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エピック172【皇配】

長い廊下の先、重厚な木製扉の前に立ったジョンアイデルは、軽くノックしてから中へと足を踏み入れた。共同部屋は広々としており、中央には大きな楕円卓が置かれ、その周囲にアスモディン、ビューネ、クレティアをはじめ、計12人の皇配たちが着席または佇んでいた。空気は張り詰めているわけでもなく、かといって緩みきってもいない——役割を心得た者同士の、落ち着いた緊張感が漂っている。最初に反応したのはアスモディン。指をくるりと回しながら、にこやかに声を上げる。

「おや、ジョンアイデルね。待っていたわ。今日は全員が顔を揃えているのよ」隣に立つビューネはすぐに背筋を正し、澄んだ調子で補足する。

「皇配12名が勢揃いです。それぞれの管轄と進捗、今後の方針について、まとめてお話しできる状況にありますわ」その言葉に応じるように、クレティアが静かに頷き、長髪をかき上げながら口を開く。

「我ら“皇配”は、それぞれが元来持つ性質と力を、国と民のために役立てるべく集められた。12の役割が重なり合い、全体の均衡を支える仕組みになっている」卓を囲む他の9人も、それぞれの特徴をうかがわせる佇まいで視線を向けてくる。統治、経済、法秩序、文化、防衛、資源、情報、福祉、交易、技術、調整、そして理念——12の柱が一つの屋台骨となって、この地を支えているのだと、この場に立つだけではっきりと感じられた。ジョンアイデルはゆっくりと中央へ進み、全員を見渡しながら言った。

「そうか。では順を追って、一人ひとりの役目と現状を聞かせてもらおう」ジョンアイデルの言葉に応じて、まず席を進み出たのはアヌビスだ。長い耳を少し動かし、落ち着いた深みのある声で語り始める。

「私は、不老不死を得たこの国の人々の魂のあり方を見極め、調律する役割を担っています」

彼は指先を胸元に軽く置き、考えを丁寧に紡ぐ。

「魂とは肉体に根ざし、心を形作る根本のもの。体が永遠を得た今、時間による自然な浄化や変化が起きにくくなった分、歪みや澱みが蓄積しやすくなる。それが怒り・絶望・執着となって表に出る前に、気づきを与え、調和を取り戻す——それが私の仕事です」次に、静かな闇の気配をまとったニュクスが、はっきりとした口調で続ける。

「私は以前と変わりません」柔らかいが芯の通った声が部屋に響く。

「夜と静寂、見えない部分の監視と保護を担っています。日の光が届かない場所、人の心の奥深く、制度の隙間——そういった“闇”が悪意に染まらないよう見守り、必要ならば隠れた危機をいち早く察知して報告する。変わったのは対象だけ、役目そのものは昔も今も同じです」続いて、若々しく力強い雰囲気のクロノが身を乗り出し、活気に満ちた声を張り上げる。

「僕は自身の武勇と戦いの理念を広め、人々に触発を与える役割です!」拳を軽く握り、瞳に熱い光を宿す。

「力は争いのためだけにあるのではない。自分を守り、弱きを助け、心と体を鍛えて揺るぎない自信を得るために使う——そんな正しい武の道を伝え、道場や訓練施設を整備しています。永い時間を生きることになったからこそ、怠けて朽ちるのではなく、成長し続ける心構えを植え付けるのが僕の務めです」三人の言葉を聞き終えたジョンアイデルは、それぞれの視点に深く頷き、全体の輪郭がますますはっきりと見えてくるのを感じていた。

「魂の均衡、見えない部分の管理、そして心身の鍛錬……どれも永遠を生きる時代になって、ますます重要になる役割だ。よく分かった」彼は次の者へと視線を移し、穏やかな声で促した。

「では、続けてもらおう」先の三人に続いて、クラミツハがゆっくりと前に出ると、低く落ち着いた声ではっきりと語り始めた。

「わしは生きる営みそのものの意味について、人々に気づきを与える役割を担っておる」

彼は指を軽く組み、部屋の中央を見渡すように続ける。

「不老不死となり、時間の制限がなくなった今、『何のために生きるのか』という問いが浮かびやすくなる。仕事をし、食べ、眠り、誰かと関わり合う——そうした日々の営み一つひとつに価値があることを伝え、生きることそのものが空虚にならないよう導くのがわしの務めじゃ」次に、柔らかな草木のような雰囲気をまとった彩女が一歩進み、澄んだ声を響かせる。

「私は自然の大切さと調和を伝え守る役割です」彼女は窓の外の景色を思い描くように目を細める。

「地下街の緑化、地上の森や畑、川や空気の循環システム——これらがただ整備されるだけでなく、『ヒトも自然の一部である』ことを忘れないように。永く生きるからこそ、資源を使い尽くすのではなく、共に育て受け継いでいく心を育てます」続いて、堂々とした姿でベスティアンが声を張る。

「私はムー大陸の伝統と知恵を広め、継承する役割を果たしています」彼は胸を張り、誇りを込めて言葉を重ねる。

「古くから培われた暮らしの知恵、工芸の技術、儀礼や思想——それらはただの昔話ではなく、長い時間を生きる上で役立つ教えに満ちています。他の地域とも融合させながら、失われず新しい時代に合った形で伝えていく。これが私の使命です」

ジョンアイデルは三人の言葉を静かに聞き、ゆっくりと頷いた。

「営みの意味、自然との共生、伝統の継承……いずれも『永遠』という時間の中でヒトらしさを保つために不可欠な柱だ。よく理解できた」そう言って、さらに残る皇配たちへと視線を移していった。続いて、カラフルな装いと活き活きとした雰囲気のカニャッツォが前に出ると、ギャル調の口調でさっぱりと言い放った。

「アーシはね、魔族として美を磨き、広める役割を担ってるの~!」

指先で髪をくるりと整え、自信に満ちた笑みを浮かべる。

「不老不死で見た目が変わりにくくなった今こそ、『外見だけじゃなく内面から輝く美しさ』を教えてるの。服装や装飾、芸術のデザインから、心の持ち方まで。長い時間を過ごすなら、自分自身を美しく保つことが、毎日を前向きに生きる活力になるでしょ?だからアーシ流の美意識をどんどん伝えてるわ♪」次に、落ち着いた神秘的な雰囲気をまとったヨグソトースが進み出て、はっきりとした口調で語る。

「私は時空の流れと次元の境界を調律・監視する役目を持っています」言葉一つひとつに重みがあり、部屋の空気がわずかに引き締まる。

「永遠の命が広まり、魔導技術も発展する中で、時間の歪みや空間の不安定さが生まれる恐れがあります。過去と未来、この世とあの世の境界が乱れれば、国全体に思わぬ災いが及ぶ。私がそれらの均衡を保ち、異常があればすぐに修復する。目に見えない流れを守ることも、この時代には欠かせない仕事なのです」最後に、がっしりとした体つきで頼もしい雰囲気のジュダが前に出て、力強く宣言した。

「私は唯一の男性皇配として、力仕事や大規模な作業、危険を伴う任務などを率先して引き受けています」拳を軽く叩き、誇りを込めて続ける。

「建築工事の補助、災害時の復旧作業、重い資材の運搬、強力な魔物や外部の脅威に対する前線での防御——力が必要な場面はいくらでもあります。性別や役割で線引きせず、私の持つ力を存分に使って、皆の負担を減らし、国の基盤を物理的にも支える。これが今の私の在り方です」ジョンアイデルは全員の話を聞き終え、ゆっくりと立ち上がると、12人の皇配たちを見渡しながら力強く言った。

「美の心、時空の均衡、物理的な支え——どれもが噛み合って初めて、永遠を生きる社会が崩れずに続いていく。12人それぞれが自分の持ち場をしっかりと理解し、役割を果たしていることが分かった。これからも互いに助け合い、この国の未来を共に築いていってほしい」卓を囲む全員が一斉に頷き、それぞれの瞳には新たな時代を支える覚悟がきらめいていた。ジョンアイデルは頷きながら、少しだけ柔らかな笑みを浮かべて続けた。

「ビューネとアスモディンの役割は先ほども聞いたばかりだし、ちゃんと覚えている。それにクレティアに至っては……毎日のように報告や相談を受けているから、詳細まで頭に入っているよ」彼はクレティアの方を向き、軽く肩をすくめる。

「理念の統括、制度の調整、長期的な見通しの立て方——この国の根本に関わる部分を一手に担ってくれているから、顔を合わせるたびに新しい話が出てくる。忘れようにも忘れられないな」クレティアは薄く微笑み、落ち着いた声で応える。

「それだけ責任の重い役目ということです。12の柱がそれぞれ独立して動いても、全体の方向が定まっていなければバラバラになってしまう。私がその中心で軸を保つことで、皆の力が一つに集まるようにしているだけですわ」ジョンアイデルは再び全員を見渡し、確認するように言葉をまとめた。

「これで12人全員の役割がはっきりした。それぞれが自分の道を歩みながら、互いに補い合い、永遠の時代にふさわしい国を作っていく——これが皇配としての使命だ。今後も変わらず、力を尽くしてくれ」ジョンアイデルは12人の顔ぶれを順に眺めながら、整理するようにはっきりと口にした。

「そういえば、こうして並んでみると性別の在り方も実に多様だな。カニャッツォとヨグソトースは見た目は女性的だが、本質的には中性の存在。ジュダが唯一のはっきりとした男性皇配、それ以外の9人は女性としての立場を持っている。そして俺自身も、どちらか一方に固定されない中性の性質だ」彼は言葉を区切り、意味を込めて続ける。

「だがこの区別は、力や役割の上下を示すものではない。性別が何であろうと、それぞれの本質と能力こそが仕事の基準になる。見た目や枠組みで人を測る古い感覚は、この国では捨て去るべきものだ」クレティアが静かに頷き、応じるように言葉を添えた。

「まさにその通りです。不老不死という新たな生き方を得た今、肉体的な枠組みに縛られない在り方が自然と広がっています。中性であることも、男性であることも、女性であることも、それぞれが持つ多様性こそが、この国に幅と柔軟性を与えてくれるのです」アスモディンもにっこりと笑みを浮かべ、軽やかに続ける。

「性別なんて単なる一面に過ぎないわ。大切なのは、その心と能力をどう使うか。こうして12人がそれぞれの姿で集まり、支え合っている今が、それを一番よく証明しているわね」

ジョンアイデルは深く頷き、全体をまとめるように宣言した。

「ああ。だからこそ我々は、『枠にはまらない』新しい時代の手本となれる。性別の違いを力に変え、誰もが自分らしく生きられる国――それがこれから進む道だ」

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