14 一仕事終えて
「ふわあ……わたしが寝ている間に、何やら険悪なムードになっていますね?」
塔の入り口へ戻ってきたところで、ちょうど目を覚ましたヒスイがカナリアの背から降りてそう言った。
「うっ、うぐ……ぐすっ……トキに……傷物にされた……」
シドがヒスイの腰にしがみつき、大粒の涙を流しながら答える。
以前、カナリアにも同じような事を言われた覚えがあるが、どう考えても言葉のチョイスがおかしい。
他人が聞けば、私がそういう趣味の持ち主だと勘違いされてしまう危険性がある。
「訳の分かんない事言ってないで、いい加減泣き止んだら? ……まったく、泣きたいのはこっちだよ」
「……オレ! オマエ……ゼッタイニ! ユルサナイ……!」
私が面倒そうにあしらうと、何故かカタコトのシドがこちらを睨みつけてくる。
その様子を隣で見ていたカナリアが、私とシドの間に入った。
「まあ、その辺にしときなさいよ。トキが怒るのも分かるけど、シドが頑張ったのも事実なんだからいいじゃない」
「カナリアはまだ付き合いが短いから、そんな風に言えるんだよ。こいつは油断してるとすぐにバカをやり出す病気なんだから、これくらい言って当然なの。……ていうかカナリア、シドに対してだけなんか甘くない?」
私の質問に、カナリアは頬を赤く染める。
「別に、そんなつもりはないんだけど……。ただ、シド様が泣いたらあんな感じなのかしらって思ったら、優しくしてあげたい気持ちになるの」
「……カナリアってシドの事、可愛いと思ってるの?」
「外見だけなら、どストライクよ」
カナリアの発言に、背筋がゾクッとした。
◆ ◆ ◆
ビールの入ったジョッキを片手に、シドが乾杯の音頭をとる。
「それじゃあ、今日も一日お疲れさん! かんぱーい!」
無事、街へ戻ってきた私たちは、依頼主への報告を済ませ酒場で打ち上げを行っていた。
報酬はかなりの額になり、おかげで懐も潤ったが、それでも私は釈然としていない。
その理由は……周囲の盛り上がりのせいだろうか。
「いやあ、それにしても塔の様子を見てくるだけで、こんなにも報酬が出るとは思わなかったな! いい運動にもなったし、大満足だ! お前らも本当によくやってくれた!」
「そうね。あたしも久しぶりの外の仕事だったから、かなりの充実感を得られたわ。帰りは無事にヒスイも背負ってこられたし、上出来よね」
「そうですよカナリアさん。眠ったわたしを塔の下まで運ぶというのは、今回の仕事において、最大の山場でしたからね。あなたの働きは勲章ものです」
「それを言ったらあんただって、途中であたしの虫刺されを治してくれたじゃない。おかげですっかり痒みが引いたわ。虫刺されに効く回復魔法なんて初めて知ったけど、あんたって見た目はただの子供なのに、凄く優秀なのね」
酒を飲んでいるせいか、いつもより饒舌な三人が互いを褒めあっている。
いや、ヒスイの場合はノンアルコールのドリンクだから、この場の雰囲気に流されているだけか。
……やがてシドは、飲み干したジョッキを机に置くと両手を組み、その上に顎を乗せたまま口を開いた。
「まあまあ、落ち着けよ二人とも。確かに今日のお前らの活躍には目を見張るものがあった。……しかしだ。俺たち四人の中で、本当に称賛を受けなきゃならねえのは……一人しかいねえよな?」
シドの言葉に、ヒスイとカナリアが静かに頷く。
それを確認したシドは、私に片手を差し出して告げた。
「トキ……今日の最優秀賞はお前に譲るよ。塔での活躍、見事だったぜ」
「シド……ってうるさいよ! 冷静に考えたら今日の仕事、私一人でほとんど片付けてるじゃん! まともに働いたの私一人じゃん!」
私は差し出された手を取る事なく、椅子から立ち上がった。
……確かに、塔には四人で登った。
しかし、本来の目的である塔の調査に関して働いたのは私だけ。
私が塔の端から端まで歩き回り、壁を入念にチェックしている間、他の三人は「自分の役割は別にある」などと言って、作業を手伝う事はなかったのだ。
シドが、不満げに顔をしかめながら文句を口にする。
「むっ、別にお前一人が頑張ったって訳じゃないだろ? 俺だって華麗な剣捌きで、大量のコウモリを一人で倒して見せたじゃねえか。忘れたとは言わせねえぞ?」
「アル中が調子に乗らないでよ! どうせ、ハイテンションだった時の事なんか、酔っ払ってて記憶にない癖に! ていうか、他二人にしたって虫刺されを治しただの、眠ってたから背負ってやっただの……。それって、そんなに褒め合うようなレベルの話かな!?」
頭を抱えて机に突っ伏した私に、ヒスイが柔らかい笑みを向ける。
「まあまあ、誰が活躍したっていいじゃないですか。わたしたちは四人で一つ、運命共同体なのですから。……あっ、そういう訳ですから報酬はきっちり四等分でお願いしますね?」
「…………」
一切隠す事なく、甘い汁を吸う気満々の発言をしたヒスイに、呆れて言葉を失う。
すると、その様子を見ていたシドが、何事もなかったかのように声をあげた。
「よーし、それじゃあ気を取り直して今日は朝まで飲むぞー!」
「「いえーい!」」
私の気も知らずに、盛り上がる三人を見て思う。
……ああそうだ、私の仲間はこういう奴らなんだった。
「はあ……もういいや。全部忘れて私も飲もう」
これ以上、抗議を行ってもらちが明かない。
諦めた私は、ジョッキに残ったビールをやけくそ気味に飲み干した。




