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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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ライオンハートの真実

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

本日はロドス島運動会第二戦の結末という話です。

どうぞお楽しみください。

 ゆっくりとリチャードは、その両手を下げる。

 

 その瞬間、王の重圧から世界は解放された。

 

 ロドス島の青い空と海を背景に、風が再び吹き抜ける。

 

 世界が息を吹き返したその静寂の中、世界を圧倒した『獅子心王』リチャードは、目の前で冷や汗を流す最強の猛禽――強化人間F22ラプターことスーザン・メイを真っ直ぐに見据えた。

 

 ラプターは、リチャードを「軍事拠点」と評した。

 だが、それは安易な比喩などではない。よくある3Dゲームの背景のようにつっ立っているだけのイージス艦や、形だけの軍事拠点とはまるで違う現実のモノだ。戦場におけるそれらは、人間の浅知恵や生身の肉体を冷徹に粉砕するために建造された、人跡未踏の「絶対的な拒絶空間」に他ならない。

 

 実際の現代戦において、ガチ武装した合衆国のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦や日本のイージス護衛艦、さらに要塞化された軍事基地は、水平線の彼方から接近する超音速の戦闘機や強化人間さえも、SPY-1レーダーの全方位監視とスタンダード・ミサイルの超長距離狙撃、そして万が一肉薄した者を毎分4,500発の弾幕ですり潰すファランクス(CIWS)によって、一方的に叩き落とすほどの理不尽な暴威を誇る。

 

 ラプター自身、その頭抜けた戦闘経験と機動力を活かし、電子戦を潜り抜ける極限の戦術眼を発揮できれば、それらの脅威ともごく短時間であれば互角以上に渡り合える実績と自負があった。

 

 ――だが、目の前の男は違った。

 

 イージス艦や軍事基地レベルの圧倒的な防衛力、あるいはそれすらも軽く超越する何かを持つと判断せざるを得ない。その為にラプターがどれほど必死の覚悟で攻撃の糸口を組み立てようとも、目の前の男は微塵の動揺も見せず、ただ不敵な微笑をたたえたまま「自分を正面から悠然と受け止め、いつでも完璧に迎撃する」ようにしか思えないのだ。

 日頃はあれほど頼りになるアクティブセンサーや戦闘ログ、そして最新鋭の戦術サーバーがはじき出した「目標対象は一切の脅威に当たらず」という的外れな計算結果。

 それらは、実際の殺気と重圧の前ではまるで当てにならないと、歴戦の軍人としてのラプターは冷や汗を流しながら判断を下さざるを得なかった。

 

(なんて存在感なの……戦闘配備のイージス艦や軍事基地そのものを丸ごと相手にした方が、まだ圧倒的にましよ……!)

 

 逃場のないプレッシャーに心拍数を跳ね上げるラプターに対し、リチャードの脳内は別の意味で大パニックに陥っていた。


(……俺の名演技に戦闘メカ子が飲まれている。このビッグウェーブに乗って見せる!出でよ、俺の中のまだ見た事の無い俺!あ~っ、もう、いつものこれしかねーじゃん!行くぞ、出たとこ勝負)


 必死の生存ロジスティクスを全開に回転させ、リチャードは王の威厳を纏った完璧な笑みのまま、朗々と語り始めた。


「――さすがラプターと言わせてもらおう」


 その低くよく通る声に、周囲の空気がピリリと引き締まる。


「地上のあらゆる兵器を駆逐し、多くの拠点を沈め、現代最強と聞いた話は実に真であった。……さすがの獅子心王も、攻撃という点では勝つことは出来ない」


(だって攻撃したことないからガチで勝てないもん……)


 周囲の観客や中継を見つめるネット民たちが息を飲む。ただ見るだけで圧倒的存在であると理解させられる程の偉大な男が、勝てないというのだ。

 SPC(セフィラ・キャピタル)本陣でも、ノートPCで視聴していたケプラーが、「あの最強の獅子心王が、相手の戦闘力を素直に認めた……!」とつぶやく。ライプニッツやアイザック、デカルトも動揺を隠せなかった。


 だが、リチャードは淀みなく言葉を続けた。


「しかし、守るだけなら、この獅子心王は猛禽の娘に引けは取らん」


(ここまで防御できたから、嘘じゃないよね。えっ、この先なんて知らんがな)


 その絶対的な自信を感じさせる物言いに、ラプターの眉がピクリと跳ね上がる。


「つまり、この状況を俯瞰して考えるがいい。猛禽の娘の最強の矛と、獅子心王の最強の盾。どれほどやり合っても決着はつかぬよ。……千日手というやつだな」


(たのむ、たのむからこのハッタリを信じてくれ……! 殴られたらマジで『ミートボール、原材料名イングランド・フランス産合挽肉』になっちゃうんだよ俺はぁっ!!)


 リチャードの脳内の悲鳴など知る由もなく、彼の放つ言葉の重みは、周囲の者たちに「この戦いを続ければ互いに甚大な被害が出る」という冷徹な戦術的看破と同時にして響いていた。そして遺跡でこの光景を目撃していた観光客の多くは、彼が「自分たちの危険を配慮してくれている」という王の度量に胸を打たれて、知らぬ間に涙を流していた。


「それは、君たちの目的、友である代行者殿を取り返し、我々の野心『神の予定調和』の名の人類管理を止める事には、いささか不利な状況だろう」


 そして、リチャードはそこで一度言葉を区切り、全てを見渡すようにゆっくりと両手を広げて見せた。その姿は、まさに大局を見据える真の王のそれだった。


「故に、提案だ。この勝負は『分け』としようじゃないか」


「……なっ!?」


 ラプターが息を呑む。戦いを引き分けに持ち込むという提案。しかし、リチャードの続く言葉には、さらにその先を見据えた「大義」が感じられた。


「猛禽の娘は軍士官と聞いた。君たちが成し遂げること、そして大局を見て考えるがいい。この局地戦で仮に分けたとしようが、次なる戦いでの勝利を目指せばよい。戦闘と戦略が異なることは学んだのだろう」


 脳内で完璧な保身の計算を巡らせながらも、リチャードの表情には微塵の曇りもない。

 もはや敵味方の区別すら超越したかのようなその圧倒的な器の大きさに、ラプターだけでなく、遠くのSPC(セフィラ・キャピタル)本陣で見守るエル・シドたちや、中継を見ていた世界中の人々までもが、その言葉の深さに感銘を受けていた。


 だが、リチャードのハッタリは、ここで終わらなかった。

 彼は自陣営の仲間たち、そして目の前の敵対者たちの双方に向けて、王として最高にカッコつけるための「最後の一撃」を放つ。


「我が同胞エル・シドは言っていた。思いを託す若者たちに出会ったと。――その事実、拳を交えて理解した。君たちは彼の慧眼に見出されただけのことはある。君たちの行く末を、俺も見たいと思った」


 その言葉に、マンダラキ港でモニターを見つめていたエル・シドが、ふっと驚いたような、そして深く納得したような笑みを浮かべる。


「しかしながら、我らが『管理』という歪な形でも人類救済を行いたいという願いも、また真実のものだ。この我らの思いは、偉大なる仲間たちに繋ぐことにしようと思う」


「繋ぐ……ですって?」


「そうだ。君たちの行いを妨げずに、我々の思いを貫くには、これが最善手と俺は考える。卑怯かもしれないが、敵である君たちの思いも、仲間たちの願いも、両方守りたいのだ。

 ――これが、俺の王としての生き方だ」


(これなら俺も、なんだか思慮深くカッコよく身を引いたように見えるはずだ! ジャンヌもゴドフロワも真面目で単純な奴だから、敵であっても相手を慮る俺のこの姿勢は評価するはず……だってあいつら、キレイ事で生きてるんだもん!)

(多分、大丈夫って獅子心王センサーが反応している。もう俺はやり切った、俺の中の獅子心王成分は、もうゼロよ……)


 脳内では真っ白に燃え尽きながらも、外見上はどこまでも気高さに満ちた微笑をたたえて佇む獅子心王。


「……あたしは、……」


 追撃の拳を握り締めることすら忘れたラプターに、四人の少女たち「チーム四神」が駆け寄ってきた。


「ラプター!私たちにあとは任せなさい。あんたがさっきくれたのは『戦闘分析データ』だけじゃないって良く分かった」

「ラプターは僕たちに『思い』を託したんだって。そこのリチャードさんの言ってる通りだ」

「今回の戦いだってそうだよ、私たちはずっと見てたよ。多彩な徒手格闘で相手に詰め寄る戦闘手法ログは私たちに刻まれたよ」

「だから、あとは任せて!私たちはみんなの力で勝つんだから」


 半泣きの四人の少女たちは、逡巡するラプターに一斉に声をかけた。


「大丈夫だ、あとは彼女たちに任せなさいラプター君。『獅子心王』殿の言う通り、僕らに時間が無いことは確かだ」

「そうよ、ラプターちゃん!あんたはスゴイ事をやったのよ。古今無双の王様から『引き分け』を勝ち取ったのよ。胸を張りなさい!」

「ラプター大尉。合衆国から『引き分け』について何を言われようとも、公安庁の立場からあなたの判断は正当だったって主張するわ。あの男の凄さは私にだって分かるもの。普通じゃないわ」


 ヴァンス、松河、神崎も皆、不自然なほどラプターの奮闘を称えた。それほどにリチャードという男は強大な相手だと皆は考えたのだ。


 ラプターがふと横を見ると、エル・シドとの戦いに勝利した鳳凰が、何か言いたげに右手を上げてハイタッチを求めていた。


「ナイス、ファイト。あんな怪物相手に『分け』を認めさせるなんて流石『最強』ね。私じゃ敵わないかもって思いながら見ていたわ」


「……鳳凰」


 一瞬目をつむったラプターは鳳凰の右手にハイタッチを返した。そして意を決したようにリチャードに振り返ると告げた。


「『獅子心王リチャード』あなたの提案を受け入れる。伝説通りの高潔な王の判断に感謝するわ」


 リチャードはラプターに近寄ると、彼女の右手を高々と差し上げた。


「見よ、堂々たる猛禽の娘の姿を!ここにあるのは勝敗では無く『英断』のみ。敵も味方もない我々の勝利だ」


 世界は、人々は、『獅子心王』の鮮烈な勝利宣言に歓喜の雄たけびを上げた。

 戦闘を見つめていたアクロポリスの観光客たちは、最高の感動を与えてくれたこのショーと偉大な二人の戦人に心からの歓声と拍手を惜しまない。中継ライブの同接人数は既に百万人を優に超え、スマートフォンやパソコン、様々な手段で見ていた多くの人は感動と勇気、そして敗者も勝者も無い、本当に美しい結末に酔いしれる事となったのだ。


 しかし、世界を震わせた張本人である、獅子心王リチャードの完全に燃え尽きた脳内では、二頭のレッサーパンダが両手を上げるかわちい映像がぐるぐると再生されるのみであった。



いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

『続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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