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幼なじみの悪役令嬢に告白したら、全力で逃げていきました  作者: 夜凪 蒼


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2/12

第2話「泣いて走って、隣にいる」

告白したのは、中庭のベンチだった。


 放課後、二人きり。秋風がやけに冷たくて、ベンチの石がじんわりと尻に冷たい。アルディアが本を読んでいて、俺が隣に座った。いつもの光景。


 「アルディア」


 「何」


 「好きだ」


 アルディアが本のページをめくる手を止めた。


 静寂。


 「……何の話」


 「お前のことが好きだという話」


 また静寂。


 アルディアはゆっくりと本を閉じた。それから、俺の方を見た。


 目が少し、揺れていた。


 「……クロード」


 「ああ」


 「それは」


 「幼なじみとしてじゃない。ちゃんと、好きだ」


 アルディアが黙った。長い沈黙だった。


 それから、目に涙が浮かんだ。


 (泣いた。なんで泣くんだ)


 「嬉しい、の」


 小さな声で言った。


 「よかった」


 「でも」


 「でも?」


 アルディアが立ち上がった。


 「怖い」


 「何が」


 「近くにいてもらうのに慣れたら、いなくなったとき辛いから」


 そして。


 走って逃げた。


 (逃げた)


 (泣きながら、走って逃げた)


 俺はベンチに残されて、アルディアが消えた方向を見ていた。風の音だけが、やけにはっきり聞こえる。


 (言った通りだ)


 (全力で逃げた)


 (予想通りとはいえ、もう少し何かあってもよくないか)




 翌日、アルディアは普通に学院に来た。


 普通に俺に挨拶して、普通に隣を歩く。


 ただ、目を合わせなかった。


 (この「何事もありませんでした」感はなんだ。昨日泣きながら全力疾走した人間の態度ではない)


 「アルディア」


 「何」


 「昨日のことは覚えているか」


 「……覚えている」


 「逃げたな」


 「……逃げた」


 「返事は」


 「……まだ、無理」


 俺は少し考えた。


 「分かった」


 「え」


 「待つ」


 アルディアが初めて顔を上げた。


 「……いつまで」


 「お前が答えを出すまで」


 「それは、出ないかもしれない」


 「出るまで待つ」


 アルディアが黙った。それから、小さな声で言った。


 「……意地悪」


 「どこが」


 「そんなこと言われたら、逃げにくくなる」


 (逃げにくくなる、か)


 「逃げなくていい」


 「怖い」


 「俺がいるから大丈夫だ」


 アルディアがため息をついた。


 「……クロードは、昔からそういうことを言う」


 「昔から好きだったから」


 「……知らなかった」


 「知らせてなかった」


 「なんで今」


 「言わないでいる方が嫌になったから」


 アルディアがまた黙った。


 「……少し、時間をちょうだい」


 「ああ」


 「その間、普通にしていられる?」


 「普通にする」


 「……ありがとう」


 アルディアが前を向いて歩き出した。


 俺もその隣を歩いた。


 (逃げた。でも、完全には逃げなかった)


 それで充分だ。今は。




    ◇


 ──クロード・バレンシアの日記より。


 『告白した。泣かれた。逃げられた。でも翌日普通に隣を歩いた。アルディアは逃げながらも隣にいる。これはチャンスだと思う。たぶん』




次話:「アルヴィンに相談した」

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