着場に着いた軽い衝撃で俺は目を覚ました。
最初はリューリア姫を見てたはずなんだけど、いつのまにか寝ちゃってたらしい。
リューリア姫は……目を開けて俺を見てる?
「ノブ様、おはようございます」
「えーと、おは──太陽がほぼ真南……ちょっと西寄りだから、こんにちは、かな」
「そうでした。失礼いたしました。こんにちは、ノブ様」
「あはは。冗談だって。おはよう。リューリア姫は大丈夫?」
「はい。私は特に問題ありません。担がれてる間にまた寝てしまい、気がついたらお舟に乗っていて、隣にノブ様が寝ていました」
「そっか……」
俺の寝顔を見られたってことだよね? うわー、大丈夫か? よだれとか……
「それで、アオケラ、この後はどうするのよ? このまんますぐに山?」
「いや、ここからの山は、昨夜ほど険しくはないが行程は倍以上長くなる。腹ごしらえをして休息ののち、また日暮れとともに出立といたそう」
「だってさ、お二人さん。さすがに、ちゃんとした床じゃないと疲れはとれてないはずだから、眠くはないかもしれないけど、しっかり休んでね」
「そうだね。確かに眠気は取れたけど、身体中が痛いもんな。それに──」
「私もお腹がすきました」
「そうだ。メシだメシだぁ!」
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