第一章 魔法使いの住むお城 第二話 入学式 「2」
「皆さん、この聖ルチア城学園へご入学、おめでとうございます。僕はこの学園の生徒会長、浮田巧です――」
彼の口から、すらすらと祝いの言葉が流れ出る。その姿は、先ほど碑文の前で見た彼とは少し違う気がしたけれど、声は同じで、どこか甘い毒を含んだような言い回しも変わらなくて。
(本当に、さっきの人なんだ・・・)
まじまじと、実感した。それと同時に、顔が一気に火照りだした。
(私、さっきあの人に、「生徒会長に会いたい」だの、「生徒会長は魔法使い」だの、「願いを叶えてもらうために会いたい」だの、本人だとは知らずにこっぱずかしいことを・・・!)
今すぐ穴を掘って、あの記憶を埋めてしまいたい。
頭の中で「どうしよう」がぐるぐると回っているうちに会長の挨拶は終わり、いつの間にか入学の儀へと移行していた。
「蔭位制入学、一番、相田一樹」
「はい」
少し上ずった調子で、最も壇上に近い席に座っていた新入生男子が立ち上がった。凪のところからは、よく見えない。
彼はそのまま壇上まで上がると、生徒会長の前に立ち、ゆっくりと一礼した。会長の唇に、ふっと笑みが浮かぶ。その顔のまま、用意されていたらしいペンダントのようなものを持ち出してくると、そっと両手で男子生徒の首へかけた。思わず頭を下げ、ペンダントを受ける彼に、会長は優しげに言う。
「入学、おめでとう」
男子生徒は思わず勢いよく顔を上げると、耳まで真っ赤に染めてもう一度頭を下げた。
「ありがとうございます!」
声が震えているのが、こちらにまで伝わってくる。凪は、見ていて自分が恥ずかしくなって、もごもごと小さく身をよじった。
次々と、生徒達が呼ばれて壇上へ上がっていく。その度、最初の相田一樹のように身を興奮と感動に震わせて、ペンダントを胸にきらめかせる。次々と生徒達の胸にペンダントが輝いていく中、凪だけは一人、孤独な席にぽつんと座り続けていた。
(もしかして、私には無し、とか・・・?)
凪に一番近い席にいた女子生徒がペンダントを受け取って戻ってくるのを横目に見ながら、凪はふとそんな不安に襲われた。例えば、入学時にこの学校に寄付金を大量に出した人しかもらえないとか、そんな規約だったらどうしよう。
自分一人が黒い渦の中に呑まれていくような錯覚に陥った時、生徒会長の美声が講堂中に響き渡った。
「では最後に、唯一の筆記受験合格者・・・草刈、凪」
(え・・・・・・?)
一瞬、世界が止まった気がした。
この学園のたった一人の生徒会長が。先ほど碑文の前で言葉を交わした男子生徒が、凪を見つめて微笑んだ。忘れていないよ。そんな風に言いたげな瞳で。
爽やかな風が吹いたような感覚が、全身を包み込む。ふわりと浮かび上がるような、そんな感覚。
「ふぁ・・・は、はいっ!」
やばい。声がひっくり返った。生徒達の視線が一斉に突き刺さる。それだけで死んでしまいそうな恥に晒されながらも、凪は歩き出した。もう、女生徒が教えてくれた道のりなど頭からすっぽり抜けてしまって、どう歩いたらいいのか分からない。まぁ、とりあえず壇上まで行き着けば誰も文句は言わないだろう。
震える足で壇上へと続く階段を上ると、その先に生徒会長が一人、待っていた。
見ただけで肩の力が抜けるような、そんな笑みで。
両手で、入学記念品を持ち上げる。ペンダントだと思っていたのは、ロケットだった。薄い空のような色の石に、それよりも薄く彫られた美しい女性が浮かび上がっている。
会長が目を細める。
「・・・数多くの受験生の中で戦い抜き、たった一つの勝利を見事手に入れた。君がこの学園に入学してくれることを、心から歓迎するよ。・・・入学、おめでとう」
そっとロケットを掛ける手が、凪の髪に触れてくすぐったい。ふいに、彼の顔が凪に寄せられた。
「これで、三度目だね」
にっこりと微笑み、凪の耳に小さく囁いた。
「戻るときは、振り返ってから右だよ」
「・・・・・・ありがとう、ございます」
運良く二言ともマイクに拾われていなかったから良かったものの、凪は顔から火が出るかと思った。学園の頂点である生徒会長に、帰り方を教えられるだなんて!やっぱり行き方が間違っていたんだ。凪が必死の思いで返したお礼だって、道を教えてくれたお礼なのか、ロケットへのお礼なのかもう本人にも分からない。
ロボットのようにカクカクと振り返り、そこで新入生全員の視線に晒されて、凪は思わず卒倒しそうになった。




