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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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神崎玲奈の疑念

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

本日は次なる戦いに向かう道中の話です。

どうぞお楽しみください

 エル・シドと別れを告げた一行は、灯台の有った離れ小島を後にする。


 灯台の小島からは対岸の駐車場までは、干潮時は砂浜が顔をのぞかせる。満潮時は海の中なので当然午後の太陽を遮るものは無い。

 徒歩にして四十分の距離は、都心住まいの都会人である玲奈の心を随分とすり減らす。

 尚、その他のメンバーは強化人間と体力盛りの女子高生、技術者だが元軍属のヴァンス、キザな外見に反してアスリートの松河と言った面々。


 神崎玲奈はそもそもアウトドアが得意ではない。肩で息をしながら忌々しそうに松河に愚痴る。

「……ちょっと松河、何でそんなに平気そうなのよ。変なコート着てるのに」

「やだー!玲奈ちゃん。なんでそんなに体力無いのよ。公安って体力もいるお仕事なんじゃないの?」

「しょうがないでしょ。叩き上げじゃなくて国総試験受けて入ったから。警察学校でチョロッと体力づくりして以来何もしてないわよ」

「だからお役人様って言われるのよ!私たち民間企業は必死に働いてるのにね。本当にイヤイヤ」

「重役の馬鹿ボンボンに言われたくないわよ!」


 そんな不毛な会話をする二人と、生温かい視線で見つめる仲間たち。駐車場にたどり着いた彼らの目に飛び込んだのは、なぜかそこにポツンと佇む、SPCのロゴが描かれた一台の島巡り観光バスだった。


 運転席の真上にあるLEDサインには、丁寧な日本語でこう表示されている。


『五味ナナオ様ご一行』


「……は?」


 思わず足をとめた松河が、きらびやかな特務仕様のコートの裾をつまみながら、目をパチクリとさせた。

 バスはごく普通の観光バスの仕様だが、完全な無人運転の自動制御車である。恐る恐る車内に乗り込んだ一同を待っていたのは、さらに予想の斜め上を行く光景だった。


 中継に必要なWi-Fi機器、通信端末一式、膨大な予備バッテリー、そして通信対応の高性能カメラが複数台、まるでロケ隊のように整然と備え付けられている。


「……!!!!!!」


 スマホのバッテリー切れを密かに危惧し、今後の情報戦や連絡手段について頭を悩ませていた白雪湊は、その機材の山を見た瞬間、ぱっと両手を合わせて歓喜の声を上げた。


「これだけの機材、全部そろえたら何百万かかっちゃうわよ……! ふん、いいじゃない。これは私を誘拐した慰謝料の『一部』として、ありがたく没収《いただ》いておきましょう!」


「さすが、白雪ちゃんは誘拐されても一ミリも怯まないどころか、ちゃっかり資産回収を企らんでるわけね。本当に大した娘だわ……」


「……白雪君、それだけの機材を『慰謝料の一部』って」


「白雪のヤツ、まだまだ慰謝料をせしめる気なのね……」


「当り前じゃない、ピンチはチャンスなのよ!海外まで拉致られたんだから、十七歳の貴重な青春時間はプライスレスの価値で取り返してやるわ」


 胸を張って高笑いしながら、堂々と慰謝料をむしり取ると宣言する白雪。


 あきれ顔で額を押さえる松河の横で苦笑いするヴァンス。

 そのほとばしるバイタリティは、白雪への被害者感情や同情心を完全に吹き飛ばしてしまった。


 運転席のダッシュボードに置かれた、幾帳面な達筆な日本語の書面――『ご自由にお使いください』と添えられた手紙に玲奈が目を留める。


「こんなの白雪が見たら『バスも日本に持ち帰る♡』って大喜びするんでしょうね……」


 車内の自動モニターには、次の行き先であるロドス島北端のゴール地点へのルートとともに、SPC(セフィラ・キャピタル)が世界で行っている金融業、生命工学、機械工学、さらには各種大学への莫大な支援や慈善事業をPRする企業イメージビデオが延々と流れていた。


「生命工学まで手を出して、そもそも金融業なんでしょ。ちゃっかり自分たちの慈善事業をアピールするあたり、大人の組織って本当にタチが悪いわね……。」


「……さっきあいつらが言ってた『予定調和で世界を管理する』とかいう大義名分を聞いたせいか、滅茶苦茶うさん臭く感じるね」


 ワチャワチャ話し出すチーム四神たち。


 そんな声を聴きつつ玲奈の脳裏には、かつてSPC(セフィラ・キャピタル)の山高帽たちから以前に受けた脅し文句を思い出していた。

 当時は正体を明かしていなかった、あの英雄や学者たちの誰かが言ったものだ。


「神崎玲奈。貴女は我々を知らないが、我々は貴女を……そして貴女が抱える『零式』をよく知っている」


 その言葉が気になった玲奈は、祖母である神崎紗季の残した『零式』の資料を実家で探していた。扶桑重工の会長であったのと同時に優れた物理学者でもあった紗季は、『零式』開発主任として歴史にその名を刻んでいる。しかし、玲奈が見つけたのは断片的な手記とほとんどが黒塗りの設計図だけだった。


(……まさかSPCが、うちの祖母や『初代零式』の開発に関わっていたってわけ……? そもそも、『初の純国産強化人間にして帝都を救った軍神』っていう事実がありながらも、祖母が残した来歴や設計図は、黒塗りで解読も出来ないなのに)


「それにしてもさぁ」


 不意に、隣に座っていた松河が、特務仕様のコートを優雅に翻しながら、感心したようにため息をついた。


「十字軍の金庫番から金融業に発展して、いろんな分野にお金を出してあんな巨人作ったり、過去の英雄を引っ張り出すなんて。SPC(セフィラ・キャピタル)って歴史の重みとはまた違う恐ろしさがあるわぁ」


「――ねえ、松河。そもそも神庫重工とSPC(セフィラ・キャピタル)の接点はいつぐらいから始まってたの?」


「うん?ワタクシちゃんは、F35の事で脅された時だから、ついこの間くらいに知ったんだけど、付き合い自体は長いみたい。社長(パパ)は戦前だって言ってたわ」


(日本への出入りは、やはり戦前からなのね)


「あんた、うちの『初代零式』の本当の来歴について、何か聞いてたりしない?」


「は? 何よ急に。大日本帝国初の純国産強化人間で扶桑重工の虎の子の軍神様なんでしょ。戦時中に帝都を合衆国の特殊爆弾から謎の発光現象で守って行方不明になったって、あんたも日本史の教科書で習ったでしょ。 それ以上私が知るわけないじゃない。まさか、神崎家の当主ご令嬢であるあんたが、自分の家の最高機密を探ってるわけ?」


 トゲのある松河の返しに、玲奈が「っ……!」と言葉を詰まらせる。


 そのやり取りを、車の後方でそっと聞いていたヴァンスと白雪は、顔を見合わせるなり小声で会話していた。


「……ヴァンスさん、『零式』って。あれって確か……」


「ああ、新宿でうちの鳳凰とラプター君を助けた時に、規格外の身体能力と空中元素固定装置で光る空中回廊を作った事が世界中継されたじゃないか。だから対外的な発表用に『扶桑重工が作った純国産超強化人間』って設定を神崎君に提案したとナナオ君から聞いている。設定自体はエルピスが作ったものらしいがね。ナナオ君が『自分は宇宙人』だと素直に話しても、神崎女史はまるで信じないらしい」


「五味くんは別に嘘ついて無いんですけどね……」


「神崎女史はリアリスト過ぎてついていけなかったんだろうな。宇宙人という事実に」


「神崎さんは周りに内緒で、五味くんを『零式七七〇』って必死で仕立て上げているのね。可哀そうに」


 気まずい苦笑いを浮かべて二人は、松河と玲奈のやり取りを聞いていた。


 無人バスは静かにエンジンを唸らせ、次の決戦の地へ向けて、自動走行を加速させていく。海岸沿いを走る車窓には、断崖絶壁の上にそびえ立つアクロポリスとアテナ神殿の遺跡が遠く見えていた。

いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

『続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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