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11 駆け上がるシド

 終わりの見えない螺旋階段を、ひたすら登っていく。

 かなり上まで登ってきたと思うけど、今のところ危険な箇所は見つかっていない。


 この調子なら日をまたぐ事はなさそうだ。

 前方から、シドとカナリアの会話が聞こえてくる。


「シド、あんたいつまで先頭を歩くつもりなの? 怪我する前にあたしの後ろに回ったほうがいいんじゃないかしら」

「なんだ? お前まで俺の事をバカにしてんのか? さっきも言った通り、俺はちゃんと戦えるから心配すんな」


 どうやらシドは、いまだ先頭を明け渡すつもりがないらしい。

 その様子を見たヒスイが、疑問を口にする。


「なんだか、街を出てからのシドさんはやけに積極的ですね。今朝は全然乗り気ではなかったのに……。どうしてでしょう?」

「言われてみればそうだね。最初は『何すればいい?』って聞いてくるばっかりだったのに、今はああやって先頭をずんずん進んでるし。ここにくるまでに何か心境の変化でもあったんじゃない?」

「……もしかしたら、変なものを拾い食いして気分がハイになっているのかもしれません」


 私とヒスイの間に、一瞬の沈黙が流れる。


「……いやいや、さすがにそれはないでしょ。いくらあいつでも、そんなバカな真似はしないと思うよ?」

「そうですよね。さすがにそこまでバカじゃありませんよね」


 そんな事を言いながら、笑っていると前方から再び声が響いてきた。


「全軍、俺に続けー! ぶわっはははは!」


 本当に、変なもの食べてないよね……?




 それから、またしばらく階段を登ると一つの扉を見つけた。

 扉の向こうには小さな部屋があったが、室内には窓がないようで、中は完全な闇そのもの。

 私は考えなしに飛び込もうとするシドを制止して、部屋を覗く。


 すると、部屋の中から何者かの気配を感じた。

 表情を硬くした私に、ヒスイが尋ねる。


「ん? トキさん、どうかしましたか?」

「いや、部屋の中に何かいた気がして」


 私はすかさず「聖なる眼」を発動。

 天井付近に、邪念を感じる存在を多数確認。その数……およそ十から二十。


「みんな! モンスターだよ、構えて!」


 それは、全長五十センチほどのコウモリ型モンスターの群れだった。

 元からこの塔に生息していたのか、それともどこか隙間から入り込んだのか……。


 どうして扉の閉まった部屋の中に、これだけの数のコウモリが住み着いているのかは分からないが、どうやらこの部屋はコウモリの巣だったようだ。

 私の言葉に、カナリアはすぐさま剣を抜き、前に出る。


「来たわね! まずはあたしが――」

「ようやく出やがったな! さあ、こい! 剣の錆びにしてやるぜ!」


 と、剣を構えてコウモリの前に立ち塞がるカナリアが言い終わる前に、その脇をシドが勢いよく走り抜けていった。

 そして、次から次へと襲い掛かってくるコウモリをバッサバッサと切り捨て……。

 あっという間に、すべてのコウモリを退治してみせた。


「おいおい、どうしたんだ。お前らが戦わねえから、俺が一人で片付けちまったじゃねえか」


 足下に広がる大量のコウモリの死骸の中、シドが偉そうに言った。

 その言葉に、今日は泣いて謝るまで手助けはしないでおこうと決意する。




 その後、あらためて階段を登り始めるも、シドのテンションは変わらず高いままだった。


「ちょっと、待ちなさいよシド! あんたさっきから早く進み過ぎ! もっと慎重に進まないと危ないわよ!」

「そんな言葉で俺が止められるかよ! 今日は最高にハイだ! 今だったら、ドラゴンでも素手で倒せそうな気がする! ……って、あっ! もう一匹発見!」


 先頭をかなりの速度で駆け上がって行くシドは、カナリアの忠告を無視してコウモリを蹴散らしながら進む。

 あの異常なやる気は、一体どこから出てきているのだろう。

 元気なのは良いことだけど、反動がないか不安になってくる。


「あれ、放っておいて大丈夫なのかな?」

「さあ? 本人が楽しそうですし、そのままでいいのでは? ……ところでトキさん、このコウモリって食べられるかどうか知りませんか?」

「こらこら。飽きてきたからって変なこと考えないの。そんなもの食べたら、絶対にお腹壊すんだからやめときなよ」


 もはや、シドに対しての興味が無くなっているヒスイは、床に転がるコウモリの死骸を見て食用かどうかを探っている。

 ……仕方ない。こうなったら、シドの暴走を止めるのは私一人の役目だ。

 私は前方を走る二人を呼び止めて、シドに近付いた。


「ねえシド。一つ確認したいんだけど……あなたここにくる前に、何か変なもの口にしてないよね?」


 私の質問に、シドがびくりと体を震わせる。


「……いや、別に。うん……何も身に覚えがない」


 シドは目を逸らしながらそう返した。

 なんだ、そのあからさまにクロっぽい反応は……。


「え? 今の間は何? 本当に大丈夫だよね!? 変なもの……具体的には危険薬物的なのが入ったものとか食べてないよね!?」

「お前の中で、俺はどんな風に思われてんだ!? 危険なものなんか食ってねえよ! 第一、そんなものどこで手に入れるかも知らんわ!」


 私が念入りに確認するも、シドはそう一蹴した。


「本当……? ならいいけど……」


 釈然としないけど、この場で問い詰めたところで、シドはたぶん口を割らないだろう。

 私たちは再び、階段を登り始めた。


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