15 新たな方針
――翌日、いつもの広場にて。
「あら、ようやくきたわね」
「おはようございます。……といっても、もうお昼前ですが」
先に来ていたカナリアとヒスイが、後からやってきた私とシドをそう言って迎えた。
全員が揃ったところで私は早速、現状とこれからの方針について説明を始める。
まずは昨日の仕事で、ある程度まとまったお金が手に入った事によって、しばらくの間アルバイトをする必要がなくなったという事。
とはいえ、四人で行動する以上お金はいくらあっても足りないため、これからは無償の善行の頻度を下げて、ちゃんと報酬の出る仕事を主な善行として活動していこうという事。
その旨をみんなに話すと、カナリアが一番早く反応した。
「じゃあまた、街の外に出る仕事を受けるのね?」
「……俺、しばらくは危険な目に遭いたくない」
表情の明るいカナリアの隣で、対照的に暗い表情のシドがボソッと呟いた。
「そんな事言ってたら何も出来ないじゃない。あたしはもっと広範囲に活動して、更なる信者の獲得を目指さなきゃならないの。あんたにもある程度は我慢して貰わないと、あたしが困るわ」
「ああ……その事なんだけどね。シドはここ数日の出来事で、モンスターと戦うのがトラウマになってるみたいなの。昨日の晩だって、寝言で『もう噛まれるのは嫌だ! 許してくれ!』ってうなされてたし。仕方ないけど、今日は街の外に出るのはやめてあげて」
私がシドを庇うと、カナリアは顎に手を当てて眉をひそめた。
「……つまり、今強引にモンスターの前に放り出せば、あの泣き顔がまた見られるという事かしら?」
「……気持ち悪い事、考えないでくれる?」
「失礼、自重するわ」
カナリアは、ついうっかり口を滑らせてしまっただけといった感じで、大して気にしていないようだが、私としては結構本気で気持ち悪い。
こいつ、いつかシドを襲ったりしないだろうな。
「今日は、街の中で出来る事を探そうよ。昨日の仕事で、当分の間食べていけるだけのお金も手に入れたし、報酬が少ない善行でもいいでしょ」
「分かりました。では、そういった条件で探してきます」
私の提案に、ヒスイとカナリアが広場に集まった人たちへ聞き込みに向かう。
そんな会話を隣で聞いていたシドが、私に不満げな表情を向けて言った。
「えー……。俺としてはそもそも何もしたくないんだが。お前ら三人で行って来いよ」
……ブチッ!
シドの言葉に、私の中で何かが切れる音がした。
「……あのさ、あんまり神様に対して、こういう言葉遣いはどうかと思うんだけど……あなた、もしかしなくても舐めてるよね?」
「ひえっ……」
私の言葉に、シドが小さく悲鳴をあげるが構わず続ける。
「本当は私だって、自分が天界に帰る事だけ考えて行動したいんだよ? でも、天使として神様を見捨てる訳にいかないし、あなた自身にも天界に帰る意思があるようだから、今は面倒を見てあげてる。それなのにあなたは、危険な目に遭いたくないだとか、今日は休みたいだとか文句ばっか垂れてさ……。ねえ、あらためて聞くけど、本当に天界へ帰るつもりあるの?」
「そりゃあ……俺だって、帰るつもりはあるけどよ……」
目を泳がせてボソボソと喋るシドを見て、余計に腹が立った私は更に強い口調で言い放つ。
「だったら、私が言わずとも善行の一つでもこなしてきてよ! その気があったら、普通はもっと積極的に取り組むもんでしょ!?」
「いや……あの……。はい……すみません」
肩を落として謝るシドを見て、少しだけ普段の仕返しが出来たなと満足する。
しかし、反省する素振りを見せたのも束の間、シドはすぐに顔をあげると私に反論してきた。
「で、でもよ、俺だって自分なりに頑張ってるつもりなんだぜ? イノシシにしろコウモリにしろ、戦う時はいつだって先頭に立ってる訳だし……。それに何より、この溢れるカリスマ性で、ムードメーカーとしての役割は十分果たしてるだろ?」
こちらの顔色をうかがいながら、一方で見当外れな意見を口にするシド。
そんなシドに、私はとどめを刺す勢いで捲し立てる。
「これまでの行動の、どこにそんな要素があった!? 下界に降りてから、迷惑しかかけてないくせに! カリスマ性? ムードメーカー? 冗談も大概にしてよね、横領したクズの癖に!!」
「お、横領したクズ!?」
私の言葉にショックを受け、呆然と立ち尽くすシド。
――と、私たちがそんな風に騒いでいるところへ、ヒスイとカナリアが戻ってきた。
「あんたたち一体、何やってるのよ。どうせまた、シドが何かやらかしたんでしょうけど、それにしても騒ぎ過ぎ。完全に悪目立ちしてるじゃない」
「カナリアさんの言うとおりです。お二人の仲が良いのは結構な事ですが、もう少し場所を選んでください」
二人の言葉を聞いて周囲に目を向けると、通行人が私たちに近づかないよう距離を取っていた。
……確かに、悪目立ちしている。
これ以上、シドとじゃれあっているかのように思われるのも嫌だし、いじめるのはこの辺にしておこう。
「はいはい、分かったよ。……ところで、ヒスイの持ってるそれ何?」
私は、ヒスイの手元を見ながら尋ねる。
聞き込みから戻ってきたヒスイとカナリアは、それぞれ屋台で購入してきたと思われる食べ物を手に持っていた。
ただ、ヒスイが持っているのは、真っ黒の外見をした怪しい串料理。
隣のカナリアがシンプルなサンドイッチを持っているだけに、余計にゲテモノのように見える。
ヒスイは、放っておいたらどんなものでも食べようとするから、注意が必要なのだが……。
「ん? これですか? これは、そこの屋台で買ったトカゲの丸焼き串です。……一口食べますか?」
「いらない」
……まさかのトカゲだった。
やはり、食に対してまともな感覚を持つ事は大切だ。
私はカナリアの持つサンドイッチに目を向け、その飾り気のなさに安堵した。
「……何よ。そんな目で見たって、あげないわよ」
「別にそういう意味で見てた訳じゃないよ。ただ、私たちって何から何までバラバラなのに、よく一緒にいられるなって感心しただけ」
「は? 何よそれ」
私が皮肉っぽく言うと、カナリアは首をかしげた。
そんな中、ちょうど会話が切れたタイミングでヒスイが口を開く。
「話を戻しますが、今日できそうな善行についていい話を見つけてきましたよ」
「ああ、ちゃんと探してきてくれたんだ。……で、どんなの?」
「はい。なんでも最近、街のいたるところで不審者の目撃情報があるらしいのです。そのため、街の皆さんは有志を募って、夜に見回りをしているそうなのですが、あまり人手が足りないらしく……。そこで、私たちが手伝ってみてはどうか……という話なのですが」
なるほど、塔の調査の次は夜間の巡回か。
これなら街の外へ出ずに済むため、条件としては問題ない。
何より、大勢いる街の人の役に立てるなら、善行としても十分価値のあるものだろう。
「……うん、悪くなさそうだね。カナリアもそれで問題ない?」
私の言葉に、カナリアは腕を組み大きく頷いて答えた。
「ええ、大丈夫よ。夜に街を歩いて回ればいいのよね。同時に勧誘もできそうだし、あたしにもってこいだわ」
「……勧誘?」
「見回りついでに、各ご家庭にシド様のありがたいお言葉の書かれたビラを、配って回るのよ。一石二鳥でしょ?」
「それは絶対にやめて」
そんなものを夜な夜な配っていたら、私たちが不審者扱いされてしまう。
とはいえ、これで話の大筋はまとまった。
後は、嫌がっていたシドがどう反応するかだけど……。
「ねえ、さっきからやけに大人しいけど、シドはどう思う……ってあれ? シドは?」
……気付けば、先ほどまでそこにいたはずのシドが姿を消していた。
私が周囲をキョロキョロと見回していると、ヒスイが串を咥えながら説明した。
「シドさんなら、『俺も何か買ってくる』と言って、屋台に向かっていきましたよ」
…………。
あいつ、戻ってきたら一発シバいてやろう。




