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エピック171【それぞれの道】

執務室の大きな地図を片付けながら、ジョンアイデルはふと思い出したように独り言のように語り出す。

「そう言えば、アスモディンやビューネ以外の元クリミナルデビルたちはどうしてるんだろう?リヴァイアサンは魔科学研究顧問として立派に働いてくれているが、それ以外の連中は今何をしているのかな」彼は記憶の中にマモーン、ベルフェ、ベリアル、ベヒモスの姿を次々と思い浮かべる。かつては名を馳せた強大な存在たちだったが、皇国が新たな体制へと変わる中で、彼らもまた自分の居場所を探し始めていた。そんなジョンアイデルの疑問に、側に控えていた補佐官がすぐに明確な答えを返す。

「マモーンのことでしたらご安心ください。彼はルミカ様と結婚して新しい家庭を築かれました。そして現在は、黒の大臣であるノワールの補佐役として、国全体の資源管理と流通体制の監修に携わっております」ジョンアイデルは少し意外そうに目を見開き、すぐに納得したように頷く。

「なるほど、マモーンか。かつては富と財の扱いに長け、欲深いとも言われた男だったが、その才覚を国のために活かす道を選んだわけだな。ルミカという伴侶を得たことで、心にも落ち着きが生まれたのだろう」

「はい。彼の経験と勘は、資源の無駄を見抜き、効率的に分配する上で非常に役立っております。ノワールの仕事が順調に進んでいる裏には、マモーンの助言が大きく貢献していると報告されています」ジョンアイデルは口元に柔らかな笑みを浮かべ、残る者たちの行方にも自然と思いを馳せる。

「そうか……元々の力と性質を否定するのではなく、正しい方向に導けば、かつての罪人であっても国の力になれる。これも新しい時代のあり方というわけだな。では、他の者たちはどうだ?」 彼らが選んだそれぞれの道が、これからの皇国にどんな影響を与えていくのか――ジョンアイデルは静かに耳を傾ける準備を整えた。ジョンアイデルが次の名前を待つように視線を向けると、補佐官は続けて落ち着いた声で答えた。

「次にベヒモスのことですが――噂や報告によると、太公望と深く結ばれ、今はとても幸せな関係を築いているとのことです」ジョンアイデルは一瞬目を丸くし、思わず肩の力を抜くように息をつく。

「ベヒモスがか……かつては大地を揺るがすほどの力を持ち、破壊と荒廃の象徴とされた存在だったのに、そんな穏やかな生き方を選んだとはな」

「はい」と補佐官が頷く。

「太公望が管理する山野や河川の区域で、彼はその力を完全に方向転換しています。地盤を安定させ、鉱脈や水源の流れを整え、災害の前兆を察知して防ぐ役割を自然と担うようになりました。二人で共に国土の自然環境を守り育てる立場になっているのです」 ジョンアイデルはゆっくりと頷き、感慨深げに言葉を続ける。

「なるほど。破壊の力も、使い道次第で大地を守る力に変わる。そして心を預けられる相手がいることで、荒々しさが落ち着き、安らぎを得るのだな。これこそまさに『それぞれの道』というわけだ。力だけでなく、生き方までもが変わっていくのを見ると、この国が目指す形が確かに現実になっているのを感じる」そう言って彼はまだ名前の挙がっていない二人、ベルフェとベリアルの行方に、さらなる興味と期待を込めて問いかけた。

「では、残るベルフェとベリアルはどうしている?」補佐官はわずかに口元に笑みを浮かべ、報告を続けた。

「はい。ベルフェとベリアルは共同で『万事解決コンサルティング事務所』を立ち上げ、今では民間から公的な依頼まで幅広く受けて活動しているようです」ジョンアイデルは眉を上げ、興味深そうに身を乗り出す。

「ほう、あの二人が事務所経営とはな。どんな手合いなのか想像もつかないが……具体的に何を扱っている?」

「二人の得意分野が見事に噛み合っています」と補佐官が説明する。「ベルフェは元来、怠惰や停滞を知り尽くし、組織の無駄や非効率を一瞬で見抜く才能があります。現在はそれを活かし、国や街の行政手続き・生産体制の改善、人員配置の最適化など、『無理なく長く続く仕組み作り』を担当しています、一方のベリアルは、交渉術・情報収集・法の抜け道と裏事情に通じていた経験から、紛争調停、契約トラブル解決、秘密裏の交渉事、さらには複雑な権利関係の整理まで、普通の者では手に負えない案件をスマートに処理しています」

ジョンアイデルは思わず吹き出す。

「なるほど!怠惰を知る者が『効率化』を担い、誘惑と駆け引きの達人が『調停と交渉』を受け持つ。悪い癖だった部分を裏返せば、これほど有用な人材はいないな。それで二人の仲は?」

「最初は『面倒事を押しつけ合う』ような雰囲気だったそうですが、今ではむしろ最強コンビと呼ばれています。ベルフェが『これ以上は動きたくない』と線引きすると、ベリアルが『なら私が交渉で丸く収める』と受け継ぎ、逆にベリアルが『この体制は長続きしない』と見抜けば、ベルフェが『じゃあ最小限の手間で回るよう組み直す』と修正する。依頼の成功率はかなり高いと聞きます。それに今は結婚までしてる模様です」

「はは、まさに知恵を正しい方向に転じた好例だ」ジョンアイデルは満足げに頷いた。「欲深いマモーンは資源管理、破壊のベヒモスは国土守護、そして怠惰と策謀の二人は調整と交渉……全員が自分の『本質』を否定せず、国の役に立つ形に変えている。これこそ、この時代が生み出した真の『更生』なのかもしれないな」窓の外に広がる街並みを眺めながら、彼は静かに心の中で呟いた。

――道は一つじゃない。罪人であっても、自分に合った歩き方さえ見つけられれば、未来は開けるものだ。会話が一段落したその瞬間、執務室の扉が音もなく開き、柔らかな空気と共に二人の影が現れた。先に進んできたのはアスモディン。艶やかな長髪を肩に流し、品の良い笑みを浮かべながらも、その瞳には人の心の機微を見透かすような鋭さが潜んでいる。続いてビューネが静かに従い、冷静で理知的な雰囲気をまといながら、落ち着いた足取りでジョンアイデルの前へと進み出た。

「お話の続きに、私たちも加わってもよいかしら?」アスモディンが流れるような口調で切り出すと、ビューネが淡く頷き、補足するように言葉を継いだ。

「先ほどまでの報告、廊下から少し耳に入りました。マモーン、ベヒモス、そしてベルフェとベリアルの動向についてですね」ジョンアイデルは驚く様子もなく、むしろ懐かしげに微笑み、手で席を示した。

「来たか。ちょうど話題に上がっていたところだ。お前たちが来るなら、残された情報も自然と繋がるだろう」アスモディンは軽やかに椅子に腰を下ろし、指でテーブルをなぞりながら続ける。

「彼らの選んだ道、実に興味深いものですね。欲望の権化だったマモーンは資源を守り、破壊の化身だったベヒモスは大地を育み、怠惰と計略の二人は世の中の揉め事を調整する……まるで、自分たちの『長所』を見つけ直したようなもの」隣のビューネは眼差しを落ち着かせ、分析するように言葉を重ねた。

「そして、ここにいる私たちも例外ではない。かつてはそれぞれの在り方で混乱をもたらした存在だが、今はこの国の秩序を支える一端を担っている」ジョンアイデルは二人を交互に見つめ、深く頷いた。

「ああ。だからこそ、この先の話はお前たちの口から聞くのが一番適切だ。――アスモディン、ビューネ、今の二人はどんな役回りでこの地に関わっている?」アスモディンは指を軽く振りながら、実にさっぱりと言い切る。

「アテチは娯楽関係を伸ばしてるわ。祭り・演劇・音楽・酒場から、旅の宿や休みの過ごし方まで、人が『楽しい』と感じるものを全部まとめて整備しているの」 ジョンアイデルが少し目を丸くすると、彼女は続けてにっこり笑う。

「昔は“色欲”の権化と呼ばれ、快楽だけで人を惑わしていたけれど、今は『過ぎず、枯れず、心を潤す快楽を』目指しているの。仕事や重い責務で疲れた心を解きほぐし、明日への力を充電する——そんな健全な娯楽の仕組みを作っているわ」隣のビューネが静かに補足を入れる。

「ええ。アテチの手腕で、街には秩序ある活気が戻りました。ただ騒がしいだけでなく、地域同士の交流や文化の継承にもつながっています。欲望を抑えつけるのではなく、正しい方向に導いて社会の活力に変える——それが彼女のやり方です」

「それにね」アスモディンが身を乗り出す。

「私自身も恋愛や人間関係の相談役を兼ねてるの。心の結びつきを深め、歪んだ執着やトラブルを防ぐ役回りよ。これも元の性質を活かした仕事と言えるわ」ジョンアイデルは腕を組み、深く頷いた。

「なるほど。快楽を知り尽くす者だからこそ、『良い加減』を見極められるというわけか。これで残るは……」

言いかけた彼に、ビューネが穏やかな声で応える準備を整えていた。ビューネは背筋を伸ばし、澄んだ声ではっきりと答えた。

「私は他の仲間たちの補佐役を務めていますわ。方針の整理、記録の管理、各部門の連携調整から、予算や手続きの確認まで——彼らの力が最大限発揮できるよう、土台を固める役回りです」アスモディンが横からうなずいて笑みを添える。

「彼女がいるおかげで、私たちの事業が『勢いだけで暴走する』ことも『曖昧で停滞する』こともないの。頭の回転が速く、細部まで目が届くから、どんな話もきちんとまとめてくれるのよ」ビューネは少し柔らかい表情になり、続けた。

「元来、知識と情報を司る存在でしたから、その性質を生かしているだけです。一人で何もかも抱え込むのではなく、それぞれの得意分野を繋ぎ合わせ、全体の調和を保つ——それが今の私の在り方ですわ」ジョンアイデルは静かに聞き終え、満足げに頷いた。

「なるほど。力ある者たちが集まれば、方向性の衝突や重複も起きやすい。それを調整し、全体を一つにまとめる役割こそ、今の体制に不可欠な要だな」こうして、かつて“悪魔”と恐れられた者たち全員が、それぞれの本質を活かし、国と人々の暮らしを支える道を歩み始めている——その全体像が、この場で明らかになった。

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