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だって私は、真の悪役なのだから。(改訂)  作者: wawa


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リリー16歳⑤〜

 

  知ってる? 皆さま、


  私は、知らなかったんだ。



  きっと今は緊急番号が作られて、皆はいち早く連絡出来ていると思う。きっと今は、あの時よりももっともっと、たくさん救われているんだと思う。


  でもあの時は、何回も電話しても、あのこは救急車みたいに直ぐに運び出されなかった。


  児童相談所の人が何度も来ても、親は嘘ついて子供に会わせないんだって。そして児相の人が一生懸命頑張っても、親と子供の関係性って突然バッサリ切り離せなかったみたい。


  ほぼ毎日聞こえる嫌な音と、あのこの泣き声。


  それを聞きたくなくて、いつ頃からか、卑怯な私は先代スマホで動画見ながらイヤホンしてスマホゲームして、そして片手に漫画も流し読みしてた。


  あの母親も、新しい男ができる前は、お母さん頑張ってたのかな?


  いつだったかな?『お隣の子供が、ようやく児相に保護された』と夕食で両親が言った。その日の夜は、久しぶりにゆっくりと眠ることが出来た。これであのこは救われたんだと、そんな安心もつかの間で、半年くらいでまたあの音が聞こえ始めた。


  次の日には、玄関の前で座り込む痩せた姿。その子が外にいる時は、何度かおにぎりを食べさせた。だけどそれを、パチスロ帰りの男に見られてから、今度はうちの玄関先にごみ袋が置かれるようになった。そして車の電気のカバーが割られたり、自転車が盗まれたり。


  私の失敗により、両親まで困らせることになった。


  警察に相談に行ったら、監視カメラで証拠集めしなさいって。先代のスマホにアプリ入れて監視カメラにすれば? とか。スマホじゃ頼りないなら防犯カメラ売ってるよ、とか。でも本人に直接カメラ向けたら逆ギレしてくるかも、とか。じゃあどうすればいいんだろ。何ヵ月、何年被害者は被害にあえば、警察は助けてくれるのだろう。しかも証拠を集めたとしても、相手を訴えても裁判て疲れるし、捕まってもまたすぐ出て隣に戻ってくるかもだから、取りあえずそっとしておきなさいってアドバイスされた。


  本人に直接文句言ったらダメだよ、管理人さんに頼んでねって、そんなことも言ってたね。


  もしくは耐えられないなら引っ越しなさいって。


  監視カメラも引っ越しも、加害者ではなく、被害者側が、お金をかけてするんだって知らなかった。


  小さい頃はお巡りさんて、正義のスーパーヒーローだと思ってた。顔はちぎれないし、あんこもパンもただでくれないのはさすがに知ってたよ。


  でも自分が法律違反しないで悪い事せずに普通に生きていれば、カッコいいお巡りさんに助けてって言えば、必ず助けてもらえるって心の底から信じてた私。やっぱりまぬけだよね。


  スーパーヒーローは誰かを助ける前に、ヒーローが所属する組織のルールブックを確認して、ルールに従わないと悪者をやっつけられないんだって事も知らなかった。


  そしてさらに彼らは、罪を憎んで人を憎まずという呪いの掟に縛られている。


  物語の主人公は初めはアンラッキーでも、だいたいチートなラッキーをゲットしてハッピーエンドで終わるけど、現実の被害者(しゅじんこう)は長い苦しみを背負わされる。


  そこで私は気づいたんだ。


  加害者と悪役は違うんだって。

  加害者って、悪役よりはなんか得してる。


  加害者は弁護士とか警察とか誰かに保護されるけど、悪役はそうではない。


  悪役って、まぬけにやられる事だけが仕事だからね。


  被害者がハッピーエンドが難しいって、なんかこれって、悪役みたいだって思ったの。


  加害者のこと考えるの疲れちゃうし、自分が損するから忘れなさいって言ってくれる人もいたかも。


  加害者の罪を憎まず、加害者の更正(しょうらい)を望むとかね。


  でもそれを望むのはルールブックの皆さんだけで、被害者は、いつでも加害者のこと、消え失せろって心の底から思っていいと思うんだ。

 

  もっと勉強したら、被害者を助けてくれる人たちにも出会えたのかも。だってよく考えたら、いっつもドラマでドラマチックに裁判で加害者を庇ってる弁護士と戦ってる、反対側に「異議あり!」って座ってる人たち。


  あの人たち、被害者の味方だったのかも。


  おじいちゃんおばあちゃんと観ていたドラマでは、弁護士と戦うあの人たちは大体悪そうな顔してたから、悪役だと思っていたけど、もしかしたら彼らが被害者のスーパーヒーローだったのかな?


  本当に私って、いろいろ知らない事が多くて、勉強不足だったよね。


  だからあの日、勉強不足の私は罪の重さも周りへの迷惑も考えないで、幼児誘拐を思いついたんだ。


  隣って、いつも鍵かけないの知ってたよ。


  どのくらいで部屋までたどり着けるか、うちの玄関から私の部屋までシミュレーションもしたよ。


  夏休み、悲鳴がひどかった夜中の次の日、パチスロに二人で出かけた加害者の家。扉の閉まる音、遠ざかる車の排気音。


  身体は自然に動いていて、緊張に心臓はドキドキうるさく騒がなかった。だけど入ったことのない隣の部屋。知らない空気の玄関。同じアパートの間取りでなんとなく探したあのこの部屋。私の部屋のちょうど隣の扉の前、犬小屋のプレートみたいな可愛いネームプレートがかけてある。


  そこで初めて、ドキンと鼓動が強く打った。


  ーーガチャ。


  ごみ袋だらけの子供部屋。汚臭の中に乗り込むと、カサリと動いた痩せ細ったあの子を発見した。生きていたと安心してため息が出て、私を見て驚いた顔のその子が何かを叫んだ。


  背後に、気配を感じて、そして後ろを振り向いてからの記憶が無い。


 

  きっとそこで、私は失敗したんだ。



✳✳


 


  『おとぅさん、おかぁさん、ごめんなさい』



  きっと私は突然居なくなっただろうから、これだけは言っておきたかった。

 


  「…………」


 

  「……、……」



  何か聞こえる…。



  「……ぃつも、あなたは危険な場所に行くのですか?」



  この声は……。


 

  「ご自分の命を、大切にして頂きたいのです」




 **




  「…………」


  目が覚めると、そこは多分保健室。お金持ちの貴族たちが来るだけあって、ホテルみたいに立派だった。


  (うちの医務室には負けるけどね…)


  階段から飛んだ時、もう駄目だと過去を思い出したけど、私しっかり生きている。


  (顔とかは、痛くない…。でも身体は痛い…)


  そして今、私の右手をがっちり両手で握って何かを祈っている、黒色メンバーズ・エレクトくんと目が合った。

 

  「姫様!!」


  「ごきげんよう…」


  心配かけて、ごめんなさい。初めて見たエレクトくんの泣き顔に、なんだか私も涙が出た。



 **



  身体のあちこちは今も痛いけど、腕や足に打ち身や擦り傷や痣はあるけれど、すっかり回復した私。奇跡的に頭を打たなかったのが良かったみたい。


  実はセオさんが、私の下敷きになったそうで、彼は片腕を骨折したらしい。


  まだ会えてない。


  だから謝罪も感謝もしていない。


  学院の保健室で目が覚めて、直ぐに家まで運ばれて、それから外に出ていない。階段ダイブのあの後も、黒色メンバーズからところどころしか聞いてない。


  エルストラさんは王女から廃位されて投獄されて、彼女の家門も取り潰されたらしい。


  危険人物グーさんも気になるよね。


  それからやっぱり、メインは恐怖の主人公。


  私はしばらく休学だから、グーさんの婚約パーティーには行ってないけれど、主人公(ヒロイン)とくっついている事を祈ってる。


  怖かった。王女のエルストラさんにちゃん呼びで、番長も避ける黒制服の私に向かって突進してきた。


  しかもグーさんを呼び寄せたよね。


  さすが主人公だと思う。


  こうやって、色んな場所で悪役は、逃げ場なく主人公に狩られてしまうのか…。


  やっぱり融和的解決しか生存は見込めないのか?


  「……ふーむ…」


  でもグーさんと彼女がカップルになっちゃえば、私は関係ないよね?

 

  そうすれば、私の生存率はアップしたままキープできる…。


  アフターエピソードは、二人だけでやってね。


  それからお友達第一号のピアンちゃんも、あれ以来会ってない。私は療養中だけど、顔も見に来てはくれないみたい…。


  パピーとマミーは領地から駆けつけてくれた。あと警備員たちのご家族もね。


  マミーは泣かせちゃったけど、パピーは怖い顔してなかったのでほっとしている。


  うちの親ってさ、私に何かあると、直ぐに警備員たちを責めるから困るんだよね。だからあの場に居たエレクトくんのフォローはしっかりしたつもり。


  今も普通に黒色メンバーズしてるから、多分彼は大丈夫。


  でもそんなパピーやマミーたちよりは、ご近所に住んでるはずのピアンちゃん。まだ顔を見ていない…。


  私の数少ない、と言うか、一人しかいないお友達。


  (変態仮…お兄さんの事で忙しいのかもしれないね)


  身内から犯罪者が出ると、世間からの風当たりが強くなるだろうし。


  『……』


  ちょっと寂しいけど、私は悪役だから、しょうがないかもね。


  それはそうと、上のお兄さまの許可が下りたら、早く復学したいと思ってる。


  「姫様、風に当たりすぎると、御体が冷えますよ」


  「そうね」


  「次はエルロギア神について振り返ります。ご準備を」


  「わかったわ」


  こんな感じで、こんな調子なのに、家庭教師ルールさんの復習テストと、厳しいナーラ姉さんのマナー講座は毎日続いている。


  この二人のがんじがらめの監視から、早く抜け出したいのが本音なの。 



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