第4話「言い間違え、じゃない」
一週間後、アルディアが避け始めた。
廊下で会うと別の方向に曲がる。図書室に行くと先に席を立つ。朝の挨拶は「おはよう」から「……ん」に短縮された。
(逃げが本格化してきた。もはや芸術的な回避力だ)
俺は作戦を変えることにした。
追いかけるのをやめた。
三日間、俺から話しかけるのをやめた。
挨拶はする。でも、それ以上は近づかない。
アルディアが廊下で俺を見た。俺は軽く頷いて通り過ぎた。廊下の壁に掛かった燭台の炎が、小さく揺れる。
図書室に行ったら、アルディアが本を読んでいた。俺は別のテーブルに座った。
翌日も同じ。その翌日も同じ。
四日目、アルディアが先に話しかけてきた。
「……クロード」
「ああ」
「最近、話しかけてこないな」
「避けていると思ったから」
「……避けていた」
「だから距離を置いた」
アルディアが少し黙った。
「距離を置かれると、落ち着かない」
(正直だ)
「じゃあ俺はどうすればいい」
「……分からない」
「俺も分からない。お前が決めてくれ」
「……そういうの、困る」
「どっちに転んでも俺はそばにいるから、お前が決める方が公平だと思って」
アルディアがため息をついた。
「クロードは反則だ」
「よく言われる」
「私だけに言われてほしい」
(……今、何と言った)
「アルディア」
「何」
「今の、どういう意味だ」
アルディアが顔を赤くした。
「……言い間違えた」
「そうは聞こえなかった」
「言い間違えたの」
「本当に?」
「……本当に」
逃げた。また廊下を早足で去っていった。足音がどんどん遠くなる。
俺は一人で廊下に立って、少し笑った。
(言い間違えたにしては、随分いいことを言った。逃げ足の速さに関してはもう驚かない)
(これは、脈がある)
夜、アルヴィンに報告した。
「少し進展した」
「どの程度だ」
「『ずるいと言われるなら私だけに言われてほしい』と言われた」
アルヴィンが少し間を置いた。
「それは随分進展したな」
「だろう」
「逃げたか」
「逃げた」
「アルディアらしい」
二人で少しだけ笑った。
アルヴィンが珍しく笑っていた。
◇
──クロード・バレンシアの日記より。
『アルディアが「ずるいと言われるなら私だけに言われてほしい」と言った。言い間違えたと言い張った。言い間違えではないと思う。でも確認したら怒るので確認しない。心の中で大事にしておく』
次話:「リリアに背中を押された」




