エピック167【原初の魔神と様々な動き】
夜も更けた執務室の中、ジョンアイデルが法令文書にペンを走らせていると、室内の空気がふわりと波立つように歪み始めた。光の粒子が色とりどりゆょ)ゃややらやのゆりゆ集まり、瞬く間に六人の存在が姿を現す。赤い髪を逆立てた威圧的な雰囲気の魔神ルージュ、青い長い髪に落ち着いた瞳を持つ女性魔神ブル、先ほど暗躍者たちを始末した黄色い髪のスーツ姿のジョーヌ、白いローブに身を包み無感情な雰囲気のブラン、黒髪に黒のスーツで冷静沈着なノワール、そして紫の髪と紫のスーツに身を包んだ幼女の姿をしたヴィオレ――まさに原初の力を宿す者たちが、整然と円卓の前に並んだ。
ジョンアイデルはペンゃりなやれやきゅを置き、背筋を伸ばして六人を見渡すと、はっきりと力強い声で告げた。
「君たちをここに呼び出したのは、この新しいジョースター・ミクスタッド皇国の礎を固め、それぞれに明確な役割を与えるためだ」彼は一人ひとりを順に指し示し、担当を定めていく。
「ヴィオレ――お前には検事総長を任せる。法の解釈と執行、罪の裁定を統括し、公正さを守ることを務めとせよ」次に白いローブの男へ視線を移す。
「ブラン――お前は白の大臣となり、司法全般、異端の監視と審問、そして国の内外の監察業務を一手に担ってもらう。秩序を乱す芽を見逃すな」続いて青い髪の女性へ。
「ブル――青の大臣として、防疫体制の強化、医療・魔術療法の発展、国内の治安と民心の安定を管理せよ。民の命と暮らしを守る要となるのだ」黒のスーツの男には経済の根幹を託す。
「ノワール――黒の大臣。財政運営、資源の確保と配分、食料備蓄、商工業の発展と管理を担当する。国の血となる経済を健全に回す責任を負え」赤い髪の魔神には国の守りと対外関係を任せる。
「ルージュ――赤の大臣。軍事体制の整備と訓練、そしてエウラシオン各国や他の国との外交交渉・同盟維持を担当せよ。力と言葉の両方で国の立場を守り、示すのだ」最後に黄色いスーツの男へ。
「ジョーヌ――お前は環境担当として、国土の保全、自然魔術の調和、気候や生態系の管理を統括する。長い年月を見据え、国が住み続けられる土台を保つことが役割だ」六人はそれぞれ軽く頭を下げ、一言ずつ応じる。
「承知しました」「お任せください」「我が力を尽くしましょう」ジョンアイデルは彼らの目を真っ直ぐに見つめ、締めくくった。
「それぞれの領域で自由に手腕を振るえ。だが忘れるな――この国の理念、法、民の幸福を最優先に動くこと。力だけでなく責任を伴ってこそ、お前たちの存在も国に意味を持つのだ」こうして、ジョースター・ミクスタッド皇国の中枢を支える新たな統治体制が、正式に始動したのだった。新たに緑の髪をなびかせた女性魔神ヴェールが、柔らかくも鋭い雰囲気をまとって姿を現す。まだ名を呼ばれていなかったことに少し眉を上げた彼女に、ジョンアイデルははっきりとした口調で言い添える。
「おっと、忘れちゃいかんな、ヴェール、君には科学・教養担当だな」彼は先ほどの六人に加え、彼女の役割も明確に定めるように続ける。
「魔術と理論の融合、技術開発、学術の振興、そして未知の現象や法則の解明――これらすべてを統括する。道具と知恵で国の可能性を広げ、安全で持続可能な進歩を導くのが君の務めだ」ヴェールは細い指で緑色の前髪をかき上げ、冷静な眼差しで頷く。
「承知いたしました。魔法理論から工学、医療技術の改良まで、理にかなった発展を導きましょう」こうして七人目の役職が加わり、ジョースター・ミクスタッド皇国を支える原初の魔神たちの体制が、完全にそろったのだった。ジョンアイデルは口元にわずかな安堵の笑みを浮かべ、円卓に並んだ七人の魔神たちを見渡しながら、晴れやかな調子で言葉を続けた。
「これで私の負担も少しは減るな」
それまで一国の根幹を一人で支えてきた重圧が、明確な役割分担によって分散されることを実感するように、彼は椅子に深く腰を下ろす。
「それぞれの持ち場で最善を尽くしてくれれば、私が細かく口を出す必要もなくなる。互いに連携を取り、無用な衝突は避けること――それだけを忘れなければ、この国は確かな軌道を描いて進んでいくだろう」ルージュが力強く頷き、ブランが静かに応じ、ヴェールは興味深そうに新体制の行く末を見据える。こうして、原初の魔神たちを中枢とした統治機構が、本格的に動き出す合図が放たれたのだった。ジョースター・ミクスタッド皇国の各地の役場や街の窓口では、ミクカードの発行業務が毎日途切れなく続いていた。身分証明、納税、公共料金の支払い、行政手続きまでを一枚に集約したこのカードにより、それまで分散していた国民情報の管理が一本化され、不正や混乱の余地が減り、国全体の管理体制が着実に万全な形へと整えられていく。それと歩調を合わせるように、国民専用携帯端末「ミクリンク」の普及も急速に進んでいた。ヴェール率いる科学部門が開発したこの端末は、ミクカードと魔導技術で連動し、通信はもちろん、行政通知の受信、資格確認、地域の情報閲覧、さらには魔法炉の安全制御などまで対応する多機能機器だ。田舎の集落にも無料配布または低価格で提供され、誰もが平等に利用できる環境が整えられていった。この二つの仕組みが一体となることで、ジョンアイデルが目指す「透明で効率的な統治」が現実に近づき始める。街の人々は「手続きが楽になった」「国からの連絡がすぐ届く」と便利さを実感し、皇国の基盤は目に見える形で強固になっていった。行政と通信の基盤が整うのに並行して、専属療養士制度も皇国全土で本格的に実施されていった。これはヴェール率いる科学部門が魔導治療と生理学を融合させて作り上げたシステムで、地域ごとに国家資格を持つ療養士を常駐または巡回配置する仕組みだ。ミクカードとミクリンクによって国民一人ひとりの健康記録が一元管理され、体調の変化や既往歴が瞬時に端末から確認できるため、診察や投薬の精度と速さが格段に向上した。役割は多岐にわたる。軽症の手当てから魔術による癒し、慢性病の継続ケア、妊産婦や高齢者の定期訪問、さらには衛生指導や伝染病の予防までを担当する。治療費は基本的に国庫で負担され、貧しい家計でも安心して診察を受けられる体制が敷かれた。町の広場や村の集会所には簡易療養所が併設され、「以前は都心まで何日もかけて行かなければならなかった」という農村部の住民からも歓迎の声が上がる。ジョンアイデルが掲げる「国は民の命と暮らしを守る」という理念が、こうして目に見える形で人々の生活に根付き始めていた。資源の無駄を抑え、持続可能な国造りを進める施策も順調に成果を上げていた。資材の再利用・循環体制が確立され、国全体の資源費用が大幅に削減されるに至った。この事業を主導するのは、物資の流通・備蓄・管理を統括するノワールと、魔導工学・素材解析技術を担うヴェールのコンビだ。
- ノワールは各地の廃棄予定資材、建築廃材、使用済み魔導機器の回収ルートを整備し、分別基準と保管拠点を全国に配置。無秩序な廃棄をなくし、再利用可能なものを一括集約する仕組みを作った。
- ヴェールは魔術解析と加工技術を駆使し、劣化した金属・石材・魔導結晶などを再生処理。不純物を取り除き、新たな資材として再成型する技法を開発し、「再利用品でも新品と同等の品質」を実証した。この連携により、新規採掘や素材調達にかかるコストが3割以上削減される地域も出る一方、廃棄物による環境汚染も抑えられる二重の効果が生まれた。「使い捨てない社会」の形が見え始め、皇国の財政と自然環境の両方にゆとりをもたらしていった皇国中枢地下の管理区画も、明確な階層と役割で整理されていった。
- 地下4層:裁判拘留エリアとして正式に定着。起訴前の被疑者や公判待ちの者を収容し、逃亡や証拠隠滅をん防ぐ厳重な管理体制が敷かれる。ミクカードで身元を厳格に照合し、外部との接触も必要最低限に制限される。
- 地下5~8層:罪の重さに応じた段階別収容エリアとして設計。下層へ進むほど警備は厳しく、刑罰も重くなる仕組みだ。
- 地下5層:軽犯罪・初犯者向けの通常監獄
- 地下6層:暴力犯罪・常習犯向けの中等警戒区
- 地下7層:凶悪犯・組織犯罪者向けの高警戒区
- 地下8層:反逆・国家転覆など皇国に深刻な損害を与えた重罪者専用の最下層・最高度の隔離施設
この区画の警備と管理は主にルージュが担当し、ヴェールが魔導結晶による監視網と結界を設置。魔力や特殊能力を封じるフィールドが各層に張られ、いかなる手段でも脱出は不可能な体制が築かれた 。「罪の重さに見合った処遇」を明確にすることで、法の公平性と抑止力を両立させる――これもジョンアイデルが目指す統治秩序の一環であった。




