No.62 師匠と兄弟子
「改めてよろしく、海成くん」
鈴菜はそう言って手を差し出した。
海成はすぐには応じなかった。
差し出されたその手を、ただ静かに見つめる。
まるで、その光景そのものを確かめるように。
一瞬――ほんの一瞬だけ。
何かを思い出したような影が、その瞳をよぎった。
「……」
だが海成は何も言わない。
やがて小さく目を伏せると、鈴菜の手を取った。
「よろしくお願いします」
その声は普段通りだった。
けれど鈴菜にはなぜか、少しだけ引っかかるものが残った。
だが、それも一瞬のことだった。
鈴菜はすぐに思考を切り替える。
「それと、興味があればうちのチームにもぜひ」
「……」
海成はわずかに視線を落とした。
「その返事は、いずれ」
「?」
曖昧な返答だった。
だが、本人に説明する気がないなら聞いても無駄だろう。
鈴菜はあっさりと追及を諦める。
「それで」
今度は颯馬へ視線を向けた。
「二人は知り合いみたいだけど?」
鈴菜が尋ねると、それまで黙っていた颯馬が口を開いた。
「海成は俺の弟子だな」
「弟子?」
思わず聞き返す鈴菜に、颯馬は軽く頷く。
「魔術の訓練を見てる。あと情報屋の仕事も少しな」
そう言って海成を見やり――
「あ」
何かに気付いたように声を漏らす。
「そういえば、玲音。海成は兄弟子になるな」
「え、兄弟子……?」
玲音が呆気に取られる。
「ああ、そうだ。海成は古株だからな」
玲音は目を丸くした。
「兄弟子……」
ぽつりと呟く。
そして改めて海成を見る。
「すごいですね!」
その声には純粋な驚きが滲んでいた。
海成は一瞬だけ目を見開く。
予想していた反応とは違ったのだろう。
その瞳からわずかに力が抜けた。
だが次の瞬間には、何事もなかったかのように表情を消す。
「そうでもありません」
短くそう返した。
鈴菜の隣にいた菖蒲が、海成にタタタッと近づく。
「おにいさん、すごいね!ソーマの師匠なんだ!」
「……おい、菖蒲」
颯馬が額を押さえた。
「さっき説明しただろ。俺が師匠だ」
「あっ」
菖蒲は目を丸くする。
その様子を見ていた玲音が、ふっと吹き出した。
「確かに師匠の師匠だったらすごいですね」
「お前まで乗るな」
颯馬が即座に突っ込む。
「はは、すみません」
そう言いながらも、玲音はどこか楽しそうだった。
二人に囲まれ、海成は少しだけ困ったように視線を逸らす。
その様子を見た颯馬は深いため息を吐き、鈴菜へ視線を向けた。
「おい、お前の弟子たち、話聞いてないぞ」
「アヤちゃん、よくやった。レノ君も」
鈴菜は満足そうに頷く。
「褒めるな」
即座に返す颯馬。
そして恨めしそうな目で鈴菜を見た。
「全く……あいつらは誰に似たんだ」
「さあ?」
鈴菜はしれっと首を傾げた。




