第2話「泣いて走って、隣にいる」
告白したのは、中庭のベンチだった。
放課後、二人きり。秋風がやけに冷たくて、ベンチの石がじんわりと尻に冷たい。アルディアが本を読んでいて、俺が隣に座った。いつもの光景。
「アルディア」
「何」
「好きだ」
アルディアが本のページをめくる手を止めた。
静寂。
「……何の話」
「お前のことが好きだという話」
また静寂。
アルディアはゆっくりと本を閉じた。それから、俺の方を見た。
目が少し、揺れていた。
「……クロード」
「ああ」
「それは」
「幼なじみとしてじゃない。ちゃんと、好きだ」
アルディアが黙った。長い沈黙だった。
それから、目に涙が浮かんだ。
(泣いた。なんで泣くんだ)
「嬉しい、の」
小さな声で言った。
「よかった」
「でも」
「でも?」
アルディアが立ち上がった。
「怖い」
「何が」
「近くにいてもらうのに慣れたら、いなくなったとき辛いから」
そして。
走って逃げた。
(逃げた)
(泣きながら、走って逃げた)
俺はベンチに残されて、アルディアが消えた方向を見ていた。風の音だけが、やけにはっきり聞こえる。
(言った通りだ)
(全力で逃げた)
(予想通りとはいえ、もう少し何かあってもよくないか)
翌日、アルディアは普通に学院に来た。
普通に俺に挨拶して、普通に隣を歩く。
ただ、目を合わせなかった。
(この「何事もありませんでした」感はなんだ。昨日泣きながら全力疾走した人間の態度ではない)
「アルディア」
「何」
「昨日のことは覚えているか」
「……覚えている」
「逃げたな」
「……逃げた」
「返事は」
「……まだ、無理」
俺は少し考えた。
「分かった」
「え」
「待つ」
アルディアが初めて顔を上げた。
「……いつまで」
「お前が答えを出すまで」
「それは、出ないかもしれない」
「出るまで待つ」
アルディアが黙った。それから、小さな声で言った。
「……意地悪」
「どこが」
「そんなこと言われたら、逃げにくくなる」
(逃げにくくなる、か)
「逃げなくていい」
「怖い」
「俺がいるから大丈夫だ」
アルディアがため息をついた。
「……クロードは、昔からそういうことを言う」
「昔から好きだったから」
「……知らなかった」
「知らせてなかった」
「なんで今」
「言わないでいる方が嫌になったから」
アルディアがまた黙った。
「……少し、時間をちょうだい」
「ああ」
「その間、普通にしていられる?」
「普通にする」
「……ありがとう」
アルディアが前を向いて歩き出した。
俺もその隣を歩いた。
(逃げた。でも、完全には逃げなかった)
それで充分だ。今は。
◇
──クロード・バレンシアの日記より。
『告白した。泣かれた。逃げられた。でも翌日普通に隣を歩いた。アルディアは逃げながらも隣にいる。これはチャンスだと思う。たぶん』
次話:「アルヴィンに相談した」




