12.ヴァレリア領の民には推しがいる
初代『花雫の乙女』であるアデル・カーマンが精霊王と共に建国したとされる国、アデル王国。
精霊の森と呼ばれる太古の森から湧き出る清らかな水源が質の良い魔力を生み出し、湖を中心に栄えている国だ。
そしてこのアデル王国では百年に一度“精霊の好む花”を生み出す者が現れる。
それこそが”花雫の乙女”であり、国の繁栄の象徴とされる。
エギルに協力を求めて精査したこれらの情報は、紗希が読んでいたWEB小説『王太子と異世界女に二度裏切られた私は、悪辣勇者に溺愛される』にて出てくる設定と概ね齟齬はない。
これから探りに行く相手は、今代の花雫の乙女であるミレーヌに婚約者の王太子を奪われる令嬢、セレスティーナ・ヴァレリア。
ヴァレリア侯爵家の令嬢で、彼女には年の離れた兄と一つ違いの弟がいる。セレスティーナは曲がったことが嫌いな清廉潔白な性格で品行方正な完璧な淑女だ。そんな彼女はミレーヌの思い通りに動かないバグキャラとして自らの運命を切り拓いてゆく。
物語の流れに沿っていれば、最初の裏切りに憤り、王太子との関係を見直すために王都の別邸から実家の侯爵領へと戻っているはずだ。
書物庫にあった大陸地図からすでに把握していたアデル王国と魔王領の位置関係から、ヴァレリア領に一番近い魔王領の転移魔法陣の場所を調べていた紗希は、やっと重い腰をあげたバルトと一つ約束した。
「少しでもセレスティーナさんに何か感じることがあれば教えてください。今後の方針を一緒に考えましょう」
あくまで紗希は協力者。そのスタンスを崩すつもりはなかった。
きっとバルトはセレスティーナに会えば何かが変わる。
そんな確信めいた予感がしていた。
バルトの魔王の称号については魔王領を離れても問題ないようだった。
エギルの話によると、魔王の継承はその命を奪ったものが候補者として名が挙がり、魔王軍の幹部である管理者全員の承諾を得て承認されるという。
そのため城を空けて気ままに旅をしてようが、眠っていようが、何をしていても討伐さえされなければ魔王は誰かに譲られるものではないらしい。
前代の魔王レギオスがまさに良い例で、殆どを眠るか享楽に費やし、良くも悪くも管理者に仕事を丸投げしていたという。
その後に君臨したバルトは魔族嫌いであったものの、求められれば応じる律儀なところがどうやら魔族達にとって良い上司であったという。皮肉なことだ。
――――つまるところ、バルトと紗希の出立は特に反対されることはなかった。
城を出るため第一層への転移魔法陣に入る瞬間、バルトの身体は前と同じく少し強張っていたが、これは今後慣れていけばきっと大丈夫だろう。
その時バルトの腕を引くのはきっとセレスティーナだ。彼女に任せれば心配ない。
エギル達に見送られ魔王城を出た二人は今、ヴァレリア領へ向かっていた。
転移魔法陣で移動したあと徒歩での移動となるはずだったが、途中で盗賊の襲撃に遭う宝石商の一行と出会い、バルトが盗賊を捕縛した代わりに荷馬車に乗せてもらっている。
突き上げるような揺れを直に受けながら、紗希はエリクと名乗る壮年の商人からヴァレリア領について教えてもらっていた。
彼は流行りものの買い付けにヴァレリアに向かっているらしい。
「あそこは元々資源が豊富で宝石の採掘が盛んな領だったんですがね、最近じゃ加工にも力を入れているんですよ。流行の最先端といっても過言じゃありません。なんでも王都のデザイナーよりセンスのいい女性が居るそうで、彼女の監修が入ったドレスもアクセサリーは人気で、ヴァレリア産が店に並べば直ぐに売れてゆくそうです」
そう語るエリクは片眼鏡の奥を光らせていた。
センスのいい女とは、まさかセレスティーナのことだろうか。
ロマンス小説で見かける自立系ヒロインが商売を始める展開がこの世界で成立していてもなんら不思議ではない。
そんな事を想像する傍らで、紗希が食いつくと思って語られたであろうファッションの話題に殊のほか興味を示したのはバルトである。
魔王城では紗希以外に一切見せなかった極めて愛想のいい声音で商人に尋ねていた。
「ちなみに最近流行りのアクセサリーやドレスというのはどういったものでしょう?ぜひ専門家であるあなたの意見が聞きたい」
――またよからぬことを考えているのではないだろうか。
今回の旅支度もバルトはそれはそれは紗希の装いに手間暇をかけた。
異世界の旅の過酷さを知らない身としては、先人の知見を求めるべきだろうと初めこそ大人しくしていた紗希だったが、徐々にこれは富豪の旅行的な何かに変わりつつあると疑念が湧き、地面を引き摺るほどのドレスを提案され確信し、丁重に断った事を思い出す。
ひとまず落ち着いたのは、俗にいう僧侶風の冒険者の装束。銀糸で雪の結晶のような刺繍が施された白いローブを基調とし、大きなスリットが入った比較的身軽な服装に落ち着いたものの、留め具には大振りの紫水晶で作られた飾りが入れられた。
対してバルトは紗希の髪色を取り入れたといって黒を基調としており、黒い羽を携えた刺繍入りの白マントを羽織っている。
この互いの色を取り入れた装いが冒険者の夫婦に見えたのだろう。
エリクから探るように訊ねられた。
「スノアというビーズの装飾付きドレスですね。スノアは宝石の屑を特殊魔法で再構成した軽量の宝飾ビーズなどを指すのですが、それをレースや透け感のある素材に縫い付けたものがよく売れるそうです。もしや旦那様、奥様への贈り物ですか?」
するとバルトは清々しいほどに爽やかな笑みを浮かべ、流暢に嘘を並べ立てる。
「はい。俺としてはもっと着飾って欲しいのですが、彼女がなかなか贅沢品を好まなくて。しかしせっかくのハネムーンですから……」
「違います。旅のパートナーです」
いまハネムーンと言ったのは聞き間違いだろうか。
それとも夫婦設定で調査するつもり?だとしたら、ぜひ事前に共有して欲しい。
バルトが機嫌よく答えるのを制止して紗希は尋ねた。
「でも、その流行を生み出す女性には興味があります。エリクさんはどなたかご存知ですか?」
するとエリクは困ったように少し顎を引いたものの直ぐに目尻を和らげた。
「えぇ、もちろん。ヴァレリア領で仕立て屋をしているステラというデザイナーです。確かヴァレリア侯爵家の支援を得て商会まで立ち上げたとか……彼女の予約は来春まで埋まっているそうですよ」
ステラの洋裁店はこれから向かう国境に近い関門都市にあるという。ヴァレリア領は広大だが、これは意外にとんとん拍子でセレスティーナと接触できるチャンスが巡ってくるかもしれない。
幸先の良い話を聞いて唇は微かに緩み、ほっと胸を撫で下ろした。
バルトは相変わらずエリクの話に興味深く耳を傾けては、気付くと商品が記載されているカタログを覗き込んでいる。
ふと、肌寒さが気になって外を見る。木々は秋の色に染まっている。
魔王領では気にすることのなかった季節が人族の領内にはあるようだ。
「――では御二方、素晴らしいハネムーンになると良いですね。バルト様は商品をお買い上げありがとうございました。精霊王の御加護がありますよう願っております」
二日ほど馬車に揺られ辿り着いたヴァレリア領で、関所を通り過ぎたあとエリク達とは別れることとなった。
関門都市からは更に道が分かれ、鉱山や資源の開拓を中心に栄える街とヴァレリア侯爵邸が立地する王都方面へと向かう平地の街がある。エリク達は宝石の買い付けにこのまま鉱山へと向かうらしい。
「乗せていただきありがとうございました。エリクさん達もお気をつけて」
「良い買い物をさせて頂きました。また縁があればお願いします」
エリク達の一行と別れ、バルトは紗希をちらりと盗み見る。その視線はどことなく腰に向けられており、意味ありげな色に瞬きを返すとバルトは幾許かのち口を開いた。
「……大丈夫でしたか?」
「え?」
「荷馬車で何度も座り直していたようなので。俺の膝に乗せて差し上げたかった」
乗り慣れない馬車移動で紗希が密かに体勢を変えていたことにバルトは気付いていたらしい。
そこで『膝に乗せる』などと言うのが安定だが、気遣いの言葉には自然と眉尻も下がり頬が緩んだ。
「膝は遠慮します。でも、ありがとうございます。バルトさんって細かいとこ案外よく見てますよね」
魔王城でもバルトは配下の魔族達から相談を受ければ、誰が何を言っていたなどと考慮し指示を出す姿が度々見受けられた。
それを思い出し告げるとバルトは息を詰めて喉を嚥下させる。
それから荒い吐息を堪えるように浅く溢すと瞳をギラつかせ紗希の手を取った。
「駄目だ。愛しすぎる……もうこのまま教会で式を挙げましょう」
「ヒロイン探しに来てるんですよ」
包み込むように取られた手をやんわりと解こうと引けば直ぐに解放されたので、残念過ぎるヤンデレ男に成り果てた姿を眇めた視線で見遣る。
隙があるとこうだ。召喚されてから連日口説くことを諦めないバルトの変わらぬ態度に先が思いやられる。
「分かってますよ。先にすべきことがありましたね」
――後も先も無いのだけど、もう触れないでおこう。
バルトは革のポーチから先ほどエリクから買った銀の細い鎖に吊るされた紫水晶を取り出すと、慣れた手つきで紗希の首元へかけた。
「これは聖女様を悪意から遠ざけるお守りです。街は色々な人間がいますから……俺は魔物なら仕留められますが、人は法があるため容易く手にかけれませんので」
霊より人の方がずっと怖い的なニュアンスで言われ、紗希はバルトを見上げた。
心配性だと一蹴してしまいそうになったがバルトの瞳は真剣に紗希を捉えており、無意識にその言葉を脳裏で反芻する。
そうだった。この人は物理的な脅威よりも悪意に晒されてきた人だ。どれだけ憎かろうが法があるから殺められない、一線を越えず倫理に甘んじることを選べる理性を持つ人間だ。
水晶に繋がる鎖を指で撫で、絡め取って握り締める。
「大事にしますね」
――――関門都市ステルダム。
関所の内側は門前で見た冷たく硬い印象と同じ灰褐色の石造りで整備された街だったが、要所に銀杏に似た街路樹や花壇など多く植樹しているからか比較的穏やかな雰囲気で、人の顔も明るく賑わいをみせている。
「ステラさんのお店は噴水広場の近くってエリクさんは言ってましたから、あっちですかね」
紗希は幾つか入りくんだ道があるなかで人が流れてくる一番大きな通りを指差した。
「行ってみましょう」
通りを進んでゆくと通行人や馬車がさらに増えて、風に乗って焼き物の匂いが流れてくる。
それから暫く、少し上り坂になっている通りをゆくと、徐々に屋台が立ち並ぶ噴水がある広場が見えてきた。
催し物をしているのか広場は特に人が多い。肩がぶつかるほどではないが、ぼんやり周りを眺めて歩いたりすればよろけてしまう程度の交通量があった。
しかし紗希の脚は止まった。
すれ違い際に捕らえた会話に気になる言葉が出てきたのだ。
はっとして振り返る。
「で、この前ヴァレリアのお嬢がうちにきて牛を二十頭買い取ってくれたわけよ。ステラの店で決起会だとさ」
視界に捉えた先にはハンティング帽を被った中年の男性。彼は先ほど、熱の籠った声で高々と言ったのだ。
ヴァレリア家で”お嬢”といえばセレスティーナしかいない。やはりステラの後援者はセレスティーナなのだろう。
すると今度は別の方向から気になる話題が通り過ぎて行く。
「すごいよな。また取引先が増えたんだぞ。さすがステラはお嬢が見込んだだけある。うちも監修してもらいたいもんだ」
唸るように、しかし和気藹々と明るい調子だった。
意識してみると、街の人達の話題にちらほらステラとセレスティーナの名が上がっていた。
「あの二人がいりゃヴァレリアは安泰だ」
「またステラに脅迫の手紙が届いたとか……今度はうちらが二人を支えてあげなければね」
「サイラス様もいい加減折れてくださればいいのに。お嬢様が可哀想よ」
「やっぱりありゃサイラス様の差し金だろうな。もしアイツらが来たらステラとお嬢様を俺たちが守るんだ」
彼女達はこの都市で話題の中心になっているのかもしれない。
「――聖女様?」
「ごめんなさい。行きましょっか、あそこですよね多分」
誰かに問わなくとも分かる、大胆なガラス張りが特徴的な店があった。
広場でひときわ目立つガラス張りの窓の奥には、日常使いから夜会用のドレスまで何着か飾られてあり、そのディスプレイがまた凝っていて商品を引き立たせている。
その店先には紺碧色の生地に金の刺繍で星を彷彿とさせる紋章が入った旗が吊るされていた。
ここで間違いないだろう。しかし紗希達が扉に指を掛けるよりも先に、チリンと高い音が響き扉が開いた。思わず後退るとバルトに肩を受け止められ一先ず様子を見る。
すると旗と同じ紺碧色のドレスに身を包むメジャーを首に掛けた女性が姿を現した。彼女は扉を支えており、その後から豪奢なドレスを着た年嵩の女性とエプロンを付けた侍女らしき人物が出てくる。
二人が外に出たあと、店員の女性は静かに扉を閉め微笑む。
「ご来店ありがとうございました。ご期待に沿える商品をお届けいたします」
そう言って二人に深々と頭を下げる所作は美しく、その女性は二人が近くに停めていた馬車で発つまで丁寧に見送っていた。
紗希はバルトに目配せしたあと、やっと馬車が去って頭を上げた女性に話しかけた。
「――あの、ステラさんはいらっしゃいますか?」
すると女性が振り返る。
華やかな雰囲気の女性だった。
クリームベージュの柔らかな色の髪はまるで陽の光に照らされた稲穂のようで、緩いウェーブがかかっているから結い上げた髪型すらゴージャスだ。
その美しい髪に負けず劣らずのはっきりとした目鼻立ちはパーツの一つ一つに存在感があり、若葉のような色味の瞳が丸くなって揺れる。その瞳が一瞬だけ煩わしげな視線に変わった気がしたが、女性はぱっちりとした二重の大きな瞳を直ぐに細めた。
「……ステラは私ですが、仕立てのご依頼でしょうか?」
自分がステラだと認めた女性は口端を上品に持ち上げて微笑む。
紗希はほっとして肩の力を抜いた。
こんなにも好調で良いのだろうかと疑うほどだが、幸いにも直ぐに本人と出会えたのだ。
「突然すみません。セレスティーナさんの事でお伺いしたいことがありまして……少しお時間をいただけたらと」
しかし手間取らせないよう本題から入ろうすると、ステラの笑みがすっと消える。
そして紗希の傍らに居たバルトと交互に見遣ると胸の前で腕を組み息を吐き捨てた。どうも彼女の様子が可笑しい。
「……見かけない方ですけど。あなた、マリアンヌ様ですか?」
「はい?」
まったく聞き覚えのない名前に紗希は気の抜けた声が出ていた。
すると余計なことに、その後ろでバルトがすかさず整然と告げる。
「この方は聖女様だ」
するとステラは顎を僅かに上げるなり眉間に皺を刻むと噛みつくように言った。
「やっぱり、そうだと思ったわよ!その恰好」
――何がやっぱりなんでしょう。
服装を指摘され自ら纏う白いローブに視線を落とした紗希は、ステラを宥めるように口を開く。
「あの、人違いで……」
しかし残念ながら紗希の釈明はステラに伝わることはなかった。
「あのねぇ、あんな薄っぺらい脅迫で私が引き下がると思ったわけ?ま、自らうちの店まで押しかけくれちゃってある意味丁度良かったけど。いい、よぉーくその頭に刻みなさい。あんたが精霊に仕えるシスターだろうが何だろうが、私は絶対に譲りませんから。そんな騎士連れてても無駄よ、ブス」
理不尽にも怒涛の如く鬼のような気迫で詰められ、呆気にとられているうちにバルトが声を荒げた。
「ブスとはなんだ、聖女様は美しいだろうが!」
「私よりブスだもの」
「清らかで凛としたお姿がお前には見えないのか」
「バルトさん落ち着いて……」
立派な店先で勝手に白熱し始めた二人に、前のめり気味なバルトの腕を引く。
しかし場を治めるため取った紗希の行動にステラがすかさず眉を顰めた。
「何、あんた神殿騎士を誑し込んでるわけ?そのうえでセレス様にまで色目使うなんて最低。性格の方はもっとドブスだわ。帰ってちょうだい」
――完全に言いがかりだ。
しかも通行人らの目が完全に紗希達に集まっている。
そして彼らのうちの一人が声を掛けてきた。
「どうしたステラ?」
年配の男性が心配そうにステラに呼びかけると、ステラは怒りを孕んだ眼差しで紗希を指さした。
「マリアンヌ様よ!」
バルトは訂正するように声を荒げる。
「だから聖女様だと言ってるだろ」
「ほらね!」
――ほらね、じゃない。絶対に勘違いしている。
「ち、違います!人違いです!!」
紗希は主張したが、男性の瞳には疑念が宿っている。
そして歩みを止めていた通行人らがこそこそと噂話を始めた。
「おい、マリアンヌ様だって……やっぱり来たのか」
「サイラス様と手を組んだってわけか……」
どうもこの世界の人達は人の話を聞かないらしい。
紗希の主張は完全に無視され、口々にこそこそと噂話がささやかれる。
そしてステラに声を掛けた男性は胡乱な眼差しを紗希に向け困ったように言った。
「おい、姉ちゃん。騎士まで連れて、せっかくお嬢様が安らげるっていうのに止めてくれ」
店先の騒動は悪目立ちして、ステラを擁護する男に続いて声があがる。
「そうだよ。帰りな。お嬢様の恋人はステラだ。私らは二人を応援してんだからね。あんたなんかに邪魔されてたまるか!」
――待ってください情報過多です。
今、誰と誰が恋人だと言ったのだろう。
ステラを通じてセレスティーナの動向を確かめるつもりだったが、思わぬところに回答は転がっていたようだ。
場は混沌としており、紗希は全力で訂正すべく今度はとにかく声を張り上げた。
「あの、私本当にマリアンヌ様ではないんです!紗希と申します!」
するとその場がしん、と静まり返る。
二十七年の人生で、今日が一番声が出ていたかもしれない。
そんな気まずい無音を割るように、ステラの店先のベルがチリンと鳴った。
「――――……どうしたの?ステラ。何か問題でも?」
店の中から優雅な足取りで誰かが現れる。それはまるで妖精と見紛う程の美少女だった。
するりと真っすぐに落ちる淡い桃色の髪が絹のように滑らかに艶めき、苺を煮詰めたような甘酸っぱい色味の瞳が物憂げな眼差しで紗希達を見つめる。
それから緩慢と扇を開き、口元を隠しながらステラに対し眉を顰めた。
「そもそも、店先で喚くなんてはしたないわ。私の教えは全て守れるんじゃなかったの?」
間違いない。
彼女は小説のヒロイン……――セレスティーナ・ヴァレリアだ。




