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12.侍女は事実を伝えます

一瞬で間合いを詰めたラミナス様は、そのままの勢いで剣を振るった。

対するアラク兄さんはその剣を真正面から受け、押し返す。

そのすぐあとに、アラク兄さんはラミナス様を下から切り上げるように剣を振るうと、ラミナス様はひらりとそれをかわした。


今まで硬直状態だった二人が、今度は激しい攻防を繰り広げ始めた。

しかし会場が完全にヒートアップする前に、試合は片がついたのだ。

白熱していたのは間違いない。

素人目にも、どちらかがどちらかに劣っている風でもなかったはずだ。

ただそれは一瞬の出来事だった。


一気に片をつけようとしたのはラミナス様だ。

それを咄嗟に防ごうとして、そのあとにカウンターをしようとアラク兄さんは考えていたのかもしれない。

それが最大の判断ミスだった。

真っ直ぐに突き進んだラミナス様は、直前で一歩引いたのだ。

まさかそんなことをするとは思わないアラク兄さんは、一瞬ではあるけれども隙を作ってしまった。

その隙がラミナス様の勝因、アラク兄さんの敗因となってしまったのだった。

ラミナス様が振った剣は咄嗟に防ごうとしたアラク兄さんの剣を吹っ飛ばし、切っ先はアラク兄さんの喉元に突き立てられていた。

向けられているのは私ではないのに、ひゅっと喉が音をたてた。

その瞬間試合に決着がつき、わぁーと観覧席から声が上がった。


「アラク兄さん、負けちゃった……」


こんな喧騒の中でも、ハロルドの小さな呟きがはっきりと聞き取れた。

私は試合場を呆然と見つめていた。


あり得ない、と思う。

それと同時にラミナス様ならやり遂げそうだとも感じていた。

まさかという驚愕。

すごいという感動。

そんな反対のような胸中だったので、自分がどんな顔をしているかわからない。



そんな衝撃染みた出来事のわずか20分後の準決勝で、あんな偉業ともいえることをしたラミナス様がそりゃもうあっさりと敗北したのは、カルノリア家の人間からはとても語ることのできない笑えない話となった。



*****



ぶすっとむくれた顔のラミナス様に会ったのは、大会が行われた次の日だった。

武道大会は一日暇をもらったため、次の日は当然出勤である。

しかし塞ぎ混んでいるのか疲れからなのか、私が仕事を終えて帰ろうとする時間になっても、ラミナス様は執務室には行かずに私室に止まっている。

今も私室のソファーで新しく淹れ直したハーブティーを傾けていた。


励ますべきところだし、とても笑ってはいけない場面なのはわかっている。

でも普段見ることのできないラミナス様の表情を可愛いと思えてしまったのだから仕方がない。


かわいい、か……。

ラミナス様を可愛いと思う日がくるなんてね。


「……笑うなんて酷くないか、アリス?」

「これは失礼いたしました」


それすらも可愛げがあるように感じて、口では謝るが顔が笑ってしまう。

余計にむすっとしたように不貞腐れたラミナス様がぷいと顔を背けてしまったので、いよいよ笑っているのはかわいそうだろう。

オホン、と一つ咳払いをして気を取り直す。


「ラミナス様」

「いい。アリスの言いたいことは分かってるよ。俺が自信過剰だったんだ」

「違います。確かに負けはしましたけれど、ラミナス様はご立派でした」


そんな私の励ましにも疑わしそうな目をむけてくるのだから、いったいいつもの自信はどこに行ってしまったのやら……。

たまにはこんなラミナス様も悪くはない。

いつもの過剰な自信がない分、扱いやすいというものだ。

らしくないだけで。


「私はラミナス様のこのところの努力を知っています。あの忙しい日々の合間を縫っての訓練で騎士に並ぶ、いいえそれ以上の力を発揮されたんですから。それは評価するべきことです。だからラミナス様はご立派でした」


メルダ兄さんにも言われたのだが、言われなくてもこのところのラミナス様を見ていたら、こんな私でも応援したくなったのだ。

女性関係にだらしない、そんな悪印象しかなかっただけに、今回のギャップは衝撃に近かった。

簡単に言えば、見直した。

落ち込む必要なんてないはずだ。

この人はいつもの如く、胸を張って生きていってくれればいい。

それがあなたの『らしさ』でしょう?


そう言ってにっこり微笑みもおまけすると、一瞬驚いたように目を見開いたラミナス様は、私に答えるようにふわりと笑顔になった。

しかし、それもすぐにいつもの性質の悪い笑顔にかわるのだから立ち直りが早いというものだ。


「そっか。アリスがそう言ってくれるんだったら、約束は果たしてくれるのかな?」


約束―――。

忘れるはずもない。

ダンスを共に、ということだ。

目をぱちくりさせていつ、どこでと私が質問する前に、ラミナス様はさっとソファーから立ち上がった。

私の前まで進み出たラミナス様は見惚れるほど美しい流れで紳士の礼をとり、手を差し出してきた。


「え、ら、ラミナス様……?」

「本当は後夜祭で誘うつもりだったんだけど。まぁ負けたわけだし、今回はここで手を打ちましょうってこと」


ラミナス様の私室で、こんな侍女服で、まさかダンスの誘いがくるとは思わなかった。

ラミナス様はこちらがドキリとさせるほどの色気を漂わせる笑顔で言い放ち、大変心臓に悪い。


「手を打ちましょうって……。ラミナス様が言う台詞ではないと思いますが」

「次は勝つよ。次は誰にも負けない。だから次はダンスホールなんだよ、絶対」


答えになってない。

また自信過剰もまた元通り。

でもそれをカッコイイと思ってしまったあたり、もう私はこの人の毒気に当てられていると思う。


「この手を取っていただけますか、レディアマリリス」


曲も何もないラミナス様の私室で、無言のまま約束は果たされていった。


毒は全身に巡ってしまうんだろうか?

そんなことを考えながら、私はその手、身体に、自分を預けた。



やはり投稿遅くて申し訳ありません。


あっさり武道大会終幕。

長引かせても仕方ないし。

ラミナス様は誰に負けたのか?

優勝者は誰なのか!?

は次回に持ち越しです。


それにしても甘くならないのはいかがなものか……。


お読みいただき、ありがとうございました。

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