↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/76

真の王

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

本日は獅子心王リチャードの本音と建て前の話です。

どうぞお楽しみください。

 ロドス島北端のマンダラキ港、SPC(セフィラ・キャピタル)の本陣にて。


「『運動会』の中継とやらも、かなり上手く行っているようだな。ライプニッツよ。」

「ああ、アイザック。君が準備してくれた通信機器を使って、あの英雄の卵は世界中に『運動会』の様子を喧伝しているようだね。おかげでロドリゴ(エル・シドの本名)の実存も益々濃くなったんだよ。多人数による同時観測は、我々の存在には絶大な効果を生み出している」

「白雪湊と言ったかな。あの極東から来た英雄の卵は……時代というものは、多様な形の英雄を生み出すのだな」

「そうだね、アイザック。学問や武勇、財力だけが英雄の評価では無いという事なのだろうね。彼女はどのような英雄へと育つのやら……」


 ノートPCを囲んだライプニッツとアイザックに、遠くを見つめるエル・シドが話しかけた。


「……次の戦場か。噂に聞く奴の戦いぶりも、見ものだな」


 リチャードが姿を消したあと、遠くのリンドス方面へと視線を向けながら、彼は面白がるように口の端を持ち上げた。


「……ふん。時代は異なれど、奴の功績や名は我も知るところだ。中世最強の歌を愛する詩人肌の王だとは聞いていたが……どうにも、あの飄々とした物言いは少しばかり不遜に映るな」


 エル・シドのその言葉に、アイザック・ニュートンは腕を組みながら淡々と分析するように頷く。


「無理もないさ、ロドリゴ。彼と君では歩んできた戦場の質が違う。リチャードは国家の利害と十字軍という巨大なシステムの中で、常に自己の誇りと生存を賭けて戦ってきた男だ。あの軽口も、ある種の防衛機制か、あるいは彼なりの虚勢だろうよ」


 デカルトもまた、静かに腕を組みながら冷静に付け加えた。


「それに、彼の言葉の裏には、彼なりの焦燥や、私たちには計り知れない業が隠されている。不遜に見える態度も、これから彼が臨む戦いを前にした、彼なりの儀式のようなものだろう」


 学者たちの言葉を聞き、エル・シドはしばらく沈黙したあと、やれやれといったふうに大袈裟に肩をすくめて笑った。


「はっ、学者殿らの時代でも奴は一番人気だったと聞いている。揃いも揃って、皆はあいつに甘いな。しかし、王と名乗る以上は、それなりの振る舞いを求められるのだが……そこはどう考えるのか、先生方?」


 エル・シドの言葉に、アイザックはクスリと小さく笑って首を横に振る。


「君の言う通りだがね、ロドリゴ。彼と君では、後世における『語られ方』の質が違うのだよ。君が格式高い叙事詩や文学や戯曲の領域で語り継がれてきた『物語の英雄』だとするなら、彼は違う」


「こういうことだよ、エル・シド卿」


 ケプラーが、どこか少年のような目を輝かせて言葉を引き継ぐ。


「リチャードは、ヨーロッパ中の子供たちが寝物語にねだり、大衆の歌う吟遊詩人の旋律に乗って広まった『生身の身近なヒーロー』だ。我々にとっても、子供の頃に胸を躍らせた冒険譚の主人公そのものなのさ。いかに歴史上の失策が多くとも、あのハッタリの効いた華やかさとロマンの前には、どうしても贔屓目に見てしまうものなのさね」


 デカルトもまた、静かに腕を組みながら冷静に付け加えた。


「我ら『学者組』の身体は現在も引用される『公式や方程式』のような理知的な業績から出来上がっているが、君たち『武人』は歴史上の足跡だけでなく、後世の創作――いわば人類が積み上げてきた『伝説』の総体で出来ている。だからこそ、あの不遜に見える態度も、伝説に紐づいた彼なりの精一杯の格好つけなのだろうよ」


 学者たちの言葉を聞き、エル・シドはあきれたように大袈裟に肩をすくめて笑った。


「やれやれ、理屈ばかりこねているが学者殿たちは、結局は単なる奴のファンじゃないか。まあいい……俺たちの檻を壊す若者たちを見守ると同様に、あの強がりな『獅子心王』がどう暴れるか、最後まで見届けてやるとするか」


 エル・シドの言葉に、ライプニッツたち学者組は苦笑を浮かべ、再びリンドスの方角へと視線を戻したのだった。


 ◇◇◇


(――やっぱり死ぬって! こんなの、絶対に死ぬからねっ!?)


 ラプターの放つ圧倒的な連撃を目の当たりにし、リチャードの脳内はすでに全方位への絶叫と冷や汗で満たされていた。

 直前までエル・シドが繰り広げていた戦いを思い出せば出すほど、冷や汗は滝のように流れる。


(待てよ、なんでエル・シドの野郎はあんなに強化人間と互角以上にやれてたんだ……! あいつ、絶対五分でやり合ってたぞ! 正面からガッツリ打撃受けてたもん!

 俺みたいに必死に軌道をそらしたりせず、まともに受け止めて弾き返してたもん! あんなの、俺が正面から当たったら一撃で消滅するわ!当たったら普通に死ぬもん!)


 ラプターの一撃が当たったら最後という恐怖に震えながらも、外見上は不敵な微笑をたたえた『王者のポーズ』(自称)だけは完璧にキープしつつ、リチャードの脳裏で激しい疑問と思考の奔流が巻き起こる。


(そういえば……! エル・シドって、戯曲や伝承で『死後もなお馬に乗って戦った』みたいな、ぶっ飛んだ不死伝説とかが盛りに盛られて残ってた気がするぞ。俺、生前に読んだことあるわ……!)


(この間、ジャンヌに動画サイトやネットの使いかたを教わったとき、暇つぶしに自分の名前でエゴサしたっけ……。あの時、俺のページはやたらと一次資料のリンクが充実してて、十字軍の遠征記録から、借金の明細、母上との泥沼のやり取りまで、史実のディテールがめちゃくちゃ正確に残ってた……!)


 そこまで考え至った瞬間、リチャードの脳内で雷鳴が『ガーン』と轟いた。


(……あっ。学者先生たちは『僕たちの身体は歴史の情報や伝説の補正で強化されている』って言ってたけどさ……)

(それってつまり、正確な一次資料が残りすぎて歴史の解像度が高すぎる人間ほど、後世の都合のいいファンタジー補正(オカルトバフ)の恩恵をめちゃくちゃ受けづらいってことじゃねぇか――!!)


 絶望的な真実に気づき、リチャードの心臓は恐怖とは別の意味でバクバクと狂ったように跳ね上がった。


(嘘だろ!? 映画にもアニメにもゲームにも漫画にもなって、人気投票なら絶対トップクラスの自信があるのに、肝心の『実存の怪異度(オカルトパワー)』の計算式だと、俺、ただの『クソほどタフなだけの生身の人間(史実準拠)』の枠から一歩も出られてないじゃねぇか!!)

(こんな最先端の軍用強化人間相手に、ファンタジーのバフ無しの『ガチの史実の肉体』だけで殴り合わされるとか、完全にブラック労働だろ……っ!)


 だが、ここで逃げ出せるわけもない。

 迫り来るバリスタのような拳を紙一髪でいなしながら、リチャードは胸の内で歯を噛み締める。


(くそっ……! 伝説のバフがなかろうが、オカルトの奇跡がなかろうが、ここまで気合とハッタリだけで突っ走ってきたこの獅子心王《クソニート》の意地を見せてやるよ……っ!)


 ビビりにビビっていたリチャードだったが、いろいろ観念した結果、ようやく肝が据わった。


「見事だ! 実に見事だ、少女よ。先手を譲らせたことを正直後悔している。名を聞こう、戦士よ」


 様子の変わったリチャードを警戒したまま、拳を腰だめに構えながらラプターは答えた。


「……F22ラプターと呼ばれているわ」

「ラプター……猛禽か。なるほど、王者の大鳥。それならば、この俺『獅子心王』も本気を出さざるを得ないな……」


 先ほどまで微笑を携えながら『王者のポーズ』を守ってきた彼は、ゆっくりとその両手を広げてラプターを真っすぐに見据えた。


「……!?」


 リチャードが見せたその構えは、雄々しく力強い。……獅子の名にふさわしい堂々たる風格を見せつけた。それは『生身』の人間から放たれる剥き出しの迫力としては巨大すぎるほどのカリスマであった。


(――た、頼むからビビってくれ! 実際はファンタジーのバフもなくて、一発殴られたら肉団子不可避なんだからな俺はぁっ!!)


 脳内で必死にそんな悲鳴を上げていることなど微塵も感じさせず、両手を広げる王のシルエットは、万夫不当の『獅子心王』の風格と戦気に満ち溢れていた。


 呆気にとられたラプターは、もう一度リチャードを見つめた。


 彼女の強化されたセンサーやソナーは、目の前の男から特異なエネルギー反応も――一切の異常出力を検知していない。データ上は、「成人男性」でしかないはずだった。


 しかし、彼女の直感と戦闘本能が警報を鳴らす。両手を広げて微動だにせず自分を見据えるその男は、ちっぽけな肉体などではなく、何万もの敵兵を恐怖の底に叩き落としてきた「絶対不可侵の要塞」そのものだ。


 リチャードの放つ迫力に視界が歪んで見えるラプター。その額からは、耐えがたい重圧にこらえるように一筋の冷や汗が流れた。


 ◇◇◇


「……! 何だこの重圧は?」


 SPC本陣で『運動会第二戦』をノートPCで学者組と見つめていたエル・シドは驚愕した。

 先ほどは、その在り様さえも疑った『獅子心王』が両手を開いた瞬間、世界が圧を受けたのだ。

 マンダラキ港の風が止まり、波さえも完全にその音を止めた。

 学者組も怪訝そうに周囲を見回していたが、ケプラーだけは涙目で歓喜の雄叫びを上げた。


「これだよ、物語で何回も聞いた『獅子心王《ライオンハート》』だ。万を超える異教徒の軍勢を敵に回しながらも味方を守り抜き、その敵さえも平伏させた騎士王その人だ」


「……なるほど。この力、学者殿たちが言うだけのことはある。生前にこれほどの王と出会っていれば、俺の生き方は大きく違っていたかもしれん。これこそが真の王者の風格よ」


 エル・シドもリチャードから放たれた重圧に、彼を疑った発言を早々に撤回した。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

『続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

ブックマークと感想も是非ともお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。