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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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失敗者

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

本日は再び本編に戻ります。

獅子心王リチャード一世の身の上話です。

九割本当で一割創作です。かなりお間抜けです。

どうぞお楽しみください

 世界が注目した三分十五秒。


 奪還者と不死鳥がプラソニシの砂浜で繰り広げた激闘は、多くの視聴者を魅了した。彼らが見せた命の鼓動は、決闘というにはあまりにも美しすぎる演武だった。

 鳳凰はエル・シドに手を振り、灯台の有る離れ小島からロドス島の北へと向かっていった。

 清々しい笑みを浮かべ、全てをやり遂げた足取りでエル・シドは、SPC(セフィラ・キャピタル)の本陣であるロドス島北端のマンダラキ港へと戻ってきた。


 埠頭の一角でその帰還を待っていたライプニッツ、アイザック・ニュートン、そしてデカルト、ケプラーの学者陣は、敗者とは思えないほど晴れやかな顔をした伊達男の姿に目を丸くする。


「おや、ロドリゴ。ずいぶん早いお戻りだね。しかも、その表情……良い敗北だったかい?」


 ライプニッツが驚きと探るような笑みを浮かべて問いかけると、エル・シドは愛用の双剣を軽く肩に担ぎ、大いなる満足感に浸るように豪快に笑った。


「あぁ、見事に討たれちまったよ。だが、実に気持ちの良い負け戦だった。俺はあの娘に、俺の持てる全てと、我が思いの全てを託したのさ」


「託した、か……実に君らしい」

「……なあ、彼らはどうかね?」


 微笑むライプニッツと対照的にアイザックが怪訝そうに眉をひそめると、エル・シドはふっと優しげな眼差しを遠くに向けた。


「おかげで可愛い娘が一人できちまった。血の繋がりがなくとも、あんな熱い拳を交えれば親の気持ちも湧くというものさ。……ふん、あんな愛おしい家族がこの世にできてしまっては、いっそ綺麗に消え去るわけにもいかないらしい。俺はしばらく、この世界の顛末を特等席で見守らせてもらうとするさ」


 その言葉に、ライプニッツ、ニュートン、デカルト、ケプラーの四人は顔を見合わせ、どこか救われたような笑みを浮かべた。

 自分たちの敷いた予定調和の檻を若者たちがどう打ち破るのか、その結末を見届けたいという彼らの心境に、この不敗の英雄の生き様は静かに馴染んでいた。


 その穏やかな空気を断ち切るように、腕を組んで壁にもたれかかっていたリチャードが足を踏み出した。


「……おめでたいことで、エル・シド。身内に囲まれて散るのが英雄の理想郷なら、お前は十分にそれを果たしたわけだ」


「そんな単純なもんじゃねえ。人間が託すってことの意味は、生き死にを超える。親が子に何かを残すように、師が弟子に何かを渡すように、人は自分一人じゃ終わらねえ。自分が歩いた道の先を、誰かが歩いてくれる。たとえその先で、俺の知らねえ景色を見ることになったとしてもな」


「……」


 無言となったリチャードのただならぬ気配に、一同が視線を向ける。彼はエル・シドの横をすれ違いざまに、どこか熱を帯びた瞳を南の空へと向けた。


「次は、私の番だ。……確かめたいことがある」


 振り返りもせず、リチャードは静かに、しかし有無を言わせぬ覇気を纏って歩き出す。


「だが、勘違いするな。私はお前のように、途中で骨抜きになって負けを認める気など毛頭ない。……私の泥と業は、あんな小綺麗な御伽話ごときでは洗い流せやしないのだからな」


 それだけ言うと、リチャードは次の戦場へと姿を消していった。


 ◇◇◇


 マンダラキ港を後にしたリチャードが向かったのは、島東岸の古都リンドス、その断崖絶壁の上にそびえ立つアクロポリス――アテナ神殿跡だった。


 紺碧の海原を見下ろす「天に近い場所」。軍神と聖域の冷厳な空気が漂うその遺跡の柱の陰に、リチャードは一人、背中をもたれかけさせて佇んでいた。


 遠目から見れば、吹き付ける海風を纏い、孤高にして圧倒的な神威を放つ「獅子心王」そのものだ。戦場を支配する覇王の気取りを崩さず、完璧な英雄のシルエットを自ら作り上げている。本人の見た目と美しい海とアクロポリスの遺跡が織りなす絶景は、やはり観光客の目を誘う。


「なあ、南の灯台で動画撮影やってたらしいぞ。なんかサイトでバズってる」

「ええ、じゃあ今度はこっちで撮影かなぁ。スーツの俳優が佇んでるもん」


 アテナ神殿の巨大な柱に背を持たれながら遠くに目を向けるリチャードは、どうしようもなく絵になるのだ。


「……」


 そんな目を惹くビジュアルと裏腹に、やたらと晴れてまぶしい午後の太陽と纏わりつくような婦女子の視線が、リチャードには鬱陶しくてしょうがない。


「……連中に、意味ありげな事を言ってみたものの」


 実はこの男、エル・シドやSPC(セフィラ・キャピタル)の仲間たちにカッコいい事を言ってみたものの、本当は何も考えていなかった。

 リチャードの脳裏を占めているのは、失敗ばかりの人生への自嘲と底抜けの空虚感。


 アテナ神殿の白い大理石の柱に背を預け、遠巻きの観光客たちが向けるスマホのレンズに、完璧な角度のアンニュイな微笑みを返しながら、リチャードの脳内は盛大に現実逃避の愚痴で満たされていた


 ――あーあ。マジで人生のセーブデータからやり直したい。


 振り返れば、俺の人生がここまで狂った根本の原因は、言わずもがな「親ガチャの大失敗」に尽きる。

 我が母親、アリエノール。あいつは、まごうことなき生粋の毒親だ。


 なにせ、あのババアの経歴がまずイカれている。

 もともとはフランスの半分以上を持っていた超絶大金持ちの貴族――アキテーヌの女領主だ。自分の野心を叶えるためにフランス国王と結婚したはいいが、「なんか相性が合わないわ、だるっ」と思った瞬間に、王妃の座を秒でポイ捨てして離婚。

 そして、その離婚した足で、よりによって敵国であるイングランドの王(俺の親父)と即座に再婚し、フランスの半分をごっそり敵国に手土産として持ち込んだという、歴史のバグみたいな狂った婚活モンスターなのだ。マジだ。


 そんな「自分の野心のためなら国を二つに割ることも厭わないイカれた女」から生まれたのが、この俺だ。ピエン。


 物心ついた頃から、アリエノールは俺を「可愛い我が子」としてではなく、自分の野心を拡大するための使い捨ての駒くらいにしか見ていなかったと思う。(主観)


『リチャード! 何をぼーっとしてるんだい! 腐れフランス王家の馬鹿ガキどもは、もう新しい領地を二つも併合してマウント取ってきたんだよ! あんたも早く武功を上げてこい! うちの血筋に泥を塗るようなみっともない真似をしたら、どうなるか分かってるだろうね。あ、でもお前の新曲カッコいいから褒めてやるわ』


 ――訳が分からんぞ!このアメとムチ、こんな奴に逆らえるわけがない。


 あんな狂気のモンスターババアの言うことに少しでも逆らおうものなら、ねちっこく精神をすり潰されるか、あるいは別の兄弟を代わりの駒に仕立て上げられてポイ捨てされる。

 たまに褒めてもらえるのは、ババアの地元オック語で俺が作った愛の歌(トルバドゥール)を歌う事ぐらいだ。ババアのおかげで南フランスでは俺はアイドルだ。ヴァイブスぶちあがる。


 ……みんな酷いだろ!上げたり下げたり何なんだよ、あの母上は。


「うるせえよクソババア! 俺はトルバドゥール歌いになりたかったんだよ!なんで王様になったの俺!もう好きな事だけやって過ごしたいんですけど!」


 と心の底で血涙を流しながらも、母上の描いた狂気の盤上で、俺はひたすら前線へと駆り出された。


 おまけに、実の弟のジョンもジョンでこれまた救いようのないアホだ。


『にいちゃーん! 僕、国庫の金を全部溶かして超ヤバい海外の先物取引に全ツッパしちゃった! なんかハンガリーのよく分かんない壺を大量に買い付けたんだけど、これ絶対バカ売れすると思うんだよね! へへっ!』


「馬鹿野郎お前はぁっ!! それ国が傾く借金だろ!! 首吊るぞテメェ!!」


 ――兄貴が命がけで外地に出て戦争して家計を支えているというのに、このクソガキ弟は城で怪しい新興宗教の壺を買ったり、全財産をギャンブルに突っ込んで盛大に家計を火の車にしてくれる。尻ぬぐいをするこっちの身にもなってほしい。


 家族は自分の野心しか考えていないイカれた毒親と、脳みそが中身スッカラカンのアホ弟。

 国へ戻れば親父とバチバチにやり合い、気づけば唯一まともだった親父をガチで追い詰めて死なせてしまい、「俺、ファミリークラッシャーじゃん……」と自己嫌悪で胃が穴だらけになる。


「なんで俺、家族運がここまでクソなんだ……いや、ババアとジョンがあんなんだからだろ! もう全部めんどくせえ!」


 俺はこんな国から出ていきたい!!!!!!!


 そう思った人生に転機がやって来た。

 心底うんざりしていた矢先、世間を揺るがすビッグイベントが舞い込んだ。

 そう、「第三回十字軍」である。


「もういい。家族も信用できない。こうなったら神様しか勝たん。神の名のもとに、十字軍に行って純粋に信仰に生きるぜ!」


 ――『乗るしかない、このビッグウエーブに』くらいの軽い気持ちで戦場に赴いた。

 そしたらどうだ。


「えっ……? 俺、めちゃくちゃ戦争強いんだけど……? もしかして俺、チートなの? 敵の城を木端微塵にするの、楽しすぎワロタ」


 本人は「神のために地道に働く一般兵」のつもりだったのに、フタを開ければ無双状態。

 圧倒的な暴力の才能と、前線でのオーバーワーク適性がバグレベルで高かったせいで、気づけば敵から『獅子心王』と恐れられる伝説の戦士になっていた。


 ――えっ!俺またなんかやっちゃいましたか?


 実家では「母親の野心を叶えるための便利な駒」扱いだったのに、戦場に出たとたん「英雄」としてちやほやされる。


 ――この転生物、居心地が良すぎる。


 もう二度と、あんな息の詰まる実家や、ガミガミうるさいアリエノールのいるイングランドになんて帰りたくない。ずーーっと異教徒と小競り合いして、前線で暴れ回っていたい。


 しかも、敵のボスであるサラディンとかいう奴に出会ってからはさらに世界が変わった。


「なんだよアイツ、敵なのにめちゃくちゃ話が通じるじゃねえか。なんなの? クソみたいな実家の毒親より、こっちの敵のおっさんの方が俺の機嫌を取ってくれるし、優しくない?」


 本気で「サラディン、俺のお兄さんにならないか?」とスカウトしたいくらいだった。

 そんな最高に楽しい「現実逃避の戦争ライフ」を謳歌していたというのに――。


 ある日、資金が尽きて戦争が終わりを迎えた。


「あーあ、終わっちゃったよ。またあのクソ実家に帰らなきゃいけないのかよ……最悪だ……」


 と絶望しながら帰り道をトボトボ歩いていたところ、運悪く(あるいは運良く?)途中で敵に捕まって、神聖ローマ帝国に人質として監禁されてしまった。


 その瞬間、リチャードの脳裏に電撃が走った。


「……待てよ? これ、わざと帰国を先延ばしにできる絶好のチャンスじゃね?」


 人質生活は最高だった。牢屋とはいえ、監守の連中とは仲良くなるし、面倒な実務からも解放される。


「よし、こうなったら実家にぶっちぎりでふっかけてやれ。絶対に払えないような超巨額の身代金を請求して、ずっとここに引きこもってやる!」


 俺は、神聖ローマ帝国皇帝のハインリヒ六世に泣きながら身の上話を聞かせた。


「……お、おう」


 なんだか気の毒そうな顔で、彼は協力を申し出てくれた。イングランドの母親に向けて「今すぐ莫大な身代金を払わないと息子は首が飛びます(笑)」という特大の請求書を送りつけた。御代はなんと十五万マルク分の銀。えっ分からないって?

 銀が三十トンくらいだよ。払えるわけないよね!そうだよね!絶対あきらめるよね!


 これでしばらくは実家に帰らずに済む――そう、心の底から安心していたのだ。


 だが数ヶ月後。


「――身代金が全額、支払われました」


「…………は?」


 ババア、やりやがったな……


 そうして泣く泣く故郷に帰って、なんやかんやで流れ矢に当たって死んだ。

 なんでやねん。


 その後、俺の自意識が目覚めるのは結構早かった。いろんな奴に戯曲や映画にされたせいだな。『獅子心王』ってキャッチコピーがやっぱり効いたのだろう。マジ強そう。


 そんな中でSPC(セフィラ・キャピタル)の学者先生に拾われて、現在に至るわけだ。


 あと、フランス娘のジャンヌと俺はやたらと気が合う。あいつは俺に動画サイトの閲覧方法や、コミケで売られる薄い本、アニメなんかをやたらと教えてくれる。マジ感謝。


 ようやくできた俺の平和な居場所、それがSPC(セフィラ・キャピタル)だ。それにこの組織にはしっかりと神の名のもとの大義が有る。結局、神様しか勝たんのだ。


 SPC(セフィラ・キャピタル)はマジで大人の組織だ。

 偉大な英雄ばかりで、素の口調だと失礼だからカッコいいヒーローを意識して、俺はキリっと背伸びして接している。


 大義である「人類の格差や断絶、貧困を無くすための『神の予定調和』の実現」には賛成しかない。だって、ババアやジョンみたいなモンスターは放って置いたら害悪でしかない。多かれ少なかれ人間はモンスターだ。俺も論外ではない。

 ホイホイ人を殺したり、大金を使ったり、人様の故郷を灰にしたり、散々な事をしてきた俺は本当にまともではない。


 だからこそ、俺より賢い先生たちの言う事はもっともだと思う。

 長い時間殺し合いをして来て分かった事だが、やっぱりいつか人類は過ちを犯すという確信はある。

 その前に神様にすがるのは決して悪ではない。俺たちが管理する新しい世の中も悪いものにはならんだろ。ババアもジョンも居ないもの。


 とはいえ、エル・シドにはさっき勢いで「おめでたい」なんて言ったけど、実はあいつの言う事がちょっと胸を掠めていた。『思いを託す』ってやつだ。


「俺、人生で何か残したっけ?」


 鬱陶しいくらいの陽気な午後の太陽とますます増えた観光客に、俺は少し居心地が悪かった。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

『続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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