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13 自業自得

 他の仲間が休憩する中、私とライは一心不乱に書類にペンを走らせていた。

 ライ曰く、この書類は天界の機密に関わる重要なものだそうで、下界の人間に手伝ってもらう訳にはいかないらしい。


 よって、本来は十人がかりで片付けるべき量の仕事を、無謀にも私とライの二人で行っていたのだけど……天使としてはそれなりにエリートである私の能力をもってしても、この量を短時間で終わらせるのは容易ではなかった。


 ちなみに、シドにも手伝ってもらえるか確認したところ、「神は茶を飲むのが仕事なんだから、書類仕事なんか出来る訳ねえだろ」と一蹴された。


「いやー、本当に助かったっす。トキさんがいなければ、また上司に怒られるところでした。このご恩はこれから先、百年ほど忘れないっす」


 ライが作業の手を止める事なく、申し訳なさをあまり感じない礼を述べた。

 その言葉に、部屋の隅で大人しく座っているヒスイとカナリアが小声で反応する。


「天使ってこんな感じなのね……。なんかイメージと違うわ」

「そうですね。何か、見てはいけないものを見てしまった感覚です」


 ……これは間違いなく、天使に対する風評被害だ。

 一部のぐうたらな天使を、一般像として受け止めないでほしい。




 ――それから、約三時間後。

 私は持っていたペンを机に置き、ぐ~~~っと身体を伸ばした。


「……はい、じゃあこれで全部おしまい! ついでに机の上も少し片付けておいたから、これからは整理整頓を心掛けるように!」


 私がそう言ってライの背中を軽く叩くと、ライは照れくさそうに頭を掻いた。


「えへへ。以後、気を付けるっす」


 塔の調査だけのつもりが、天使の手伝いまでさせられてしまったけど、とにかくこれで今日の仕事は終わりだ。


 外はすでに暗くなっているし、さっさと街に帰ってしまおう。

 私は仲間の三人に声をかけて、階段の前に立った。


「それじゃあ、私たちはもう帰るから。……今度は仕事、溜めすぎちゃダメだよ?」

「了解っす! ありがとうございました!」


 手を振って階段を下りていく私たちに、ライは深々と頭を下げて見送った。



◆ ◆ ◆



 ライと別れた後。

 行きに比べ、すっかり緊張感がなくなった私たちは、隊列を崩したまま階段を下っていた。


 ヒスイに関しては疲れて寝てしまい、カナリアにおぶられている始末だ。

 塔内部を月明かりが照らす中、私は隣を歩くシドに話し掛けた。


「……結局、天界に帰るための手がかりは掴めなかったね」

「そうだな。せっかく復讐のチャンスかと思ったのに、なんだか不完全燃焼だ。……憂さ晴らしに、あいつだけでも殴っとくべきだったか」


 理不尽な暴力を口にするシドは、そう言って静かに拳を見つめる。

 あまり食い付きがよくないシドの態度に、私は話題に切り替えた。


「そういえばシド、あなた行きと違ってずいぶん大人しくなったね。さっきまでのテンションはどうしたの?」

「そうか? 帰りのテンションなんかこんなもんだろ」


 私の質問に、シドはこちらを見る事なく返事をした。

 ……なるほど、そうくるか。

 私は、街を出てからずっと気になっていた疑問を解決するべく、自然を装ってシドに尋ねた。


「あのねシド。さっき仕事を手伝ってる時に、ライと話してたんだけどさ」

「なんだ?」

「あの子さ、最初に匂いで私たちに気付いたじゃん。それで、聞いてみたんだよ。私たちの匂いって、そんなにすぐ分かるものなのって。そしたらあの子、『僕の鼻が効くせいかもしれませんが、微かにアジサイ酒の匂いがしたから分かった』って言ったんだ」


 私の言葉に、シドがチラリとこちらに目を向ける。


「……へえ。つまり、四人の中の誰かに昨日の酒が残ってる奴がいたと? でも、俺たちは誰もそんな匂いには気付かなかったよな。あいつの気のせいなんじゃねえの?」


 そして、何度も瞬きを繰り返しながら、ソワソワした様子でそう言った。

 確かに、どうしてライだけが気付けたのか、それも気になる……が、今はそんな事どうでもいい。

 私が今、やらなければならない事。……それは、シドの疑惑についての追及だ。


「……アジサイ酒はね、どれだけ飲んでもよっぽど鼻が効く人じゃない限り、酒臭さが気にならないんだって。それでいて、一度飲んだら酔いが半日ほど覚めないらしいの。そういう特徴があるから、昔からこの地域では夜通し騒ぐお祭りとかの前に景気付けで飲まれることがあるそうだよ」

「そ、それが一体どうしたって言うんだよ?」


 更に瞬きの回数を増やしたシドは、語気を強めて私に言い寄った。

 私はその反応を見て、シドに対する疑惑が確信に変わる。




 ああ、やっぱりそうだ……こいつ、仕事前に酒飲んでやがった!




 深くため息をつく私に、シドは落ち着きなく尋ねる。


「なあトキ、どうして俺をそんな残念そうな目で見るんだ!? 俺がそんなに悪い事をしたって言うのかよ! だいたい、今日の俺はめちゃくちゃ頑張ったんだからそれくらい別にいいじゃねえか!? ほとんどの敵を一人で片付けて、神の名に恥じぬ活躍を――」

「キシャー!」


 その瞬間、必死に喚くシドの言葉を遮って、闇の中から鳴き声とともにコウモリが現れた。

 日が落ちているせいか、登りの時と比べ攻撃的な様子。


 前を歩くカナリアの耳にも、シドの所業が届いていたのだろう。

 カナリアは助けに来る素振りを一切見せず、ヒスイを背負ったまま先を歩く。

 その思いは、私も同じだった。


「そうだね。シドは『本日大活躍』だったもんね。……だったら、帰りもその調子でよろしく」


 私はシドの両肩をガッシリ掴むと、コウモリのいる方向に体を向き直させた。


「おいトキ! 待ってくれ! 悪かった、俺が悪かったから! こんな数、一人じゃ対応できな……ちょ、待っ、トキー!!」


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