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ツギハギの方舟 ~生存確率0%の跳躍(ダイブ)  作者: Mr.Q
第2章 すり潰された誇りとツギハギの原点

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第14節 機械の審判(後編)

パラテラフォーマーの防衛部隊が、手作りの架台に載せられた無骨な電磁砲レールガンを縦坑の開口部へ向けて据え付けていた。油圧ジャッキが駆動する重苦しい金属音が響き、剥き出しの高圧ケーブルからオゾンの焦げ臭いスパークが飛ぶ。作業着の袖を破り、腕に削岩爆薬の束を巻き付けた男たちが、泥と汗に塗れた顔を歪ませて叫び合っていた。


ルカは脱出船のハッチ付近の計器パネルとアナライザーの波形を見比べる。


「シオン、エンジンの予熱サイクルはどうなってる? プラズマアンプの圧着バイパスが持つのはあと三分だ」


ルカは耐熱グローブを締め直し、コックピットの背後に位置するバイパス配線パネルへ工具を突っ込んだ。焦げ付いた絶縁被覆の匂いが鼻を突く。


「予熱は八十パーセントさ。ただし、地底のローカル回線から拾えるデータログによれば、前線の『要塞化』とやらはすでに統計的誤差の範囲内で崩壊しつつある」


シオンは助手席のシートに猫背で収まり、端末の画面に防衛隊のアナログ通信波形を同期させていた。大型ヘッドホンから漏れ出す重低音のノイズに顔を顰めながら、高速でキーボードを打鍵する。


「彼らの手作り電磁砲の初速じゃ、《敷設者》の掘削ユニットの外部装甲にへこみ一つ作れない。あんなもので『家』を守れると思っているなら、紙の傘で隕石を受け止める方がまだ科学的な勝算があるね」


「黙ってキーを叩きな、インテリ!」


バーバラが操縦席のシートベルトを力任せに締め上げ、メインスラスターの始動レバーを床まで叩き落とした。オーバーロード寸前のエンジンが低く咆哮を上げる。彼女は安タバコの煙を白煙の漂うコックピットへ吹き出し、フロントガラス越しに縦坑の開口部を睨みつけた。


「死にたがりどものお守りに付き合ってる暇はないよ! ルカ、船体が縦坑の崩落に巻き込まれる前に、スラスターのノズル全開で離陸する準備をしとくんだ!」


「もうやってある」


ルカは手元のアナライザーの針が危険域レッドゾーンに触れては跳ね返るのを見つめ、短く吐き捨てた。


「あいつらが設置した対装甲爆薬が起爆すれば、岩盤フレームにかかる剪断力が一気に跳ね上がる。離陸前に岩盤が崩落すれば、うちのツギハギ装甲も滑落して缶詰みたいにひしゃげるぞ」


その時、縦坑の天井全体が激しい赤熱光に包まれた。


どっと吹き出した高温の地熱蒸気と砕石の雨を突いて、数千トンクラスの超巨大多脚掘削ボットの第一波が岩盤を食い破って降下した。幾何学的な球体胴体から伸びた無数の超硬度ドリルが、毎分高回転の重圧音を轟かせながら赤熱している。人間を拒絶する無機質なインフラ機械の群れが、雪崩となって地下空洞の空間へ滑り落ちていく。


「打ち込めぇ――ッ!」


前線拠点のキャットウォークから、防衛隊長の狂気にも似た叫びが響き渡った。


手作りの電磁砲が一斉に火を噴いた。青白いプラズマの閃光が暗闇を切り裂き、削岩爆薬を装填した重砲弾が降下するボットの脚部へ直撃した。爆圧の衝撃波がドックの空気と熱気を激しく揺さぶり、脱出船のフロントガラスをバチバチと打った。


人間たちのヒロイックな歓声が地下広場にこだました。しかし、その歓声は数秒と持たなかった。


煙の切れ目から現れたボットの幾何学フレームには、擦り傷一つついていなかった。


ボットは反撃すらしてこなかった。彼らには「敵から攻撃された」という認識すら存在しない。ただ、既定の採掘・整地プログラムに従い、予定された座標へ向かって削岩アームを展開しただけだった。


回転する赤熱ドリルが防衛外郭のキャットウォークと手作り電磁砲を、かすかな抵抗感すら見せずにすり潰した。金属の引き千切られる金切音と、人間が押し潰される鈍い砕け音が混ざり合い、プラズマの煙の中に消えていく。ボットのアームに取り付けられた高出力整地レーザーが均一な周波数音を鳴らしながら扇状に照射され、人間も、彼らが命を賭して築いた砲座も、ただの「密度の異なる掘削対象」として平坦に均されていった。


「始まったな」


ルカは焦げついた耐熱グローブの手でバイパス配線を強く圧着させながら、コックピットの窓の外の惨撃を冷ややかに見つめた。首元のアナライザーの針が狂ったように不規則な振動を刻んでいる。


シオンは端末に流れる防衛隊の生体反応ログが、十秒ごとに数十単位で『ゼロ』へ書き換わっていくのを見つめていた。青白いモニター光が血の気のない彼の頬を照らす。


「彼らの歴史も、家族への想いも、あのボットの制御ROMの中じゃ一ビットのノイズにすら変換されない。僕たちがどれだけ泣こうが怒ろうが、システムはただ予定通りの深度まで穴を掘り続けるだけさ」


「口を動かす前に手を動かしな!」


バーバラが激しく震える操縦桿を両手で力任せに押さえ込み、絶叫した。


「第一波の振動が雪崩れ込んでくるよ!ルカ、離陸のロックを外せ!あの穴ぐらが広がって崩落する前に、あたしたちはあたしたちの足でここを抜け出すんだ!」


脱出船の機体が、崩落振動とエンジン全開の推力によって激しくきしみ始めた。


上空からは、さらに無数の掘削ボットが黒い雨のように降り注いでいた。人間たちの悲壮な砲火は、無感情な機械の「整地作業」の静寂の中に虚しく呑み込まれていく。




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