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魔法使いの住むお城  作者: 風花
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第一章 魔法使いの住むお城  第二話 入学式 「1」

(な・・・なんとか間に合った・・・)


 道無き道を駆け続け、なんとか凪が講堂に辿りついた時には、汗で前髪が額に張り付き、呼吸は荒く、身体が熱で火照っていた。たぶん頬も真っ赤だろう。おそらく最後のほうであろう新入生達が、いかにも上品といった感じで講堂へと続く巨大な扉の中へ吸い込まれていく。凪は慌てて息を整えると、深呼吸しながら自分も扉へ向かった。心なしか、周りの視線を感じる。

 

 入ろうとしたら、脇に控えていた女生徒に引き止められた。


「お待ちください。入学証のご提示を」

「はっはいっ」


 凪は慌ててスカートのポケットを探った。焦りながらそっと周りを伺うと、どうも全ての新入生が同じように提示を要求されているらしい。胸のポケットから涼やかに抜き出し、ほとんど無チェックで通っている。


(なっなんで私はこう、いつも考えが足りないの・・・)


 胸ポケットに入れておけばよかった、と内心後悔しつつも、やっと出てきたくしゃくしゃの入学証を、半ば恥じ入りながら女生徒に見せる。女生徒はご丁寧に表情を変えずに見てくれたが、一瞬後・・・顔色が変わった。


「・・・・・・まぁ」


 息を呑むように小さくそれだけ言うと、ついと入学証を返す。凪が反射的に受け取ると、女生徒はぎごちない笑みを浮かべて言った。


「こちらです。ご案内しますわ」




(な・・・なんで私だけ、案内されなきゃいけないの・・・?)


 周りの新入生達から向けられる視線をちくちくと感じながら、凪はひたすら前を歩く女生徒だけを見据えて着いて行った。絶対、絶対、耳まで真っ赤だ。他の新入生はこんな扱いを受けていないのに。


(やっぱり、私だけ場違いだよね・・・。周り皆お嬢様とかお坊ちゃんとかだもの。私は受験の方法も少し違ったし。でもでも、だからってこんなことまでしなくても!)


 これはもう、嫌がらせの類に入ると思う。動物園のパンダではないのだ。

 案内された席は、誰ともくっついていない、いわば孤独に突き放された一席だった。


「こちらにお座りになって、お待ちください。名前を呼ばれたらお立ちになって、この通路を進んで壇上へ上がってください。お戻りはあの通路を」


 では、と一礼して扉へと戻っていく女生徒に、慌てて会釈を返した時、彼女の肩に紺色のパッチワークが縫い付けられているのがちらりと見えた。ふいに、先ほど碑文の前で言葉を交わした男子生徒を思い出す。あの女生徒の数字はよく見えなかったが、確か彼の肩には、大きくはっきりと「1」の字があった。


 あまり首を動かさず、目だけで周りを探ってみる。かち当たる視線を避けつつも肩を気にしてみるが、目に届く範囲では、同じように数字が描かれた制服を着ている生徒はいない。


(新手のファッションなのかな?)


 とはいえ、この聖ラルク城学園は、由緒正しいお金持ちの子供が通う場所。校則には厳しい、はずだ。ましてや改造した制服の着用など、許すとは思えない。

 幻でも見たのだろうか、と凪が首を傾げたとき、広い講堂中にマイクで女性の音声が響き渡った。


「ではこれより、聖ラルク城学園の、第200回目の入学式典を開催致します」


 凪は背をぴっと伸ばした。いくら世界が違う場所へ一人入り込んでしまったとはいえ、せめて粗相のないように行儀よく努めたい。たとえ一人だけ、違う席に疎外されるようにして放り出されようとも・・・


「ではまず、聖ラルク城学園の学園長のご挨拶です――」



 式は滞りなく進んでいく。理事長の挨拶、後援会の挨拶、効果斉唱、等々。

 大分時間が経ったのではないだろうか。ただ座るだけにも疲れてきた頃、進行役の女性が、どこか上ずった声で告げた。


「では最後に、聖ラルク城学園の我らが生徒会長、浮田巧様に、新入学生へのご挨拶、並びに入学の儀を執り行っていただきます」


 何故だろう。明らかにその時、空気が揺れた。誰も言葉を発していないのに、ザワザワとどよめきが起こる。

 凪も胸が高鳴った。もう一度、きちんと座りなおす。ずっと会いたいと思っていた、この学園の生徒会長を初めて拝見するのだ。心なしか身を乗り出し、何一つ見逃さないようにと目を開いて壇上を見つめる。


 生徒会長の顔は、どんな顔なのだろう。

 きっと中世のヨーロッパに出てくる、王子のように整った顔に違いない。

 目は何色?肌は?髪の毛の癖は?身長は?スタイルは?声は?

 どんな表情を浮かべて、新入生を迎えるのだろう。

 どんな言葉で、歓迎の意を表してくれるのだろう。

 この学園の真の支配者、聖ラルク城に住まう魔法使いは――


 生徒会長が一人、壇上へと用意された階段を登っていく。一段、また一段。

 その仕草は、後援会の化粧臭そうな中年女の会長よりも、細長い厳格そうな身体の理事長よりも、ましてや小太りでちょび髭を生やした学園長よりも、ずっと、ずっと揺らぎない自信に支えられていた。


 磨き上げられた、究極の至高の存在が、そこにいた。


 すっと伸びた後ろ姿だけでも、凛々しい雰囲気が手に取るように分かる。上から照らし出している照明が、演出のように彼の金色の髪を輝かせるから、眩しくて思わず目を細めそうになる。

 一分の隙も無駄も無い仕草でくるりと向きを代え、壇上に立って凪たち新入生の方へ顔を向けたとき、講堂中から溜息が漏れたのが聞こえた。


 誰もがその美しさに見とれた。・・・凪を除いて。


 ぷるぷると震えだす体を必死で抑えるが、上手く行かない。どうしようもなくて、壇上の生徒会長を見つめる。


 どうして、後姿で気づかなかったんだろう。


 あの、零れんばかりに輝く金髪。

 すっと伸びた背。

 こちらを向いた時の、王子のように整った美貌と、何より肩に貼られた、「1」のステッカー。


(・・・あの人だ)


 碑文の前で会った、不思議な男子生徒。


(嘘でしょ。あの人が生徒会長だったの・・・?!)


 遠く壇上で光を一身に受ける彼が、ちらりと凪を見て、意味ありげに微笑んだ気がした。

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