第11話「握り返す強さ」
アルディアが俺の恋人になって、最初に変わったことがある。
図書室で隣に座ったとき、アルディアから隣に来るようになった。
以前は俺が先に座って待っていた。今はアルディアが先に席を取って、隣に荷物を置いておく。
「今日は早かったな」
「……席が埋まると困るから」
「隣の席がか?」
「そう」
「誰かに取られると困るのか」
「……クロードが座る席だから」
俺は少し笑った。
「素直になったな」
「練習している」
「上達が早い」
「うるさい」
でも、机の下で俺の手を探してきた。
(素直になったのか、なっていないのか、よく分からない。この不器用さごと好きなので問題はない)
(でも、これが好きだ)
リリアに報告したら、泣いた。
「よかったです、本当によかった」
「泣くほどか」
「泣きますよ! ずっと応援してたんですから」
「ありがとう、リリア。お前のおかげだ」
「私は何もしてないです」
「背中を押してくれた。それが一番大事だった」
リリアが目を拭いた。
「アルディア様に伝えてください。幸せになってくださいって」
「直接言え」
「言います。でも、クロード様からも」
「……分かった」
セバスチャンも隣にいて、静かに頷いていた。
「おめでとう」
「ありがとう、セバスチャン」
「正直、もう少しかかると思っていた」
「……どういう意味だ」
「アルディア様の頑固さを考えると、半年は覚悟していた。七週間は想定より早い」
(セバスチャン、それは褒めているのか)
「リリアも喜んでいる。俺も嬉しい」
「お前が嬉しそうにするのは珍しいな」
「そうか。リリアが泣くと、俺も動揺する」
リリアがセバスチャンを見て、また泣いた。
「セバスチャン様……」
「泣くな。困る」
「嬉しいから泣くんです」
俺はその二人を見ながら、思った。
(みんな、うまくいった)
アルヴィンに報告したら、「そうか」と一言だけ言って、窓の外を向いた。
「よかった」
それだけだった。でも、その声が少し柔らかかった。
夜、アルディアと帰り道を歩いた。冬の夜気が鼻先を刺す。隣を歩くアルディアの肩が、時々俺の腕に触れる。
「リリアが泣いていたぞ」
「聞いた。嬉しいから泣くって、よく分かる」
「お前も泣くのか」
「……たまに。嬉しいとき」
「見たことないな」
「クロードには見せたくない」
「なぜ」
「泣いているところを見られたら、弱いと思われる」
「思わない」
「……本当に?」
「強がりのお前が泣くなら、よほど嬉しいんだと思う」
アルディアが黙った。
「……クロード」
「ああ」
「告白してくれてよかった」
俺は少し驚いた。
「逃げたくせに」
「逃げたけど。でも、告白してくれなかったら、私はずっと気づかないふりをしていたと思う」
「そうか」
「だから、ありがとう」
俺は繋いだ手を少し強く握った。
アルディアも、同じくらい握り返してきた。
◇
──クロード・バレンシアの日記より。
『アルディアが「告白してくれてよかった」と言った。逃げた人が言った。七週間と二日、待ってよかった。これからも、隣にいる』
次話(最終話):「逃げなくなった日」




