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エピック166【サミットなど】

ジョンアイデルは机に山積みされた法案や予算書、外交協定案に最後の署名を記し、印を押し終えると、深く長い息を吐いた。軍事費の調整から養成体制の強化、外交方針の大綱まで、翌日までに必要なすべての制度案と決定事項を整理・制定し終えたのだ。

「……これで、当面の骨格は固まった」緊張が解けた途端、数日間続いた徹夜同然の作業の疲れが一気に押し寄せ、彼は背もたれに体重を預けるようにして、そのまま机に突っ伏して深い眠りに落ちてしまった。書斎の明かりだけが、夜通し彼の眠りを照らし続けた。そして翌朝。窓から差し込む柔らかな日差しが頬をなぞり、遠くで朝の鐘がかすかに響く音で、ジョンアイデルはゆっくりとまぶたを開けた。首や肩には強張った痛みが残っていたが、頭は驚くほど冴えている。彼は上体を起こし、顔を軽く手で拭うと、机の上に整えられた決定書類一式を再び見渡す。軍事均衡、人材育成、そしてエウラシオンサミットへ向けた外交戦略――これからの国の行く先を定める礎が、ここに揃っていた。

「よし、始めるとしよう」低く力強くつぶやき、彼は立ち上がった。だがその瞬間、部屋の空気がざわりと波立つように歪み、窓の外の陽光が一瞬だけ濁りを帯びる。何者か、あるいは何か大きな存在の気配が、遠くない場所から迫っていることを、ジョンアイデルは肌で感じ取った。サミットへの道のりは、ただの外交交渉だけでは済まないかもしれない――そんな予感が、静かに彼の胸を締め付け始めていた。ジョンアイデルは予定表と地図を広げながら、記憶を確かめるようにつぶやく。

「そういや、エウラシオンサミットの開催場所は確か……今回はマグパリアだったな。あそこは転移前の世界で言えば、フィリピンと呼ばれていた地域にあたる」指で地図上の位置を示し、会談の目的を改めて心に刻むように続ける。

「気候も地理的条件も独特だが、大陸間の中継地点としては都合がいい。だが、そんなことより重要なのは、この首脳会談で俺たちの意向と方針をはっきりと示すことだ」彼は拳を机の上に軽く置き、言葉に力を込める。

「国名も制度も理念も新たに定めた今、ジョースタッド皇国が何を目指し、何を重視し、どんな関係を築きたいのか――曖昧な態度ではなく、明確で誠実な姿勢を見せる。それが信頼を得て、同盟の輪を広げる第一歩になるからな」すぐに側近を呼び、指示を出す。

「マグパリアまでの転移経路と警備計画を最終確認する。それから各国首脳に伝える声明文も、理念とメリットがはっきり伝わるようにまとめ直しておけ。準備は万全に進めろ」ジョンアイデルは階段を上り、飛行船の甲板へと足を踏み入れる。風を切る鋼鉄の船体が微かな振動を伝え、すでに出発の準備が整っていることを告げていた。 彼の両脇と背後には、それぞれ深紅、紺青、黄金色のフードを目深にかぶった3人の影が続く。布地は高級な魔導織物で、表面にはうっすらと防護の紋様が浮かび、素性を隠しながらも並外れた存在感を放っている。

「この3人を護衛兼顧問として同行させる。道中の安全と、現地での不測の事態に備えるためだ」ジョンアイデルはキャビンへと進みながら、艦長に短く指示を出す。

「ルートはマグパリアへ直行。上空警戒を強め、中継地点での滞在は最低限に抑えろ」

「了解いたしました」飛行船のエンジンが低く唸りを上げ、船体がゆっくりと浮上を始める。窓の外には皇都の街並みが次第に小さくなり、エウラシオン大陸の広大な空へと進み出す。赤フードの男は魔導測量器を手に航路を確認し、青フードの者は周囲の魔力反応を探知し、黄フードの人物は机の上に広げた会談資料を静かに点検していた。3つの色彩が一つに調和し、ジョンアイデルを中心にマグパリア、そしてサミットへの旅路が始まった。飛行船がマグパリアの港上空へ緩やかに降下し、熱帯らしい濃い緑の山並みと、潮風にきらめく青い海が眼下に広がる。船体が着桟すると、揺れが収まり、舷梯がゆっくりと地面へ伸びた。ジョンアイデルはキャビンの扉を開け、甲板へ出る。その背後には、赤・青・黄のフードを深くかぶった3人が無言で続き、周囲の空気が張り詰めるほどの威圧感を放っている。

彼は一歩足を踏み出しながら、手を上げて3人を制すように言った。

「護衛はここにいてくれ!サミットでは首相だけが会場に入るのが筋ってもんだ」赤いフードの者が一歩前に出ようとする気配を感じると、ジョンアイデルは少し声を低く、しかし断固とした調子で続ける。

「警戒の心配はわかる。だがこの場は各国の体面と礼式が最優先だ。過剰な警備は不信感を呼ぶだけで、我が国の立場を損なう。ここで待機し、緊急連絡に備えていてくれればそれで十分だ」3人は一瞬無言で顔を見合わせ、それぞれ軽く頭を下げて従う意思を示す。赤が「……了解いたします。いかなる事態でも、この場から即座に対応できるよう備えております」と低い声で応じ、青と黄も静かに身構えを解いて飛行船の周囲に陣取った。ジョンアイデルは襟元を正し、書類鞄を持ち直す。潮風がフードの布ほどけた彼の髪をなびかせ、遠く会場のある宮殿地区へと続く道をまっすぐに見据える。

「では、行ってくる」一歩また一歩、彼は単身でマグパリアの石畳の道を歩き出した。背後には3つの色彩の影が、離れた位置からその背中を見守り続けていた。重厚な会場入口で、警備員は背筋を伸ばし、ハキハキと声を張り上げた。

「あなたが噂に聞く、新皇帝ですね。若き指揮者とは聞いておりましたが、まさかここまでお若い方だとは」ジョンアイデルは表情を崩さず、鋭いまなざしを向け、同じくハキハキと切り返す。

「まさか、見た目が若いからといって、このジョンアイデルをなめてるわけではありませんよね?」警備員ははっと気圧され、即座に頭を下げ、さらにはっきりと応じた。

「滅相もございません! 無礼な言い方でした、ただその若さと風格に驚いただけで、決して侮る気持ちなど一切ありません」ジョンアイデルは一瞬黙って彼を見定めると、手を軽く上げてそれ以上問い詰めず、書類鞄を握り直して淡々と告げる。

「ならよろしい。手続きを済ませ、入場させてもらおうか」招待状と身分証を照合し、魔導紋による真偽確認も滞りなく終えると、警備員は敬礼して通路を開けた。

「確認完了です。ジョンアイデル皇帝、どうぞお進みください」重厚な両開き扉が静かに押し開かれ、冷ややかで張り詰めた空気が流れ出す。ジョンアイデルは鞄を胸元に引き寄せ、背筋をまっすぐに伸ばして一歩を踏み入れた。広間の床は深紅の絨毯で覆われ、天井からは大きな魔導シャンデリアが柔らかく輝き、各国の首長たちが並ぶ円卓を照らしている。瞬く間に複数の視線が一斉に集まり、「噂の若き新皇帝」を値踏みするような沈黙が一瞬流れた。彼は動じることなく、落ち着いた足取りで自国の席へと向かう。その歩みには迷いがなく、若さだけでなく確固たる覚悟が漂っていた。席に着くと、周囲の反応を冷静に見渡しながら、会談開始の時を待つ。続々と扉をくぐり、各国の首相や代表者が着席し始める。彼らはちらりとジョンアイデルの方を視線で追い、小声で言葉を交わす。

「あの皇国の皇帝、噂通りやはり若いな。見たところまだ十代終わりか二十代前半といったところか」「だが、見かけだけで侮っちゃいかん。戦場で英雄と呼ばれる功績を立て、混乱していた国をまとめ上げて指導者に上り詰めた男だ」「ふん、そうだな。実力と実績が伴っている以上、こちらが下手に出過ぎる必要もないが、決して油断して謙ることはなかろう」ささやき声はあちこちから漏れるが、ジョンアイデルは眉一つ動かさない。ただ静かに机に肘を置き、指先で書類の端をなぞりながら、すべての視線と評価を冷静に受け止めていた周囲のささやきが収まるのを待つように、ジョンアイデルは静かに口を開き、ハキハキとしたはっきりした声で言った。

「……やはり世の常というものか。出方を伺おうとする者、外見だけで判断して値踏みしようとする者、その思惑は実に様々だな」その声は大きくはないが、落ち着いた重みがあり、近くにいた数人の耳にもはっきりと届く。彼は表情を変えず、鋭い目で円卓を見渡しながら続けるような姿勢を見せ、「だが、それも構わん。この場では言葉と行動がすべてを証明する」といった静かな自信をにじませていた。議長席に重鎮が腰を下ろすと、円卓の配置がまるで大きな時計のように定まった。議長は真ん中の十二時の位置、ジョンアイデルは正反対の六時の位置に着き、他の首相たちも次々と自分の定位置についていく。


静寂が広がりかけたとき、右隣の席から朗らかで親しみやすい声がかかった。

「おうおう、お前が新皇帝か〜。あんたの噂はかねがね聞いておるよ。我が国は前代皇帝の頃から皇国と長く友好を結んできた間柄だから、これからも仲良くやっていこうな」ジョンアイデルは柔和ながら芯の通った表情を浮かべ、相手に軽く会釈し、はっきりとした口調で応じる。

「ありがとうございます。ジョンアイデルです。歴代から続く友好関係を、これからもより堅固なものにできるよう、誠意を持って臨みます。今後ともどうぞよろしくお願いします」左隣に座る首相は、横目でジョンアイデルを値踏みするように一瞥すると、鼻を鳴らして辛らつな口調を放った。

「ケッ、なーにが新皇帝だ。よく見りゃコイツ、ただの貴族かぶれで中身のない若造じゃねぇーか」場の空気が一瞬張り詰め、周囲からもひそかな視線が集まる。だがジョンアイデルは眉ひとつ動かさず、静かに相手を見据えると、淀みなくはっきりとした声で切り返す。

「随分と率直なことを言ってくれますね」言葉に怒りはないが、その響きには軽くあしらわせない芯の強さが込められていた。彼は少し身を乗り出し、落ち着いた調子で続けるような余裕さえ見せる。

「外見や肩書だけで中身を判断するのは自由です。だがこの場では、言葉と実行で自分が何者かを示すだけのこと。そのときになって、また同じことが言えるかどうか――楽しみに待っていますよ」ジョンアイデルの落ち着いた切り返しを受け、辛辣な言葉を放った首相は一瞬眉を上げ、皮肉っぽい笑みを口元に浮かべると、はっきりとした声で応じた。

「ほお、そう返すか。感情的に食ってかかるでもなく、下手に出るでもない……少なくとも口の回し方は利口ではあるな」彼は背中を椅子に預け、指で机の縁を軽く叩きながら続ける。

「だが言葉だけでは何も証明できん。この会談でどんな考えを出し、どんな成果を見せるか――その中身をしっかりと見定めさせてもらうぞ」

周囲の緊張はまだ残っていたが、一方的な否定の空気は少し和らぎ、これからの議論への関心が明らかに高まっていくのを感じられた。議長が開会を告げると、円卓の視線が一斉に六時の席へ集まった。ジョンアイデルは背筋を伸ばし、落ち着きつつも通りのよいはっきりとした声で切り出す。


「では、これより皇国の現状と方針について、誠実に述べさせていただく」 まず内政について。

「国内政策では、税制の簡素化と地方への権限委譲を進め、経済の循環を活性化させる。歴代の制度を根本から覆すのではなく、腐敗と非効率を一つずつ正し、民が安心して暮らせる基盤を固める方針だ」 次に軍事。

「軍備は侵略のためではなく、領土と通商路の安全を守る自衛のみに限定する。兵力は適正規模に整理しつつ、辺境警備と沿岸防衛の体制を強化する。他国への武力威圧や干渉は一切行わない」 最後に外交と周辺国との関係。

「隣国・友好国とは、過去の信頼関係を土台に、貿易・技術・災害支援など相互利益のある協力を深める。そして、私はできればエウラシオン大陸全土と協定を結びたい。意見の相違があれば、対話と法の原則で解決する道を選ぶ。対立より安定を、閉鎖より開かれた関係を優先する――これが皇国の新たな立場である」 彼は円卓をぐるりと見渡し、声に確かな重みを込めて締めくくった。

「疑問や異論があれば、どうぞ率直にお聞かせ願いたい」ジョンアイデルは手元の魔導具に指を触れると、円卓の中央に青みがかった光が立ち上り、瞬く間に鮮明なホログラム映像が浮かび上がった。国の地図や制度の枠組み、経済予測のグラフ、軍事体制の概要などが立体的に映し出され、誰もが一目で理解できるように展開される。


彼は資料を指し示しながら、淀みなく説明を続ける。すると、先ほど辛辣な言葉を投げかけていた首相も思わず身を乗り出し、感嘆の混じった声を漏らした。

「ほお……さっきは正直、見くびっていたが。ここまで具体的に組み立て、どこまで先の将来まで見据えているつもりだ?」ジョンアイデルは静かに笑みを浮かべ、ホログラム上の「長期計画」と記された項目に視線を移し、はっきりと答える。

「あなたたちでは到底考えられないような年月の単位ですよ。これらの施策は最低でも10年――いや、それ以上の時間を見据えて設計しています」

彼は周囲を見渡し、言葉に重みを込めて続けた。

「不老不死を標準とする国になる以上、短期的な利益や目先の安定だけを追っていては意味がない。数十年、数百年先を見据えてこそ、真に持続可能な国の形が築けるのです。この計画は、その長い道のりの最初の一歩に過ぎません」会場は一瞬静まり返り、浮かぶホログラムの光の中で、彼の構想が単なる思いつきではないことを、誰もが肌で感じ取っていた。ホログラムの光がまだ円卓に浮かぶ中、場の空気は一変した。長期的かつ具体的な構想と、誠実な姿勢を示したジョンアイデルとジョースターミクスタッド国へ、エウラシオン大陸の各国代表が次々と口を開く。

「我が国はまず、通商協定と学術交流の締結を提案する。安定した経済圏を共に築きたい」

「防衛に関する相互援助条約を結び、辺境の安全を共に守る道を探りたい」

「正式な友好宣言と使節団の常駐を申し入れる。長い年月を見据えるなら、信頼関係こそ最も堅固な礎となろう」

「魔導技術の共同研究と災害時の支援協力体制も、是非協議させてほしい」先ほどまで警戒心を隠さなかった首相さえ、手を挙げて続ける。

「我が国も例外ではない。これだけ先を見た計画があるのなら、対立より手を組む方がはるかに得策だ。包括的な協力関係を結ぶ用意がある」

提案は絶え間なく飛び交い、ジョースターミクスタッド国が単なる一国家から、エウラシオン大陸の新たな安定軸として認められつつあるのが明らかだった。ジョンアイデルは静かに全ての声に耳を傾け、ホログラムを操作して各国名と提案項目を整理しながら、落ち着いた声で応じる。

「感謝する。いずれの提案も真摯に受け止め、個別に詳細を詰めていくつもりです。短期の利害ではなく、数十年、数百年にわたって続く信頼と協力関係を、共に築いていきましょう」提案の声が一段落すると、議長は目を丸くしてジョンアイデルを見つめ、感嘆と驚きを隠せない口調で声を上げた。


「何という影響力だ……!これまで何度も議題に上りながら、利害の衝突や不信感から実現しそうで実現しなかったエウラシオン大陸全体の一致と連携を、この一回の会議でここまでまとめ上げるとはな」


彼は円卓を見渡し、次々と賛意を示す各国代表の顔を確かめると、さらに深く頷いて続ける。


「新たな国名と理念、長期を見据えた政策、そして誠実な姿勢――それらが一つになって、長年の壁を打ち砕いた。まさに歴史の転換点となる瞬間を目の当たりにしているのだな」その言葉に、会場全体が静かな興奮と期待に包まれ、ジョースター・ミクスタッド皇国が大陸の未来に新たな道を開いたことが、誰の目にも明らかになっていた。ジョンアイデルは静かに手を挙げて場を制し、澄んだ声ではっきりと言い渡した。

「ただし、これだけは一つ守っていただきたい。ジョースターミクスタッド皇国、及びその管轄領域に立ち入る場合、いかなる国の者であろうと皇国側の定める法律と規則に従っていただきます」彼はホログラムを切り替え、法の基本原則や領域内の適用範囲を簡潔に映し出す。

「これは一方的な押しつけではなく、秩序と安全、そして互いの権利を守るための最低限の約束です。皇国の者があなたがたの国に入ればその国の法に従うのと同じ道理。公平なルールがあってこそ、長く続く協力が成り立つのです」会場は一瞬緊張に包まれたが、明確で筋の通った説明に反論の声は上がらず、議長をはじめ各国代表は静かに頷き、その条件を受け入れる姿勢を示した。ジョンアイデルは手元に送られた各国の法典や条約集、慣習法の資料に素早く目を通し、要点を頭に整理してから顔を上げる。その声は落ち着いていながらも誠実で、場にいる誰にもはっきりと届いた。

「各国の法体系と慣習について、一通り理解しました。今後、皇国側の者がそれぞれの国を訪れ、あるいは関わりを持つ際には、その国の法を尊重し、決して風紀や伝統への不敬となる行いがないよう厳しく指導します」彼はホログラム画面を切り替え、相互の法適用範囲と尊重の原則を簡潔に示す。

「こちらが求める条件と同じく、これも信頼の基礎です。互いの秩序を認め合ってこそ、長期にわたる平和と協力が実を結ぶと考えています」その言葉には一方的な主張ではなく、対等な立場での約束が込められており、各国代表の表情からも警戒心がさらに和らいでいくのが見て取れた。会議を終え、宮殿へと戻ったジョンアイデルは、正装を少し緩め、静かな足取りで宮殿の奥へと続く回廊を進んだ。扉をくぐると、そこには色彩の庭――カラーズガーデンが広がっていた。


春から夏へと移り変わる季節を映すかのように、見渡す限り色とりどりの草花が咲き乱れている。深紅の薔薇、澄んだ水色のアザレア、黄金色のマリーゴールド、薄紫のラベンダー、さらには魔導の力で育てられたという虹色の雑草まで、あらゆる色合いが絵の具をこぼしたように重なり合っていた。風が吹くたびに花びらが舞い、甘くさわやかな香りが辺りを包み込む。中央には透明な水晶の噴水があり、水が湧き上がるたびに陽光を反射し、虹の輪を描いては消える。周囲には白い石で造られたベンチが置かれ、木々の緑がやさしく木陰を作っていた。ジョンアイデルはそのベンチに腰を下ろし、長時間の会議で張り詰めていた肩の力をゆっくりと抜く。空気に満ちた色彩と香りが、心身に染み渡るように落ち着かせていく。

「……ここに来ると、ようやく本来の自分に戻れる」そっとつぶやきながら、咲き誇る花々とゆっくりと流れる時間を眺めていた。大陸の未来を左右するような重責を担う彼にとって、この色彩の庭こそが、心を休め、次なる道を見つめ直すための特別な場所だった。色とりどりの花々の間を軽やかに歩み寄りながら、クレティアは澄んだ声でハキハキと言った。

「お疲れ様、アイデル。これで協力同盟も友好国も、一気に大幅に増えたわね」彼女は隣のベンチに腰を下ろし、咲き誇る花々と水晶の噴水を眺めながら、晴れやかな笑みを浮かべる。

「長年まとまらなかった大陸の力が、これで一つの方向を向き始めた。あなたのあの条件も互いの秩序を守る上で納得できるものだったから、反発なく受け入れられたのよ」風にラベンダーの香りが運ばれてくる中、彼女の言葉は疲れた心にもすっと染み渡るような、さっぱりとした明るさに満ちていた。エウラシオン大陸のはるか南、潮風が絶え間なく吹き荒れる外洋の真ん中。波に囲まれた岩礁の上に、ぽつりと小さな密やかな建物が建っていた。そこは外界から隔絶され、普通の船や探知魔法では見つけることも難しい隠れ拠点だった。室内の薄暗い灯りのもと、金髪をなびかせた少女・ベルリアが地図と報告書を机に叩きつけるように置き、ハキハキとした声で吐き捨てた。

「エウラシオン大陸の国々が全部手を組んだか……こりゃかなり厄介なことになったわね。これじゃあロート一族が長年練ってきた野望なんて、潰えたも同然じゃない」彼女の言葉が終わらないうちに、空気が不自然に揺らぎ、閃くような黄金の光が一室を包み込む。光が収まると、鮮やかな黄色の髪に金色の瞳、全身を仕立ての良い黄色のスーツで包んだ男――原初の黄が、まるで空間を踏み越えるように現れた。

「やはりな、お前たち、水面下で介入して混乱を引き起こそうと画策していたわけだ」彼は冷ややかな笑みを浮かべ、部屋の者たちを一瞥する。

「だが残念だな。新皇帝ジョンアイデルが表に出て、ああもはっきりと理念と秩序を示したことで、お前らの計画はあっさり頓挫したようだ」そう言うと、彼は背後に向かって軽く手を振り、呼びかけるように続けた。

「なあ、原初の(ブラン)、それにパニッシャー。これは『仕事』だよ〜」次の瞬間、青白い閃光と重たい足音が同時に響く。一方には純白のローブをまとい、顔の一部まで布で覆った原初の白・ブランが静かに立ち、もう一方には筋骨逞しく、重厚な鎧と武器を手にした男――パニッシャーことジークが現れた。

「残っている証拠も口も、全部消せ、これは皇帝陛下が知ること必要はない」 原初の黄の一言を合図に、静寂が一瞬だけ部屋を支配した。次の瞬間、悲鳴も抵抗の声も外の波の音にかき消されるように、すべてが終わった。建物の中にいたロート一族の関係者たちは、誰一人として生き残ることなく、この世から姿を消したのだった。原初の黄は何事もなかったかのように踵を返し、二人の配下を伴って、再び空間の歪みの中へと姿を消していった。残されたのは、潮風に吹かれる無人の建物と、これから訪れる新たな波乱の予感だけだった。場面は宮殿の執務室へと移る。書類の山を前にしていたジョンアイデルが、ふと眉を動かし、片手をこめかみに当てて微かに目を細めた。

「ん!?秘匿念話だと?」心の内側にだけ直接響いてくる通信の主を瞬時に読み取り、彼は小さく息をつく。

「原初の(ジョーヌ)、それに原初の(ブラン)、そしてジークからか」次々と送られてくる情報を頭の中で整理しながら、彼は独り言のように続ける。

「何々、エウラシオン大陸に不和を撒こうと介入を試みていた連中を、すでに始末したというのか」少しだけ呆れたような、それでいて仕方ないと諦めたような口調が混ざる。

「事前に一言もなく秘密裏に事を運んでいたとはな。まったく……手のかかる連中だ」それでもすぐに表情を緩め、肩の力を抜くように小さく笑った。

「だがまあ、結果として混乱の芽が摘まれ、大陸全体がまとまる方向へ向かったのなら、悪い話でもないか。余計な手間が省けたと思っておくとしよう」場面は再び皇帝宮殿の重厚な執務室へ。ジョンアイデルは先ほどの念話の内容を頭の隅に収めると、机の上に広げられた羊皮紙の束や法令草案に視線を戻し、羽根ペンを再び手に取った。

「不和の芽は摘まれた……だが、根絶しなければまた新たな芽が生えるだけだ」 低く呟きながら、彼は既存の条項に手を加え、新たな規則を書き加えていく。交易の公平性、地方領主の権限の明確化、紛争時の裁定手続き――エウラシオン全土が一体となって機能するための法の骨格を、自らの手で築き上げていく。

「一時的な力だけで秩序は続かない。国を支え、民を守る確かな法があってこそ、真の安定が生まれる」窓の外が次第に夜の帳に包まれても、彼の手は休むことなく動き続ける。ロート一族のような陰謀が再び台頭する隙を与えぬよう、これからの時代を支える規範を一つひとつ、丁寧に紡いでいくのだった。

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