↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

004 聖都(3)タッキード一族

街のあちこちから流れてくる、おめでたい祝賀の笛や太鼓の音。王都オーサクーアほどではないが、隣接する聖都キヤミーヤの町も祝賀ムードで人が多い。


最近は街道での検問も厳しくなったが、さすがに街中でこんな駕籠の中を改めるような検問はないから、山裾にあるオヤシロまでは問題ないはずだ。


「おや、これはノブ殿。どちらへ?」


急に声をかけられて驚いて振り向く。


「なんだ、ジケー様ですか。その……ちょっと仕事でオヤシロまでお供を……」


「左様ですか。このハレの日に大変ですな。しかし、お姫様を見にいけないとは残念でしょう?」


「ジケー様は参列されるんですよね?」


「もちろん、招かれている。さて、では、ノブ殿の分もしっかりと見てくることにしましょうかな。後日、様子をお伝えしますので、ゆっくりとお茶でも飲みにきてくださいな」


「そうですね。ありがとうございます」


ジケー様は聖都での俺の後見人だ。たぶん、知ってて様子を見にきてくれたんだろう。でも、つまり、あとで報告にいかなきゃってことだな……


俺も聖都に住んで5年ほど経つから、あちこちで知り合いに出くわす。でも、大丈夫。聖都内なら、普通に応対すればいいだけだ。


声をかけられたくらいで驚いてちゃいけない。冷静に、冷静に……


その後も何人かの知り合いとすれ違い、簡単に挨拶しながら、俺たちは主街道から外れた、聖都の郊外の山の麓にある地元の山岳信仰のオヤシロを目指して歩く。


普段よりは少ないとはいえ、地元に根付いたオヤシロにはちらほらと参拝者が来ている。これなら、俺たちもさほど目立たない。


オヤシロ前の休憩処のテラス席でお茶を飲みながら休んでいた小柄な女が俺に気づいて手を振っている。


「やあ、ウィロー。待たせたかな?」


「いえ、時間通りですよ。奥の個室をお取りしていますので、どうぞ」


「うん。ありがとう。じゃあ──」


リューリア姫を乗せた駕籠を入り口に横付けし、覆いを開ける。


高貴な女性の嗜みとして頭から薄い布を被った姿で、リューリア姫が俺の手をとる。


まだ小さいとはいえ、さすがはネーネ様肝入りのお姫様。非の打ち所のない所作で駕籠から降りて入り口をくぐる。


「皆も、少し休んでいいよ。あ、ちょっと話があるから、駕籠を片付けたら、部屋まで来てくれるかな?」


俺は、駕籠を降ろした二人に声をかける。二人は無言で頷き、空になった駕籠を担ぎなおして建物の裏手へ消える。


入り口で顔見知りの店長と視線を交わしてから、俺たち三人は奥の個室に入る。


「リューリア姫、こっちがウィロー。トーガルまで同行してくれることになってる」


「そうですか。よろしくお願いします」


「道中の安全は私たちにお任せください」


「それから──あ、来たね?」


個室の扉が静かに開き、駕籠を担いでいたふたり──大柄でがっしりした男と、中背の細身の男が入ってくる。


「ノブ様、お久しぶりですな」


「うん。今回もよろしくね。えっと──」


「アオケラにござる。こちらの大きい方がイタズと申す」


「分かった。じゃあ、アオケラにイタズ、よろしく頼むよ。最近は街道の検問体制は整っちゃってるからさ」


「うむ。今は街道は通れぬゆえ山道を参る。ノブ様は街道まわりに来られて湖で合流でも宜しうござるぞ」


「そうもいかないよ。リューリア姫だからね。何かあった時は、俺でも役に立つはずだからさ」


「何も起こりはしませぬが、まあ、良うござろう。ウィロー、ノブ様のフォローを頼むぞ」


「あいよ。ノブ様のことは任しときなさい」


「うむ。では、我らは駕籠を戻してから、オヤシロ奥にて待ちますゆえ。これにて」


「あ、ちょっと待って。リューリア姫、この人たちもトーガルまで同行してくれる。怖い顔してるけど、頼りになる人たちだからね」


「はい。お母さまから伺っています。私の曽祖母ゆかりのタッキードの方々ですね? よろしくお願いします」


「そうなんだ。リューリア姫のひいお祖母さんって、タッキードの人だったの?」


「ははは。そんな噂は拙者も耳にはしたことがござる。或いはそうやもしれませんが、昔の話ですゆえ、もはや誰にも真偽は分からんですな」


「ふーん。そうなんだ。一瞬、それで協力的なんだって思ったけど、そういうわけでもないわけね?」


「もちろん、地縁や御恩というのもないではござらんが、拙者らの目的はもっと現実的なものでござる」


「そうだよね。要するに、アオケラたちも逃げなきゃってことだしね。それと仕事だよね」


王国側の敗残兵みたいなもんだからな。逃亡先として辺境トーガルはうってつけだ。3年前もリューリア姫の──


「すでに一部は、姫君の兄上とともにトーガルに渡ってござる。我らもそこへ合流せねばならぬ」


「トーガルの領地開発は喫緊の課題だからさ。山とか川とかが得意なタッキードの一族なら、いくらでも召し抱えるってオヤジも確約してる。みんなの技術を活かして働いてもらうから」


「期待してござる。では、我らはこの辺で。リューリア姫、安心して、ゆるりとお越しくだされ」


俺たちは、参拝者がいなくなるまで休憩室で待機する。


今夜は、いよいよ山越え──聖都脱出だ。



−−−

少しでも「いいな」と思ったら、画面下の評価【★】や【ブックマーク】で応援してください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。